スズキが昨年12月25日に発売した新型「クロスビー」。同社が展開する軽自動車「ハスラー」のイメージを色濃く踏襲した同車両は、ステーションワゴンの広い室内空間とSUVの楽しさを融合させた“小型クロスオーバーワゴン”という新ジャンルを提唱している。果たして、同車両は新たなジャンルを牽引しうる1台となるのかどうか。実際に試乗し、チェックしてみた。

  • クロスビー「HYBRID MZ」(4WD/ボディカラーはミネラルグレーメタリック 3トーンコーディネート)

    クロスビー「HYBRID MZ」(4WD/ボディカラーはミネラルグレーメタリック 3トーンコーディネート)

「クロスビー」と「ハスラー」の違いとは?

まずは同車両のルックス。“ミニハスラー”と呼ばれるように、2014年のデビュー以来、現在でも高い人気を維持し続けている同社の軽自動車「ハスラー」のデザインを引き継いでいるように感じる。しかし、細部を見ていくと「ハスラー」と異なる部分も多く、きっと軽自動車の枠がなかったら「ハスラー」はこうしたかったのかな、と感じさせる点が多く見られた。

ボディカラーは11色が展開され、ディーラーオプションとしても多くの内外装パーツが用意されている。自分らしい1台を作り上げる楽しみもあり、「クルマって楽しい」と思ってもらえる車両に仕上がっているという印象だ。

  • 車体寸法は、全長3

    車体寸法は、全長3,760×全幅1,670×全高1,705mm

今回試乗したのは、上級グレードである「HYBRID MZ」の4WD車。ボディカラーはミネラルグレーメタリック3トーンコーディネートで、4万3,200円がプラスされるカラーだ。それに全方位モニター用カメラパッケージのメーカーオプション(4万5,360円)が付いて、車両価格は223万4,520円となる(ナビなどは含まない価格)。

前述したように“ミニハスラー”と言われることもある「クロスビー」だが、過去にスズキからリリースされた軽自動車ベースの普通車とは異なり、普通車用のプラットフォームを使用している。そのため、実際に乗ってみた印象は「ハスラー」よりもワンランク上のしっかりした乗り味が感じられた。

「ハスラー」のプラットフォームは一世代前のものを使用しているため、若干フロア剛性が足りない印象があるが、軽量・高剛性の新プラットフォーム「HEARTECT(ハーテクト)」を採用したクロスビーでは、4WD車でもジャスト1tという軽量ボディとは思えないドッシリとした走り味を感じることができた。剛性が高いことでサスペンションも良く動いているようで、乗り心地も明らかに格上と言える。

  • K10C型ブースタージェットエンジン

    K10C型ブースタージェットエンジン

搭載されるエンジンは、全グレード共通の1リッターターボにマイルドハイブリッドを組み合わせたもので、スペック的には1.5リッターNAエンジン車と同等のパワーを実現している。ターボと言えど、最大トルクを1,700~4,000rpmという低い回転から発生させるためクセもなく、言われなければ(言われても?)ターボとは分からない自然な仕上がりとなっている。

組み合わされるミッションもこのクラスでは珍しく、CVTではなく6速ATがおごられており、パドルシフトも標準装備となっているためスポーティな走りを楽しむことも可能。特に4WD車に用意されるスポーツ・スノーモードの切り替えで大きくエンジンの特性が変わるため、スポーティな走りを楽しみたいときは、スポーツモードに切り替えるとさらに活発に走ることができるだろう。さすがに絶対的な速さはないものの、日常的な使用で明らかなパワー不足を感じることは少ないだろうという印象を受けた。

遊び心と使い勝手を両立した内装

  • エクステリアとカラーコーディネートされたシートも大きな特徴

    エクステリアとカラーコーディネートされたシートも大きな特徴

内装はというと、「ハスラー」と同じく遊び心がふんだんに散りばめられている。もちろん遊び心だけではなく、使い勝手への配慮も◎。スマートフォンやティッシュボックス、ドリンクを便利に収納できるスペースも多く用意されている。また、「HYBRID MZ」にはリアシート用のパーソナルテーブルが備わっており、後部座席での快適性が向上しているのもハスラーにはないポイントだ。

  • 折りたたみ格納式のパーソナルテーブルが後席左右に

    折りたたみ格納式のパーソナルテーブルが後席左右に

シートは、SUVテイストの見た目に反してソフトな座り心地。といっても柔らかすぎるわけではなく、サイズも思いのほかたっぷりしているため、長距離ドライブでも疲労感は少なそうだ。さらに、フロントシートにはシートヒーターが標準装備されるのも嬉しいところ。寒い時期はエンジンが温まって温風が出てくるまで時間がかかるため、スイッチオンで即暖かくなるシートヒーターはマストアイテムと言える。

  • 日常からアクティブなシーンまで幅広く対応するラゲッジスペース

    日常からアクティブなシーンまで幅広く対応するラゲッジスペース

一方、ラゲッジルームはワゴンと言うにはやや狭小。リアシートを後端まで下げてしまうと、124L(VDA方式)しかないのだ。同社が取り扱う「スイフト」の265Lと比べると、約半分の数値である。もちろん「スイフト」よりボディサイズが小さいということも加味しなければならないが、ワゴンとしてはオススメしにくいところ。

しかし、写真のようにリアシートを倒せば、ラゲッジスペースは一気に520Lまで拡大する。「HYBRID MZ」であれば、さらに防汚タイプラゲッジフロアとなるため、濡れたものや汚れたものも躊躇なく積むことが可能だ。つまり、フル乗車のときはSUV、リアシートを畳めばワゴンとしても使える、ということを意味しているのだと好意的に解釈しておこう。もちろん購入する場合は、実際に使用するイメージをしっかり持って選ばないといけないだろうが……。

  • スズキの小型車では初となる後退時ブレーキサポート、後方誤発進抑制機能を搭載

    スズキの小型車では初となる後退時ブレーキサポート、後方誤発進抑制機能を搭載

もはや必須の装備となりつつある自動ブレーキなどを含む先進安全装備は、もちろん「クロスビー」にも用意される(「HYBRID MZ」に標準装備、「HYBRID MX」にメーカーオプション)。デュアルセンサーブレーキサポート、誤発進抑制機能、ハイビームアシスト、車線逸脱警報機能、ふらつき警報機能、先行車発進お知らせ機能のほか、後退時ブレーキサポートと呼ばれる後退中の自動ブレーキがプラスされており、後方誤発進抑制機能と併せて、ペダル踏み間違い時の事故抑制に効果を発揮してくれそうだ。

  • コンセプトは「一緒に毎日の楽しさを広げていきたくなる“愛すべき相棒”」

    コンセプトは「一緒に毎日の楽しさを広げていきたくなる“愛すべき相棒”」

ということで、新ジャンルの“小型クロスオーバーワゴン”として登場した「クロスビー」。相対的にかなりよくまとまっている小型車であり、軽自動車のイメージの延長線上にあるクルマではないという印象が残った。しかし、あまりに「ハスラー」のイメージに引っ張られているため、“デカハスラー”だと判断してしまうユーザーがいるのではないかという危惧も抱いてしまった。

発表会などでは頑なに「ハスラー」との関連性を思わせる発言をしていないメーカーだが、ここは潔く「ハスラー」のイメージを踏襲しつつも全く別のクルマに仕上がっているという部分をアピールしてもいいのではないだろうか。食わず嫌いの人がスルーしてしまう可能性があるのは非常にもったいない。このクラスの車両を検討している人がいるならば、ぜひ先入観を捨てて試乗してみることを強くオススメしたい。