なんて危険なキャスティングなのだろうか?

それが白石和彌監督作品の映画『サニー/32』(2月9日新潟・長岡先行公開/2月17日全国公開)の出演者を知った時の第一印象だ。

  • 『サニー/32』

    『サニー/32』

同級生をカッターナイフで刺殺し、「犯罪史上、最も可愛い殺人犯」とネット上で神格化されてしまった当時11歳の少女“サニー”。事件から14年目に人気アイドルグループNGT48の北原里英演じる中学校教師・藤井赤理が、24歳の誕生日に拉致監禁されてしまう。彼女を“大人になったサニー”と信じ込み襲う2人組には、白石作品の『凶悪』でいつ何時誰にでもぶっこんじゃう最凶コンビが話題となったピエール瀧とリリー・フランキーが再タッグを組んでいる。さらにこれに加えて、“ネット上に現れた二人目のサニー”として、白石監督いわく「真のパワーファイター」で知られる女優・門脇麦をぶつけてくるわけだ。

AKB48でデビューして、現在はNGT48チームN IIIのキャプテンを務める、いかにも王道アイドル的な風貌とキャラクターを持つ“きたりえ”こと北原里英は、アイドルグループという幻想溢れるファンタジーの世界観の中で戦い続けてきた。対する門脇は時に一糸まとわぬ体当たり演技も辞さない若手女優界随一のガチンコファイターである。

「ごちゃごちゃ言わんと誰が一番強いか決めたらええんや!」と言ったのは全盛期の前田敦子ではなく前田日明だったが、まさに北原がプロレスラーなら、門脇は総合格闘家みたいなものだ。年齢もわずか1歳差と同世代で、このマッチアップは危険すぎる。一歩間違えば、まったく噛み合ないドラゴンストップ必至の潰し合いになってしまう。果たして、映画として成立するのだろうか?

結果的に大成功である。『サニー/32』は危険な賭けに勝った。ただ、もし全編を通して北原と門脇がシュートマッチでやり合っていたら観客の神経も疲れ果ててしまったと思う。そこで緩衝材としての役割を果たすのが、ピエール瀧とリリー・フランキーの日本映画界が誇る悪役コンビだ。

物語序盤は豪雪地帯の閉じられた部屋で監禁される藤井に対する、凶暴な中年男性の柏原勲(ピエール瀧)と小田武(リリー・フランキー)を中心としたグループのサニーへの歪んだ愛情を軸に進む。

ここで、柏原や小田を滑稽だと笑うのは簡単だが、何かを好きになるという行為は、多かれ少なかれ“過剰すぎる片想い”である。握手会で会うアイドル、球場でサインを貰うプロ野球選手、ただそれだけの行為でファンは幸せな気分になれる。しかし、そこからさらに踏み込んで、自分だけは彼女のことを分かっているとか、これだけ好きで時間とカネを注ぎ込んでいるのになんで応援しているチームは勝ってくれないのか……なんて思い出したら、それはファンではなく、ストーカーへの危険な第一歩だ。

物語中盤で柏原グループのサニーに対するその一方的な片想いが揺らぐ瞬間がある。24歳の女教師・藤井に対しての、「この娘は本物のサニーなのか?」という疑惑である。突如ネット上に現れた“二人目のサニー”門脇麦の圧倒的な存在感の前にリアリティを失う藤井赤理。そうして、北原里英と門脇麦のシュートマッチ……いやピエール瀧とリリー・フランキーも交えた何でもありのバトルロイヤルのゴングが打ち鳴らされる。国民的アイドル、新進気鋭の女優、ミュージシャン、イラストレーター兼作家とそれぞれ異なるバックボーンを持った俳優陣が『サニー/32』というひとつのリングでやり合う。

いったい誰が誰と戦っているのか、物語はどこへ着地するのか、観客は一瞬たりとも目が離せない。ちなみにあるシーンの感情を解放した門脇麦が、“涙のカリスマ”こと往年の大仁田厚に見えたことも付け加えておこう。

4月の卒業公演をもってNGT48を卒業する北原里英だが、この映画は“きたりえ”の向こう側の世界へ飛び込む意志と覚悟を感じさせてくれる作品だった。アイドルから、女優へ。

いつの時代も、女優はリアルとファンタジーの狭間に存在するのである。

  • 『サニー/32』
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(C)2018『サニー/32』製作委員会