街でよく見かけるポルシェのSUVといえば「カイエン」だが、実は販売台数でいくと、カイエンより小さくて、カイエンに比べれば価格の安い「マカン」の方が売れていると知って、少し驚いた。ポルシェジャパンではマカンの認知度を上げるべく、六本木ヒルズに期間限定で「Macan Valentine Cafe」というカフェ施設をオープンするなど、施策を展開中。このクルマはポルシェジャパンにとって、客層拡大に欠かせない商品となりつつあるようだ。
ポルシェで存在感を増すSUVセグメント
ポルシェが日本市場に「カイエン」を導入したのは2002年のこと。スポーツカーメーカーのポルシェだけに、「SUVを作ることには懐疑的な意見もあった」とポルシェジャパンの七五三木(しめぎ)敏幸社長は振り返るが、「SUVであってもスポーツカー」という独自のコンセプトが多様化する顧客のニーズに合致し、それが評価につながったことで、販売台数が増えていったという。「ラグジュアリーSUVセグメントで真のスポーツカーであり続けるカイエンは、ポルシェの典型ともいえるパフォーマンス、高い快適性と実用性に加え、独自のエレガンスを融合した唯一無二の存在」と七五三木社長は定義する。
「マカン」が日本にデビューしたのは2014年だが、その後はカイエンよりも売れる車種となり、現状ではポルシェジャパンの販売台数のうち、全体の4分の1くらいがマカンなのだという。カイエンの方がよく見かける印象なのはなぜかといえば、単純にカイエンの方が販売期間が長く、総台数が多いからというのが理由のようだ。
デビューにぴったり? ポルシェにとって重要な「マカン」
ポルシェジャパン広報部の塚原久部長によると、カイエンより安く、より小さいだけでなく、その走りのシャープさもマカンが日本で受けている要因とのこと。このクルマでポルシェデビューを果たす人も非常に多いそうで、中には「911」のことすらよく知らないような、いわゆるクルマ好きのポルシェファン以外の新たな顧客もいるそうだ。
コアなファンとは逆の方面にいる、潜在的な顧客にポルシェを知ってもらうのにうってつけなマカン。このクルマをフィーチャーしたカフェをオープンするのも、新規顧客とのタッチポイントとしての機能を期待してのことだろう。「ここから入って、ポルシェの別のモデルにも興味も持ってもらえればベストかな」と塚原部長も話していた。
超高性能エンジンを擁するスポーツカーメーカーというのがポルシェのコアな立ち位置であり、その路線で手を抜くつもりはないものの、一方で、固定化したイメージからの脱皮を図っているのも現在のポルシェの姿だと塚原部長は語る。一度目の脱皮がカイエンによるSUVセグメントへの参入であったとすれば、現在は二度目の脱皮の最中というのが同氏の見立てだ。二度目の脱皮を迎える現在は“クルマの電動化”が進む時期とも重なっており、ポルシェでも電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の準備に余念がない。ポルシェ初の100%EVである「ミッションE」は2019年にもデビューを果たす見込みで、将来的にはSUVの電動化も計画しているという。
SUVを作ったりクルマを電動化したりするのは、ポルシェがイメージチェンジを図り、新たな顧客との接点を作ろうとする思いが端的に現れた動きといえる。ただ、ポルシェデビューがSUVであろうとEVであろうと、ポルシェへの愛情が深まれば、「911」のようなクルマに乗り換えることもできる。これはポルシェならではの強みだろう。