「テスラ」という会社を知っている人は多そうだが、「テスラ車」はまだ、見かければラッキーといった感じのクルマだ。マスク氏がどんな人物かも気になるが、どんなクルマを作っているのかにも興味がある人は、リアル店舗に足を運びたいところだろう。しかし、日本にある常設店舗は東京・青山、大阪・心斎橋、愛知・名古屋の3カ所だけというのが現状だ。
そんな状況の中、テスラは横浜・みなとみらいにある商業施設「MARK IS」(マークイズ)に2018年6月10日までの期間限定ストアをオープンした。
なぜ、みなとみらいだったのか。カントリーセールスディレクターの吉田篤司氏は「単純に、日本で2番目の都市に拠点を設けるべきと考えて」と説明したが、同社広報の話によれば、横浜で暮らす人というのは、あまり生活圏の横浜から出ないで過ごしているとの見立てもあるそう。東京で待っていても来てくれないならば、こちらから出向こうというのも出店理由の1つらしい。ちなみに、人通りの多いところにリアル店舗を出店するのはテスラが世界共通で進める戦略だそうで、商業施設への出店もグローバルで見ると特に珍しいことではないという。
話せば分かる? 日本市場の特徴とは
吉田氏は自動車メーカーや高級ファッションブランドで経験を積み、現職には2018年1月に就任したそうだが、日本におけるテスラの可能性をどう見ているのだろうか。まず市場については「例えば中国と違うのは、マーケット自体が広がっているわけではないので、シェアの奪い合いというのが特徴の1つだ。そこは戦い方次第だと思う。コンサバティブと表現されることも多いように、(日本の消費者は)ある程度は証明されていて、面倒くさくないものを選ぶ傾向にある。これはファッション業界にいたときにも思っていたことで、あらゆる消費財にもいえる」(以下、発言は吉田氏)との見方を示した。
では、そういう日本市場でテスラ車をどうやって売るのか。
「電気自動車(EV)のあるライフスタイルというものが想像のついていない人には、選択肢にならないという側面は事実としてある。そこをきちっと伝えていけば、オーナーはどんどん増えると思う」
「謙虚に、EVのあるライフスタイルというものを、出向いていって説明して、試乗してもらう。これを繰り返すのが大事。今回の出店も『出向くこと』の一環で、こういうやり方は今後も続けていく。(日本には)冒険する消費者も一定の割合でいるが、そこはすぐに一巡してしまうので、EVが普通のクルマであり、当たり前の“クルマ生活”が送れるということを理解してくれる人を増やすのが使命」
ただ、日本でEVを売ることにはジレンマも感じるという。
「テスラが目指す究極の姿は持続可能なエネルギー(で成り立つ社会)だが、日本の場合は90%が化石燃料なので、そういったエネルギーをクルマに入れても、汚れたエネルギーで走ることになってしまう」
ただし、「日本の自動車保有台数は約7,000万台といわれ、これを全てEVに変えるのには長い時間を要するが、日本の大型の発電所が、火力から水力などの持続可能エネルギーに入れ替わるのは、クルマ(の入れ替わり)より早いかもしれない。そのとき(日本で持続可能エネルギーの使用が十分に普及したとき)、テスラとしても、きちっとマーケットシェアを取っておかないと、持続可能エネルギーによるクルマ生活というものに貢献できなくなってしまう」ので、ジレンマはあるものの、EV普及に取り組みたいというのが吉田氏の考えだ。
テスラモーターズジャパンでは今後もリアル店舗を拡充していく方針だが、「ただ増やすために増やす」のではなく、「正しい場所に正しいタイミングで」出店するのが基本だそうだ。