モロッコは思いの他、表情が豊かだ。迷路のようなメディア(旧市街)があれば、どこまでも広がる平野、高い峰が連なる山脈、そして、世界最大の砂漠。見飽きることのない豊かな表情の中でも、シャウエンの色鮮やかな青世界は、世界の旅人を魅了してやまない。「僕らの町は美しい」。そう、地元民が笑顔で言うほどに。
バスで山を越えて
シャウエンはモロッコ北部のリフ山脈の奥深くにある。地理的にはスペインにも近いため、フランス語やアラビア語のほか、スペイン語を使う住人も多いように感じた。ホテルやレストランなどでは英語も通じる。
シャウエンへの行き方は、国営バス「CTM」にて1日4往復程度あるフェズからの便で行くのが一般的。片道約4時間のバス旅は、休憩を入れながら山を登っていく。ちなみに、ムハンマド5世国際空港があるカサブランカからも、1日1往復だけではあるがシャウエン路線がある。
このCTMは日本からもインターネットを通じて予約できるようになっているものの、支払い方法がモロッコ国内で使えるクレジットカードのため、初めてモロッコに行く人は、個人では事前予約ができないと思った方がいいだろう。ただ、フェズ=シャウエン路線は人気路線のようなので、モロッコ入りしたら国内のCTM窓口で早めに予約をしておくことをオススメしたい。運賃は便の時間によって変動するものの、フェズ=シャウエンの運賃は一律。インターネット上では75MAD(約900円)だったが、なぜか現地では65MAD(約780円)だった。
バスは基本的に時間通りに出発し、到着も時間通りのことが多かった。大きな荷物がある場合、大体荷物ひとつ5MAD(約60円)で預かってくれる。お釣りは出してもらえない可能性があるので、気になる人は5MADコインを用意しておこう。なお、荷物は出発30分以降でないと預からないため、荷物を預けてそのまま町散策はできない。
フェズから日帰りでシャウエン観光もできるのだが、街中にはかわいらしいホテルがたくさんあるので、ちょっとメルヘン気分を味わいながら一夜を過ごしてみるのもいいだろう。筆者は16:15フェズ発/20:15シャウエン着でシャウエンに泊まり、翌日の13:15シャウエン発/17:30フェズ着というプランにした。
宿泊する場合はタクシーで
夜、遠くから眺めるシャウエンの街並みも美しい。その一番の魅力である青さは明白には見えないものの、山の斜面に家々がひしめき合いながら暖かい光を放っている。それまでの平野や山脈とはまた違った世界がこんな山奥にあったんだと、きっと感動することだろう。
シャウエンのバスターミナルに到着すると、タクシードライバーがたくさん待ち構えている。ちょっとしつこいなと思い、「歩くから大丈夫」と言ってしまったが、素直にタクシーに乗っておけば良かった、と後で思った。
シャウエンの町自体は端から端まで歩いても30分くらいではあるものの、バスターミナルから町の入り口までは結構な斜面を15~20分程度歩かないといけない。さらに、シャウエンもまた、モロッコではよく見かける迷路のような町になっているので、一発でホテルを探し当てるのはなかなか困難だ。
筆者が泊まったホテル「ホテル カサ ミゲル」もそうだが、車では直接行きづらいホテルもある。その場合は結局徒歩になってしまうが、地元の人に聞いたら場所を教えてくれるのでご安心を。
どこにカメラを向けてもインスタ映え
一夜明けて窓を開けると外は雨。地元の人いわく、いつも雨というわけではないようだが、山の天気は変わりやすい。晴れたかと思えばまた雨が降る。かと思えばまた日が差すのなどと忙しい。地元の人でも傘を差している人はあまり多くないようで、雨が降ったら道端で雨宿りし、やめばまた進む、ということを繰り返しているようだった。それでも、荷物に余裕があれば傘を持って行った方がいいかもしれない。
町が城壁で囲まれているのは、その昔、ポルトガルやスペインと戦った時の名残なんだとか。丘の上から町を見下ろせば、建物は青一色ではないことがよく分かる。
しかし、町を巡ればどこにいても青が目に付く。どの路地も同じ風景はなく、また、どの青も同じ青はない。グラデーションになっていたり、模様になっていたり、階段や通路まで青で塗られていたり、手すりや植木鉢までも青だったり。「ここの家は塗られたばかりかな」と思いつつ眺めるその家も、やっぱり青だ。
路地を歩いていると、窓の方から音楽や子どもたちが騒ぐ声などが漏れ伝わってくる。当たり前のことだが、この美しい町でも人々は普通に生活をしている。見渡す限りのメルヘンな世界にいると、そんな当たり前のこともなんだか不思議なように感じてしまった。
地図を見ながら目的地を目指して歩くのもいいが、なんとなくブラブラ歩くだけでも十分楽しい。町歩きの拠点になるウタ・エル・ハマム広場には、カフェやレストランが軒を連ねており、そこから続くように土産店があっちにもこっちにも広がっている。また、町の至る所に共同釜があり、その釜で焼かれたばかりのパンやクッキーなどの販売もある。そうしたお店の風景もまた、自然と青によく合っているのだ。
猫と素敵な時間を過ごす、それも正解
どこを切り取っても絵になる風景ではあるものの、無断で地元の人を撮影するのは控えるようにしよう。写真を嫌がる人も少なくなく、また、モロッコでは一般女性の撮影はタブーとなっている。
ただし、猫は写真も動画も撮り放題だ。どこにでも猫がいる。雨宿りしていると、猫が一匹、二匹、三匹、四匹と集まってくることも。雨がやんだので「さぁ行くぞ」と思っても、「もう少し休んでいけば」と言わんばかりの顔。とても人懐っこい。道中では猫にご飯を与えている人にも遭遇するなど、町全体で猫を大事にしていることがよく分かる。
町の人に「なぜ、町が青いのか」と何度か質問したが、「日の照り返しを受けても目に優しいから」「涼しげだから」「蚊などの虫除けように」等という回答だった。また、「実際、この青を見に世界から多くの人が来てくれるから」という人もいた。では、「誰が塗っているのか」と問えば、「私が塗った」と自慢げに話してくれる人が多かったが、実際は塗装職人もいるよう。本当にその人自身が塗ったかどうか……いや、本当に塗ったんだと思う。
実は筆者も青が好きなため、ちょっと期待して青の服を着ていった。何人かと話していると、4,5人目でやっと「あなたの青もきれいよ」と言ってもらえた。期待通りの言葉に感謝したい。
だからではないが、シャウエンの人々は温かい人が多い印象を受けた。道に迷っている時も、「よく来たね、ゆっくりしていってね」「この町の人はみんな優しい。遠慮なく道を聞いてごらん」等という言葉を足してくれることもあった。シャウエンまで行くには時間もかかってしまうのだが、ぜひその美しさと人々の温かさに触れていってもらえればと思う。
※1MAD(モロッコ・ディルハム)=12.0円で換算