産声をあげてから25年を迎える2018シーズンのJリーグが開幕した。注目される選手の一人、古巣・鹿島アントラーズへ約7年半ぶりに復帰したDF内田篤人(前ウニオン・ベルリン)は、今月14日に行われた上海緑地申花(中国)とのAFCチャンピオンズリーグ(ACL)グループステージ初戦で、右サイドバックとして約5カ月ぶりに先発フル出場。古傷である右ひざの不安を吹き飛ばし、清水エスパルスの敵地に乗り込む25日のJ1開幕戦への臨戦態勢を整えた。

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    内田篤人

■約5カ月ぶりの先発フル出場で募らせた思い

ピッチの上でキックオフと試合終了を告げるホイッスルをともに聞くのは、昨年9月19日以来だった。約5カ月前はブンデスリーガ2部のウニオン・ベルリンの右サイドバックとして、内田篤人はドイツ南部に位置する敵地でSVザントハウゼンと戦っていた。

もっとも、昨夏に移籍したウニオン・ベルリンでの公式戦出場は、この試合が最後となる。古巣である鹿島アントラーズへ、約7年半ぶりに復帰することが決まったのが年明け早々の1月2日。宮崎キャンプなどを経て2月14日を迎えた。

上海緑地申花(中国)をカシマスタジアムに迎えた、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)のグループリーグ初戦。残念ながら1‐1のドローに終わったが、右サイドバックで先発フル出場を果たした内田は表情に充実感を漂わせていた。

「練習試合とかはやっているけど、お客さんが入った公式戦は久しぶりだったからね。自分としてもちゃんとできるのかな、というのがあったけど、思ったよりもいけたね。やっぱりタフさが違うわ、向こうは。まったく緊張もしなかったし、言葉もわかるのですごく楽しかったよ」

向こうとはドイツのこと。4年半プレーした鹿島アントラーズから旅立ったのが2010年7月。古豪シャルケ04の右サイドバックとして、ブンデスリーガ1部やUEFAチャンピオンズリーグなど150試合以上を戦い抜いてきた濃密な経験はしっかりと生きていた。

たとえば気候。ドイツのこの時期は極寒で、指先の感覚を守るうえで手袋は試合に欠かせないアイテムとなる。しかし、上海緑地申花戦ではキックオフ早々に外してベンチへ投げ込んでいる。

「そんなに寒くないな、って。いろいろな方のサポートがあって、ここまで来られた。自分でも未知な感じがあったけど、とりあえず1試合終わってホッとしている。ただ、これで復帰なんて全然言えないからね、オレの場合は。まだまだ先。Jリーグも開幕していないしね」

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■若手選手たちと築かれつつあるコンビネーション

アントラーズの一員として公式戦のピッチに立つのは、2010年5月12日以来となる。前回は浦項スティーラース(韓国)とのACL決勝トーナメント1回戦で、場所も同じカシマスタジアムだった。

もっとも、当時所属していた選手でいまもプレーしているのはわずか3人。キャプテンのMF小笠原満男と守護神・曽ヶ端準の1998年組と、内田と同じ1988年に生まれたMF遠藤康しかいない。

上海緑地申花戦で、小笠原はベンチで戦況を見守った。曽ヶ端と遠藤は先発したものの、親しみを込めて「ヤス」と呼ぶ後者とは、前回在籍時にはほとんど一緒にプレーしていない。

まったく新しいチームでプレーしたなかで、発見できたこともあった。日本代表にも選出されている、昌子源と植田直通のセンターバックコンビが放つ存在感は強烈だった。

「ゲン(昌子)とナオ(植田)はやっぱり強いよ。センターバックがよくないと、サイドバックの選手はゴール前へ入っていけないからね。ボランチのケント(三竿健斗)もボールをよく拾えるので、そこは信頼して、後半はだいぶ守備をさぼらせてもらったけど」

守備をさぼるとは、積極的に攻撃に参加したことを意味する。後半アディショナルタイムにはFW鈴木優磨とのワンツーから上海ゴールに迫り、ペナルティーエリアに入ってから右足を一閃。相手GKの美技に防がれたものの、強烈なシュートを放ってスタンドをわかせた。

「みんな上手いから、やっぱりオレは使われる選手だなと思ったけど、ユウマ(鈴木)のことは使おうかなと。ユウマは思い切りもいいけど、ああやって周りを生かすところもいいね。でも、ちょっと働きすぎかな。点を取りたいのなら、もうちょっとさぼることを覚えたほうがいい」

昌子は25歳。植田は23歳。そして、三竿と鈴木はともに21歳。自身が留守にしている間に加入した若手たちと築かれつつあるコンビネーションに、内田の言葉も弾んだ。

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■小笠原満男からバトンを託されるリーダーとして

痛めていた右ひざにメスを入れたのが2015年6月。回復が長引いたこともあり、術後はドイツの地で3試合にしか出場することができなかった。必然的にさまざまな不安がつきまとう。

「ひざに関しては普通に練習もしていますし、見ている皆さんはどう思っているかわかりませんけど、オレ自身はどんどんよくなっているという気がしている。個人的な部分ではゲーム体力とか、ボールタッチとか、クサビを入れるパスというのはある程度戻ってきているのかなと」

内田を復帰させたのは、戦力強化だけが目的ではない。38歳の小笠原が握っている、常勝軍団の伝統が凝縮されたバトンを誰に託すのか。2007シーズンから達成した前人未踏のリーグ戦3連覇を知る内田は、いつかはアントラーズで、という思いを抱いていたことも含めて打ってつけの存在だった。

ホームでの引き分けに、チームメイトたちが少なからずショックを受けていた上海戦後には「やり方は全然間違っていないし、変える必要もない。胸を張っていこう」と内田が檄を飛ばしている。ドイツへ渡る前には見られなかった立ち居振る舞いと言っていい。

果たして、敵地で21日に行われた水原三星ブルーウィングス(韓国)とのACL第2戦は2‐1で勝利した。清水エスパルスの敵地に乗り込む25日のJ1開幕戦をにらみ、遠征には帯同しなかった内田の言葉がしっかりと生かされていた。

「これからは小さな筋肉系のけがとかがあると思うよ。そういうのを適当にごまかしながら、やっていくのかな。まあ、これだけ長く休んでいた選手はいないと思うから、長くけがをした選手はこれからオレを参考にしてほしいね」

手応えが深まりつつあるからか。自虐的なジョークで周囲を笑わせた内田は、こんな言葉も紡いだ。

「本当にいい選手が多い。いいチームに来たよ」

2010年5月5日のセレッソ大阪戦以来となるJ1の舞台へ。凱旋へのカウントダウンが始まった。

■筆者プロフィール
藤江直人(ふじえ なおと)
日本代表やJリーグなどのサッカーをメインとして、各種スポーツを鋭意取材中のフリーランスのノンフィクションライター。1964年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。スポーツ新聞記者時代は日本リーグ時代からカバーしたサッカーをはじめ、バルセロナ、アトランタの両夏季五輪、米ニューヨーク駐在員としてMLBを中心とするアメリカスポーツを幅広く取材。スポーツ雑誌編集などを経て2007年に独立し、現在に至る。Twitterのアカウントは「@GammoGooGoo」。