6月10日よりWOWOWにてスタートする連続ドラマ『連続ドラマW 不発弾~ブラックマネーを操る男~』(毎週日曜22:00~ 全6話 1話のみ無料放送)で主演を務める椎名桔平にインタビュー。原作は『震える牛』、『血の轍』の相場英雄。7年間で1500億円もの不適切会計を発表した大手総合電機メーカーの裏で暗躍する一人の男と、彼を取り巻く人々の人間模様を描いた骨太の社会派ヒューマンサスペンスだ。椎名が演じるのは、主人公の金融コンサルタント・古賀遼。貧しい炭鉱町で育った古賀が、東京の証券会社に入社した後、ある出来事をきっかけに、欲深い人間たちを操るかのように、経済界の影の立役者にのし上がっていく。時系列が入れ替わるドラマで役を演じる難しさから、椎名流の役づくりの秘けつに至るまで、たっぷりと話を聞いた。

椎名桔平

椎名桔平

――『不発弾』の中には、日本の昭和から平成にかけての経済の歴史が詰まっています。古賀という人物は、まさに日本の経済のど真ん中を生きてきた人間だと思うのですが、椎名さんはこの物語のどのあたりに一番魅力を感じられましたか?

僕が一番楽しく読ませていただいたのは、やっぱり人間ドラマの部分ですよね。この作品は、とても高い次元で、社会派の金融ドラマの要素と人間ドラマの要素が組み合わさったドラマなんじゃないかと思いますね。

――古賀の第一印象は?

彼の「幸せではない生い立ち」にドキッとさせられましたね。3歳で炭鉱の事故で父親を亡くして、それ以降、母親も人が変わってしまい、幼い時期を妹と二人きりで過ごしてきた。そういった生い立ちの男がどんな大人になるのか、とても興味深いと感じました。古賀は学歴も素養もないはずなんだけれども、知り合った先輩方に助けられ、支えてもらいながら、金融の世界でいろいろ知恵を付けていく。その結果、最終的に大企業の裏で暗躍している立場に置かれるっていうのは、やはり彼の「人間力」のなせる業なんでしょうね。

――椎名さんが演じられるのは30代以降の古賀なんですよね。

若い頃の古賀は三浦貴大くんで、僕は29歳で入れ替わって、58歳までの約30年間を演じています。それぞれの時代背景とともに、自身の成長度合いも見つめながら演じなければ……。そんな高いハードルを、最初に脚本を読んだ時に感じましたね。かつて無いやり方ですが、でもその分やりがいもあるなと。原作同様、脚本上でも現代と過去を行ったり来たりするんですが、これ、撮影でも同じなんですよ! だから朝はちょっとヤングで(笑)、夕方は髪の毛にちょっと白いものを入れるとか。一日のうちに2~3回繰り返したりしますからね。メイクさんも大変ですけど、頭の中で整理するのも大変です(笑)。

――場面によって年齢が変わる役柄に対して、どのようにアプローチされているんですか?

難しいですよ~。さすがに普通じゃ出来ないんで、撮影に入る前にスタッフに頼んで年齢表を作ってもらって、「俺はいま●●歳なんだな」ってその都度確認しながら演じていました。でも、そういう意識を持つと、年齢に応じて相手に対する振る舞い方とか、言葉遣いなんかも不思議とスライドさせていけるし、そうなったときに初めて役に対する感情が乗ってくる。そういう意味で、いかに早い段階でそれが実行できるかが、今回僕がこの作品に取り組む上でのポイントになりましたね。

  • 黒木メイサ(左)は、古賀を追って不適切会計の真相を暴こうとする警視庁捜査二課管理官・小堀弓子を演じる

古賀遼という人間の興味深さと面白さ

――撮影を重ねていくうちに、椎名さんの中で古賀に対する印象が変わった瞬間のようなものはありましたか?

印象が変わるというか、あくまで「印象を変える」のは僕なんで(笑)。いやいやそれは冗談ですけど、コアな部分は変わらないんですよ。まぁ、自分で言うのもなんだけど、古賀という人間は、ある意味すごくピュアな部分も持ち続けている人物で、グレーゾーンの仕事にもずいぶん介入していくんです。見方を変えるとサクセスストーリーにも見えるわけなんですが、彼は決して自分のためにやってきたわけでもなければ、成功を楽しんでいる人間でもない。何とかして成功しないと、大事な人を助けることができない、というのがそもそもの始まりだったんです。年齢を重ねて、原田知世さん演じる村田佐知子さんという内縁関係の女性に出会ってからも、彼女が運営するNPOを支える立場になったりもするんです。いわば、お金に対してそれほど執着があるわけではない人間が、金融の世界で上り詰めていくわけじゃないですか。ここがね、今回演じる古賀遼という人間の興味深さというか、面白さというか。

――なるほど。もともとお金が行動の動機ではない、という人物は確かにめずらしいですね。

虐げられた貧しい時代から、お金持ちになってサクセスするというストーリーは結構ありますけど、彼の場合は綺麗ごとじゃなく、「もういらない」じゃなくて「もっともっといらない」んですよ。自分を飾らないで生きていける男のたくましさとか、精神力の強さとか、純粋さとか、古賀のそういった部分が、僕には非常に魅力的に映りましたね。

――とはいえ、その一方で台本には「富こそ正義」「どんな手段を使ってでも敗北してはならない」といったモノローグが出てきます。決して好きな仕事をしているわけではない古賀を、ここまで突き動かしているものとは何だと解釈されていますか?

人間関係だと思います。この物語は、僕のパートだけでも30年近く、若い頃を入れると40年くらいの長いスパンの話になってくるわけなんですが、人ってね、変わるんですよ。要するに、人間性が変わるわけじゃなくて、目標が変わったりするわけですよ。今この年齢の自分にしか見えない世界があったり、成長していく過程で全く違う世界が見えてきたりもする。若いときは非常に選択肢が少なくても、いろいろ経験したり成長したりするうちに、経済的なものも含めて選択肢が増えてくることはありますよね。若いときの古賀に見えている世界や価値観のなかでは、「いまはこうやって生きるしかない。お金を稼いで自分は次に向かうしかないんだ」っていう気持ちもあったのかもしれません。

――なるほど。

だけど、結局古賀がどういう人生を歩んできて、いま現在どういう風になっているかというと、彼はお金が全てだとは思っていないわけなんですよ。もちろん、それだけの長いスパンを演じられるから、あえてそういう言葉をモノローグで使っても、「観ていればそうじゃないってわかるよね」っていう、作り手側の自信もどこかにありますし、いろんな逆算も含まれてはいるんですけどね(笑)。そういう意味では、本当にこのドラマはチャレンジングな作品だと思いますね。