――ブルゾンさんの名前が出てきたので、ワタナベエンターテインメント会長としてのお話も伺っていきたいのですが、2017年は"ナベプロの年"と言えるくらい、ブルゾンさんを筆頭に平野ノラさんやサンシャイン池崎さん、にゃんこスターさんなど大活躍でしたね。

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ブルゾンちえみ

うちの力は大したことはないですよ(笑)。大勢の方の力のおかげで、少しはお笑い芸人も出てこられてます。

――『女芸人No.1決定戦 THE W』決勝戦(日本テレビ)の副音声で、松本人志さんが「ミキさん(渡辺ミキ社長、吉田氏の妻)がすごいらしい」と言っていましたが。

そうなの? 活躍と言っても『M-1グランプリ』の決勝にうちからは誰も残ってないからね。でも『M-1』っていうのは日本一の漫才師を決める番組であって、お笑いスターを作る番組じゃない。日本テレビは『THE W』では、テレビの中のスターを発見しようとしています。「なんで女性だけ?」とか、いろんなことを言われるけど、テレビで面白い人を探してるだけなんですよ。別にうまい女芸人を求めているわけじゃない。オーラを持っていてテレビで面白い女芸人を求めている。そこが日本テレビが力のあるところで、素材があれば自分たちが結果を出せると思っていらっしゃると思いますよ。

うちは、なんばグランド花月のような劇場もないし、今いくよ・くるよ師匠もいないし、笑福亭仁鶴師匠も桂文枝師匠もいない。そういう会社の中で、芸人濃度が高くて漫才が上手い人ができるわけがないから、それを目指したら苦労します(笑)。渡辺プロダクションはテレビとともにミュージシャンの気持ちで発展していった会社。ザ・ドリフターズもクレイジーキャッツも、元々は音楽をベースにしてる。"芸人100%"を目指してないというのが、他の事務所と価値観の違いとして出てきているんじゃないかと思います。違うジャンルを探している。イモトアヤコは「芸人」ですかね? 笑いを取りに行ってるんですか? 彼女の生き方自身が作品になっているんです。人間性自体が魅力で、だから女優をやってもオンリーワンができるのだと思っています。

――もともと「ザ・芸人」を目指していないんですね。

芸人濃度100%でなくていい。むしろ本来のエンターテイナーになるんだってことです。芸人っていうのはエンターテイナーのごく一部のジャンルです。歌手や俳優であっても、全員がそうでその中のどの部分をやるか。ブルゾンはブルゾンそのままでいいと思うんです。これは僕の見方であってワタナベエンターテインメントの公式見解じゃないですけど(笑)

芸人育成で大切なのは"補助線"

――いま、事務所の中で注目している若手は誰ですか?

Aマッソですね。(放送作家の)倉本美津留さんから「Aマッソ来ますよ」って言われて久しいんですけど(笑)。『M-1』の敗者復活はブービー賞だったでしょ。Aマッソなんかは上手い下手が「分からない」って言う方向で貫き通したほうがいい。彼女らは、笑いの価値の革命家なんですよ。今までのお笑いのセンスを変える人たちっているじゃないですか。そういう種族なんです。もう1組、『M-1』準決勝に出た笑撃戦隊っていうのも、価値とか仕組みを変えようとしてるんだけど、当たり前なんだけど、完成された漫才の形にはひとたまりもなく跳ね返されてる。素人から見ても、和牛やとろサーモンのほうがうまい。同じ土俵でやったら負けるに決まってるのよ。

だから戦い方を考えなければならない。戦い方さえ変えれば、オンリーワンになれますよ。まだ伝わらないかなー(笑)。若手の四千頭身も違う意味でオーラがありますね。彼らも漫才・コントの上手い下手とは関係なく、着想の新しさや時代の変化として伸びてゆくと思います。『THE W』の中村涼子はすぐさま、『イッテQ』などに出れば、ちゃんと仕事できると思います。やっぱり良いスタッフやクリエイターとの掛け算。言うよりは、なかなか難しいけれど(笑)、それが大事だと思います。

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    Aマッソ

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    笑撃戦隊

――ワタナベのスクールではどのような育成をされているんですか?

「つぶさない」ってことでしょうね。ダメ出しはその人を否定しない。スクールで一番いけないのは、先輩芸人が講師をやること。自分の笑いの思想や考え方があるから「おまえのお笑いは間違ってる!」って言っちゃう。それは「それぞれ」でいいんですよ。こちらが教えてあげるべきなのは、そこの先に道が続いているのか、いや、これは行き止まりだよっていうヒントなんですよ。

だから、そういうプロデューサー的視点は、ワタナベのスクールにはあると思いますね。大切なのは"補助線"なんです。もし、花月で先輩芸人を舞台袖で見て学べというのがよしもとのやり方であるならば、自分の中にあるエネルギーを補助するっていうのが、ワタナベ的なやりかた。型にはめない。うちの社長が「100人いれば100通りのプロデュース」っていうのはそういうことで、"芸人道"に陥らないところが、弊社の「もう1つの明るさ」なんじゃないでしょうか(笑)

著者プロフィール
戸部田誠(てれびのスキマ)
1978年生まれ。テレビっ子。ライター。著書に『タモリ学』(イースト・プレス)、『コントに捧げた内村光良の怒り』(コア新書)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮新書)などがある。