東海道・山陽新幹線の開業後、長距離旅客列車は大半が新幹線へと移行し、京阪神間の在来線は、よりいっそう通勤通学路線としての性格が濃くなったものの、国鉄の腰は重かった。それが民営化されて積極策へと転じ、地元自治体もJR新駅を盛んに誘致。それがJR西日本の思惑とも一致して、ここ20年ほどの「新駅ラッシュ」となったわけである。

その思惑としては、阪急や阪神など「並行する私鉄への対抗」という面が、マスコミなどでは主に強調されている。確かに、京阪神間の大都市間輸送にかげりがみえてきたバブル崩壊後から、各社は中間駅からの利用客確保にも努力するようになった。その一環であるというのだ。

近接する阪急や阪神との「競合」が話題となった、さくら夙川駅

一面において、その考え方は間違ってはいない。顕著な例としては、さくら夙川駅がある。2007年に開業した際、その前年には、阪急が神戸線特急の停車駅に夙川を加えた。阪神本線では、香櫨園が朝ラッシュ時運転の区間特急の停車駅となった。いずれも、さくら夙川駅から歩いて10分もかからない場所にある駅で、両社ともJR西日本への対抗措置であることは明らかだった。

地域活性化こそ主眼

しかし、開業から約10年が経過しても、阪急や阪神が利用客を奪われ続けている様子はない。3駅の所在地である西宮市の統計書によると、阪急夙川、阪神香櫨園とも、乗車客数が2011年度の1年間で580万4000人(夙川)と199万8000人(香櫨園)であったが、2016年度は620万2000人と202万2000人と、近年はむしろ利用が伸びている。この数字は、さくら夙川駅開業前と比べても遜色ない。

一方、さくら夙川駅の乗車客数は、実質、開業5年目の2011年度が272万7000人。10年目の2016年度が294万4000人とこちらも順調で、ほぼ無から有を生んだ状況である。つまり、同駅はほかの鉄道から利用客を奪ったのではない。マンション広告で言う「2WAYアクセス」「3WAYアクセス」の効果が現れ、交流の活性化、ひいてはマンション開発など地域の活性化が行われたことによって、利用客が新たに現れたのである。JR西日本が真に狙うのは、こういうところではないか。

新駅が設置される場所は、何もほかの鉄道駅に近接するところとは限らない。甲南山手は阪急、阪神の駅からは離れた場所であるし、そもそも姫路地区の新駅は、いずれもJR神戸線と並走する山陽電鉄の駅から遠いなど、それぞれの地域事情がある。

駅ができれば交通が便利になり、定住人口も交流人口も増える。鉄道同士の「パイの奪い合い」があるというは、今日では極めて一面的な見方にすぎない。