年金の追納とは、失業等により所得が少ないために、国民年金保険料の免除等を受けていた人が、将来受けとることとなる年金受給額を増加させる制度です。

厚生労働大臣の承認をもらうことで、認められた日の属する月の月前10年以内の期間の保険料につき、その免除等を受けた期間分の全額または一部の額の保険料を納めることができます。

年金の追納って何? どのような場合に追納できる?

具体的には、全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除、保険料納付猶予(学生)等の制度を利用している場合に追納をすることができます。保険料納付の時効は、免除保険料と猶予保険料の場合には10年であるのに対して、未納保険料は2年となりますので注意して下さい。

また、保険料の追納では、以下の注意事項があります。

1.申請の一部免除の期間は免除された額を追納することができるが、免除の対象とならない部分の保険料(納付すべき保険料)を納付していない場合は、追納することができません。
2.老齢基礎年金の受給権者になった場合追納はできません。
3.一部につき追納する時、まず学生の納付特例、猶予期間について充当され、その次に全額免除又は一部免除期間の保険料に充当されます。

これらの保険料は、それぞれ先に経過した免除等の期間の保険料の分から順次に行われることとなります。保険料を追納する場合、追納に係る期間の各月の保険料の額に、一定額の加算額を上乗せされた額となるので注意が必要です。

ただし、追納する日が免除を受けた月の属する年度の翌々年度以内であるものは、加算されません。つまり、3年度目の保険料から一定額が加算されることとなります。

追納するとどんなメリットがある?

国民年金保険料の免除や猶予を受けていた期間について、追納を行うことにより、1.老齢基礎年金の年金額を増やすことができる。2.追納による国民年金保険料は、所得控除である「社会保険料控除(※)」に該当し、所得計算上の控除として取り扱われます。そのため、国民年金保険料を追納することで、所得税と住民税の税額を減額することができ、節税を行うことができます。

所得税については、それぞれの所得により段階的に5%から45%の範囲で、住民税については、一律10%により計算が行われることとなります。

(※)佐藤英明「スタンダード所得税法」(弘文堂2016)より参照

「社会保険料とは、健康保険、介護保険、労働保険、年金保険などが該当します。これらの保険料を控除する制度の趣旨は、保険料はその支払が強制されているのみならず、国民健康保険や国民年金保険などの保険料を除き給与等から天引きされるため、所得として実感されにくく、これらの支払にあてられた部分を課税対象とすると所得税の負担が重くなりすぎると懸念されることから、政策的に控除されているものと理解するほかはない」という説があります。

どのタイミングでどうやって追納すればいい?

国民年金保険料の追納ができる期間は、追納が承認された月の前10年以内の免除等期間に限られています。(例:平成29年4月分は平成39年4月末まで)また、保険料の免除若しくは納付猶予を受けた期間の翌年度から起算して、3年度目以降に保険料を追納する場合には、承認を受けた当時の保険料額に経過期間に応じた加算額が上乗せされますので、10年間遡って保険料を追納できるからと納付をおろそかにすると保険料の負担額が増えてしまいます。

よって、できるだけ早く年金事務所で申し込みを行うことをお勧めします。手続き方法は、最寄りの年金事務所で「国民年金保険料追納申込書」に必要事項を記載して申し込みをして下さい。納付方法は、納付書により支払をおこなうこととなります。口座振替やクレジット納付はできないので注意して下さい。

パターン別計算方法

「国民年金保険料を追納した場合の例」 課税所得金額が約300万円の場合 追納保険料額の年間合計が約40万円の場合は、所得税・住民税が約8万円減額されることになります。(所得税の税率10%、住民税の税率10%)

●全額免除期間が2年間ある場合の年金受給額(平成21年4月以降)
779,300円(満額)×「保険料納付済期間(月数)+保険料の免除月数×免除月の反映する割合」÷480(加入可能年数40年×12ヶ月)=1年間に受け取れる老齢基礎年金額

例)保険料納付期間が38年、2009年4月以降の全額免除期間が2年間の場合

779,300円×「456(保険料納付年数38年×12ヶ月)+(全額免除の月数24ヶ月×2分の1)」÷480=年額759,818円 779,300円-759,818円=19,482円(年間受給額)

つまり、2年間の国民年金保険料を追納することにより年間19,482円の年金受給額が増額されることとなります。

●納付猶予期間が2年間ある場合の年金受給額
779,300円(満額)×456(保険料納付年数38年×12ヶ月)÷480(加入可能年数40年×12ヶ月)=740,335円(満額より38,965円減額)

  • 日本年金機構HPより

保険料額一覧

  全額免除 4分の3免除 半額免除 4分の1免除 備考
平成20年度の月分 15,170円 11,380円 7,580円 3,790円
平成21年度の月分 15,260円 11,440円 7,630円 3,810円
平成22年度の月分 15,520円 11,640円 7,760円 3,880円
平成23年度の月分 15,310円 11,470円 7,650円 3,820円
平成24年度の月分 15,160円 11,360円 7,580円 3,780円
平成25年度の月分 15,130円 11,350円 7,570円 3,780円
平成26年度の月分 15,280円 11,460円 7,640円 3,820円
平成27年度の月分 15,610円 11,700円 7,800円 3,900円
平成28年度の月分 16,260円 12,190円 8,130円 4,060円 追納加算額はありません
平成29年度の月分 16,490円 12,370円 8,240円 4,120円 追納加算額はありません

※平成30年度中に追納する場合の保険料(日本年金機構HP参照)

3年度目以降に保険料を追納する場合には、承認を受けた当時の保険料額に経過期間に応じた加算額が上乗せされます。

著者プロフィール

塚本泰久
ツカモト労務管理事務所 代表社会保険労務士。
関西地区を中心に、地域に密着した事務所を目指しています。会計事務所出身であるという視点から、企業の宝である人財と企業会計のバランスに重点を置くことで、より強い企業の体制作りをサポートしています。「ツカモト労務管理事務所