朝起きてすぐベッドの中で、通勤電車の中で、お昼休み中に、帰りの電車の中で、寝る直前まで…… 毎日暇さえあればSNSを見ているという人、結構多いのではないでしょうか。有名人の私生活を垣間見たり、なかなか会えない友人の様子を知ることができたり、SNSにより私たちの世界が大きく広がりました。

その一方で、リッチな投稿を見て自分の生活が惨めに感じたり、自分の投稿に反応がなくてもどかしく思ったり、SNSを見なければ感じることがなかった感情に、心が疲れてしまう人が増えているという事実も。そこで、神奈川大学人間科学部教授で心理学者の杉山崇氏にSNS疲れについて聞いてきました。

  • SNSデトックスのススメ

    SNS疲れ、していませんか?

SNS疲れとは?

杉山崇教授によると、「自分の投稿に誰もリアクションをしてくれない、『既読スルー』に代表される無視されている感覚で、人から拒絶されていると感じると脳が危険信号を発信する状態になります。この状態は疲労感を生むことが分かっています。一言で言うと、『人から拒絶されるリスク』に疲れていると言えるでしょう」とのこと。

直接会って話をしていれば、自分の発言に対して相手から何かしらの反応があるというのが当たり前ですが、SNS上では必ずしも自分の投稿に誰かがアクションしてくれるとは限らないですよね。このSNSの「既読スルー」によって、SNS疲れが生まれているということです。つまり、SNSをあくまで「備忘録」や「ひとりごと」の感覚で使っている人には、SNS疲れというものは起こりにくいのです。

なぜ疲弊してまでもSNSを見てしまうのか

「SNSの投稿に好意的なリアクションがあると、プレゼントをもらったりおいしいものを食べたりした時と同じように、脳の中では快楽物質が分泌されます。人は人の好意で心地よくなるように作られているのです。この快楽が癖になってSNSをやめられなくなります」と杉山教授は語ります。

「SNS映え」という言葉をよく聞きますが、SNSに投稿してみんなに見てもらう、より多くの人にSNSでリアクションしてもらう、ということが生活の中で重要な価値観となっている人も多く、「いいね」やフォロワーをお金で買う、というサービスも存在するほどです。

SNSで多くの人がリアクションしてくれるのを見て満足感を得られる一方で、なかなかリアクションが増えないことに対する不満、自分よりも多くのリアクションを獲得している友人への嫉妬など、SNSが原因でストレスが生じるのも事実です。

SNSをお休みしてみる

そんなSNS疲れに悩む人に是非オススメしたいのが、「SNSデトックス」。その名の通り、一定期間SNSの利用をやめてしまう、という方法です。毎日SNSを見るのが習慣になっているという人にはかなり抵抗があるかと思いますが、まずは1日、SNSを開くのを我慢してみてください。

もしそれで、「心が軽くなった」「イライラが減った」と感じられるようであれば、あなたもSNS疲れしている証拠。可能であれば、デトックスの期間を数日から数週間と延ばしていってみましょう。「友人の近況報告を見逃してしまうかもしれない」といった心配もあるかもしれませんが、本当に大切な友人なら、SNSでなくとも直接会ったりメールをしたり、つながっている手段は他にいくらでもあります。

例えば、仕事で追わなければならないアカウントがある、どうしても好きな芸能人の投稿は見逃せない、という人は、別で閲覧用のアカウントを作って必要なアカウントだけをフォローしてください。ここで注意してほしいのが、そのアカウントでは友人知人はフォローせず、自分から投稿もしない、ということです。

SNSデトックスの弊害

SNSを生活からいったん切り離してストレスをデトックスする「SNSデトックス」ですが、デメリットなどはあるのでしょうか。

杉山教授によると、「疲労は軽減できると思いますが、人の好意をもらって上機嫌になれるチャンスを減らすことでもあります。人には『見ていてもらえると頑張れる』という面もあるので、日々がつまらなくなったり、張り合いがなくなったりということが考えられます」とのこと。

自分にとってSNSがどういった役割を果たしているのか、一度しっかりと考え直してみてもいいかもしれません。そして、SNSに振り回されている、疲れている、と感じる人は、是非一度「デトックス」してみることをオススメします。

杉山崇先生プロフィール

人を幸せにしたいという思いから心理学研究者の道に。神奈川大学人間科学部教授として教鞭をとる傍ら、臨床心理士の見地から心の悩みの相談を受ける。また、心理相談センター所長として後進の育成に従事している。一級コンサルティング技能士の資格を持ち、社員のメンタルヘルス対策を考える企業の相談にも対応。 著書に『読むだけで、人づきあいが上手くなる。』『グズほどなぜか忙しい!』他多数。近著『「どうせうまくいかない」が「なんだかうまくいきそう」に変わる本』『ウルトラ不倫学』『心理学者・脳科学者が子育てでしていること、していないこと』。講演、TV出演等で心理学の可能性を広げている。