――演出面で変化を感じることはないんですか?

ええ、基本的には(笑)。映画の作り方も、基本的な部分では変わってないんじゃないですかね? もちろん、18本も撮っているわけですから、テクニックの部分では進化しているところも必ずあると思いますが。精神的な面は変わらないです。

  • 白竜

――その後は、『アウトレイジ ビヨンド』(12)に出演。北野組常連の役者さんは、あまり出ていない作品ですね。

そうですね。北野監督の映画は、俳優さんであればどんな役でも出たいと思うんですけど、僕はなぜこのポジションに呼んでくれるのか、いつも不思議なんです。よく分からない。そういう縁があるんだろうなとは思いますが。張会長役の金田(時男)さんともご縁がありまして。実は、僕の友人の先輩なんです。

白竜

――金田さんは、演技経験がない中での抜てきでしたね。

横浜でお食事させていただいた時に、きっかけをお聞きしました。一人で家に帰ったら誰もいなくて、テレビをつけたら松田優作さんのドキュメンタリー番組をやっていたそうです。それをずっと見ていたら、ふと「映画俳優をやってみたい」と。それで、監督に連絡をしてみたそうです。僕はそんな金田さんのナンバー2みたいな役。不思議な縁を感じますよね。

――『アウトレイジ 最終章』(17)では、すっかり名コンビの印象でした。中田(塩見三省)と花田(ピエール瀧)から慰謝料として渡された3,000万円を受け取らず、合計6,000万円にして突き返して。

はははっ! Vシネマでそういうシーンを撮って来ましたが、全然パンチきいてますよね(笑)。セリフにしても、監督は一体どこで勉強されているんだろうかと。シナリオライターも優秀な人はたくさんいるんですけど、やっぱりみんながイメージするような“ヤクザ”っぽく書こうとしちゃう。けど監督はそうではなくて、「得体の知れない人間」の描き方が本当にうまいですよ。

  • 白竜

継続が実った俳優業

――先ほど、仕事に対する「プロ意識」の話がありましたが、俳優業はどのあたりで「プロ意識」を実感するようになったのでしょうか。

島田紳助さん(2011年に引退)と2時間ぐらいのトーク番組でご一緒したことがあって、紳助さんから「白竜さんは歌手ですか? 役者ですか?」と聞かれた時に、「よく分からなくなっちゃって」と答えたんです。すると、紳助さんが「簡単ですよ。今、収入が多い方が本業ですよ」と。

「自分はロックミュージシャン」そんな逃げ道を作っていました。でも、これだけやってきたんだから、もう逃げられない。紳助さんとお話した時にそう思いました。

僕はせっかちなタイプで、進行が遅い監督だとたぶんイライラしてしまうと思うんです。でも、僕を使ってくださる監督はみんな早いんですよね。だから、良い監督は早いと僕は勝手に思ってます(笑)。たまにたくさん撮る方もいますけど、だいたい使うカットは決まってるんですよね。

  • 白竜

――俳優業との向き合い方も変わっていったんですか?

ありがたいことに……といっていいのか分かりませんが、同じようなキャラクターが多いんですよ。北野監督のおかげで、これまでVシネマは300本ぐらいやらせていただきました。半分ぐらいは主演です。その世界のシリーズものをずっとやっていくと、そっちの時間にかまけてしまう。脚本を読んで現場に行って、また次を読んで。それを十何年も繰り返して来たので……特別努力をしたような感覚はないんですよね。継続してきたものが今につながったというか。

――継続の先にあった北野映画。以前の3作と「アウトレイジ」シリーズで監督に変化はありましたか?

『その男~』で僕が遠藤憲一くんを刺すシーンは、実は雨の中での撮影でした。雨が降ったらだいたい映画はストップですよ。音の問題もありますから。でも監督は、「上にビニール張ってアフレコでいこう」とおっしゃったんですよね。セリフが変わっても、口の動きは分からないから大丈夫だと。普通の映画監督はそういうことやりません。たけしさんは、「せっかくみんな集まってるから、やっちゃおう」みたいな考えなんです。

たけしさんの映画は、歩くシーンがすごく多いでしょ? ヨーロッパあたりではそれが主流らしくて。「尺が短くて歩くシーンを増やしちゃった」とか冗談をおっしゃっていましたけど(笑)、きっとそこも監督ならではのこだわりなんだと思います。

  • 白竜

たけしさんが言うには、『血と骨』(04)。あれに出演されて以降、監督をする際少しだけカットを粘るようになったそうです。監督にとっては、崔洋一さんの丁寧な撮り方がきっと参考になったんでしょうね。『ビヨンド』や『最終章』でもそういうことを感じる場面がありました。丁寧というか、より深みが増したというか。カメラワークまで指示されているので、きっと脚本を書く時に自動的に頭の中で映像化されているんだと思います。だからその脚本に対して、「俺はこうやりたい」というような役者さんはきっと苦手なんじゃないですかね(笑)。

僕らは、「駒」なんです。監督はその「駒」を扱う人。キャスティングによって、自分は「歩」や「飛車」になります。いろんな監督がいると思いますが、たけしさんの場合はそんな感じです。

――以前、北野監督は「役者さんには委ねている部分が大きい」ともおっしゃっていたのですが、そんなことを感じるシーンは?

キャスティングでほぼ映画が決まるという監督もいらっしゃいますよね。特に北野監督の場合は名があってもなくても、自分のセンスを頼りに物事をお決めになる。起用される側は、撮影が進むにつれて自分の役がどんな役であるかを徐々に知って行くことになります。最初の作品から、監督はそういうことを全部分かって、撮っていらっしゃる。撮り方も、普通の映画監督が思いつかないような発想の持ち主です。北野組がここまで評価されるのは、今までの通念をくつがえして来た結果なのかもしれません。

※以下は映画の結末などネタバレを含んだ内容です。これから視聴予定の方はご注意ください。