テレビの質的調査を行なっているデータニュース社「テレビウォッチャー」による秋ドラマの"満足度"を見ると、TBS系『陸王』『コウノドリ』、テレビ朝日系『ドクターX~外科医・大門未知子~』という高視聴率をマークしている作品に加え、浅野忠信と神木隆之介が凸凹コンビの刑事を演じるフジテレビ系『刑事ゆがみ』(毎週木曜22:00~)が、高い数値を記録している。

そんな同作のきょう9日に放送される第5話は、誘拐事件を追うストーリー。『白い巨塔』『ガリレオ』『昼顔』といったヒットドラマを手がけてきた西谷弘監督による"恐ろしく練られている"演出に注目だ。

浅野忠信(左)と神木隆之介=きょう9日放送の『刑事ゆがみ』第5話より(フジテレビ提供)

全てのシーンの細部にまで意味を持たせる

「テレビウォッチャー」の満足度は5段階評価で算出され、『刑事ゆがみ』は数値が判明している初回から第3話まで、3.67→3.78→3.94と急上昇。現在放送中の秋ドラマ(プライム帯作品、10月28日までのデータ)で、満足度3.9以上を記録しているのは、他に『陸王』(最高満足度4.08)、『コウノドリ』(4.05)、『ドクターX』』(3.92)のみだ。

今作が高い満足度を記録しながら、高視聴率をマークする他の3作と大きく異なるのは、最近のヒットドラマに必ずある"分かりやすさ"を追求したドラマではないという点である。そのスタンスをよく表していたのが、第1話中盤に登場した"洗車のシーン"。

主人公・弓神(浅野)と、そのバディ・羽生(神木)が、それぞれのやり方で事件解決に奔走するシーンに挿入された場面で、フロントガラス越しに映る車中の弓神と、ガラスに水がかかることで顔が"ゆがんで"映るという、ドラマのタイトルにもかかった洒落た映像が印象的なのだが、画面の隅をよく見ると、ダッシュボードに第1話のキーアイテム"スプレー缶"が置いてあり、その後の弓神の行動を示す伏線にもなっているというかなり気の利いたシーンになっている。

分かりやすさに馴れた視聴者であれば、意味のないイメージカットにしか思わず、退屈にも思えたかもしれない。また、他の制作者であれば、スプレー缶をアップにするなど、意味深に思わせたり、そもそもあのシーン自体を入れなかっただろう。しかし、このドラマは全てのシーンの細部にまで意味を持たせ、それらを読み解くことで面白さがより伝わる仕組みになっているのだ。

とは言うものの、先のシーンのように細部まで意味を見出さなくても、2人のキャラクターの面白さと意外な真相へたどり着く謎解きドラマとして、気軽にも楽しめ、その細かなこだわりがドラマのスパイスとして深みを感じることができる作品にもなっている。

衝撃的なラストシーンにも注目

板谷由夏(左)と丸山智己

今夜放送の第5話は、誘拐事件を追う物語。板谷由夏演じる市長の娘と、丸山智己演じるその婿養子のひとり娘が"ある事件"に模して誘拐され、その真相を追っていくという展開が繰り広げられる。他にも、リリー・フランキーや木下ほうかが、ゲストとして贅沢に登場する。

これまで同様、破天荒すぎる弓神の行動と、それに振り回される羽生のおかしさ、そして登場人物それぞれの"ゆがみ"が丁寧に描かれていくうちに真相が見えてくる展開はもちろん、"誘拐モノ"には欠かせない被害者宅での逆探知の攻防や身代金受け渡しなどのスリルが加わって、エンタテインメント性はこれまで以上。また、これまでも事件の真相には驚かされてきたが、今回もすごい。

動機だけを見れば単純と言ってもいいのだが、そこに積み重なるエピソードのおかげで、とにかく怖い。それは、重大事件を犯した遠い存在の人物という怖さではなく、リアリティーたっぷりの映像が巧みに挿入されることで、犯人へ共感や同情に似た気持ちを抱いてしまう=犯人も自分も紙一重なんだと思えてくることが恐ろしく、震えるのだ。そして今回の誘拐事件自体をあえて荒唐無稽にすることで、それらのリアリティーがより効いてくるという演出が本当に恐ろしく練られていて、うなされる。

浅野忠信(左)と木下ほうか

リリー・フランキー(左)と神木隆之介

"ある事件"に模した誘拐事件の"ある事件"については、1話完結の物語とは別にドラマ全体の縦軸になっている弓神の過去と、影の協力者ヒズミ(山本美月)の謎にかかっており、いよいよそのパートの真相にも迫っていく。ここはラストシーンが衝撃的なので、最後まで集中を途切れさせないよう注意。

弓神のキャラに笑い、誘拐劇にハラハラし、意外な犯人に驚き、その真相でブルーになり、衝撃的なラストで次回へつなぐという密度が濃すぎる第5話。1回だけでも十分に楽しめるのだが、振り返ってみると「あれって一体…?」と、もう一度細部まで確かめたくなるこだわりはやはり健在だ。

今回は、洒落たシーンの意味を探すのではなく、登場人物が手にするちょっとした"小道具"のそれぞれに、何やらいろいろな意味が込められていそう。1度ならず2度3度、何度も噛みしめたくなる回になっていることは間違いない。

(C)フジテレビ

●「テレビウォッチャー」満足度調査概要
・対象局:地上波(NHK総合、NHK Eテレ、日本テレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京、フジテレビ)
・サンプル数:関東1都6県、男性1,200+女性1,200=計2,400 ※回収数は毎日変動
・サンプル年齢構成:「20~34歳」「35~49歳」「50~79歳」各年代男女各400サンプル
・調査方法:毎日モニターにテレビ視聴に関するアンケートを同じアンケートモニターへ配信、データを回収するウェブ調査
・採点方法:最高点を「5」とし、「3.7」以上を高満足度に基準