マツダの新世代商品群に、ミニバンはない。“Be a driver”のフレーズと共に、運転を楽しむための“Zoom-Zoom”なクルマづくりをマツダが目指した結果、ミニバンは切り捨てられた。では、ミニバン同様の3列シートを持つCX-8が、ミニバンの代替となるかというと、そうではないと試乗をして感じた。

スライドドアは不採用、最低地上高はSUV水準

CX-8の後ろのドアは、スライドドアではなくヒンジドアであるため、ミニバンを志向する人の求める大きな要件の1つは果たせない。実際、マツダのミニバンとして長らく愛用されてきた「MPV」は、初代がヒンジドアだったが不評で、2代目以降がスライドドアとなった。最終型のMPVはCX-8に近い車体寸法だが、後ろのドアの使い勝手がCX-8では大きく異なる。

  • CX-8の外観3

    ヒンジドアを採用

次に、車体の床下と路面との隙間にあたる最低地上高は、MPVが155mmであったのに対し、CX-8は200mmとなる。未舗装路を走ることも視野に入れるSUVにとって、この最低地上高は標準的であり、当然の高さだが、この差は乗降性においてやや不便が生じる。6~7人乗りで、若い家族の両親も同乗すると想定した場合、高齢者には床が高くなると乗り降りが不便だ。若者や壮年の人のように足を高く上げにくく、また体をSUVの床の高さまで持ち上げにくいのが高齢者である。たとえ手すりがあっても簡単ではない。

頭の中で思い描いた家族3世代でのドライブに、座席数が6~7あればいいと考えたのかもしれないが、乗降性が悪いと感じれば、高齢者は出掛けたくなくなるだろう。

ミニバンの“代替品”ではない「CX-8」

魂動デザインという、1つのイメージ戦略からすれば、マツダにとって四角い箱形のミニバンは想定外となるのだろう。かといって、SUVが3列シートになればミニバンの代替を果たせるのではないかという期待はしないほうがいい。マツダも、CX-8がミニバンの代替になるとは言っていない。

  • CX-8の外観4

    ミニバンに代わる市場の創出を狙う「CX-8」だが、ミニバンの“代替品”を期待してはいけない

マツダはCX-8について、長くマツダ車に乗ってもらいたいと考え、新世代商品群を補完する3列シート車を加えたとする。だが、ミニバンを選んできた顧客に選択肢がなくなったのも事実だ。マツダは、国内にミニバンブームが起きる前から多目的車としてMPVを世に送りだし、車名の通り、まさに多目的車(MPV:Multi Purpose Vehicle)の意味そのままにクルマの多用途性を提案したが、国内市場においては約26年で姿を消した。

そういった観点から考えると、企業の都合で車種を絞り込んだことにより、新世代商品群を好むファンを獲得できた一方で、永年のマツダ愛好者が離れていっているかもしれない側面がある。この後に登場するという次世代商品群が、これまでの新世代商品群の顧客離れを起こさせない車種構成や商品性を備えていることを願う。