昨年の米大統領選挙においてロシアがトランプ陣営と共謀して選挙に干渉したとの疑惑、いわゆる「ロシアゲート」の捜査が新たな展開を迎えつつあるようだ。

モラー特別検察官によってトランプ陣営の元幹部2人が起訴された。また、別の1人は偽証を認めて捜査に協力しているとされる。

今後、事態がどのように展開するかは全く予断を許さないところだが、トランプ大統領が弾劾される可能性を改めて考察しておこう。

合衆国憲法第2条第4節は、大統領、副大統領を含む公職者の弾劾について明文化している。当該公職者、ここでは大統領が「反逆罪、収賄罪、その他の重大な犯罪及び不法行為により弾劾されて有罪と認められれば、罷免される」とある。具体的なプロセスは以下の通りだ。

まず、議会の下院が過半数の賛成を持って弾劾手続きの開始を決定する。下院議員の訴えに対して、下院司法委員会が調査を行う場合もあるし、それなしに下院が採決に踏み切ることも可能なようだ。 弾劾裁判は上院で行われる。それは通常の裁判と同様に進められるが、下院議員が検察、上院議員が陪審員の役割を果たす。そして、訴追案件に関して、上院の3分の2以上(100人のうち67人以上)が有罪と判断すれば、大統領は罷免される。

ここで重要なことは、議会が大統領罷免の決定権を握っていることだ。議会では、下院でも上院でも大統領の所属する共和党が過半数を握っている。トランプ大統領がいくら党内で不人気だとしても、共和党議員が自党の大統領の罷免に動くとは考えにくい。

実際、今年の7月以降、民主党の下院議員によって2度ほど大統領弾劾の動議が提出されたが、それらは完全に無視された。もっとも、動議の根拠は、「人種差別や性差別の言動により大統領職を汚した」という曖昧かつ軽微のものだったようなので、最初から大きな流れになるとは期待されていなかったのかもしれない。

ただし、捜査・調査が年明け以降も続くのであれば、状況は変わるかもしれない。クリントン大統領の弾劾のケースでは、疑惑の浮上から弾劾裁判の決定まで1年以上かかり、そこから無罪の決着(=有罪と認める上院議員が3分の2以上に達さなかった)までさらに2か月近くかかった。

来年11月、下院の全議席と上院の3分の1の議席が改選される中間選挙が実施される。改選を迎える議員は、今以上に有権者の意向を無視できなくなるし、説明責任を果たす必要も出てくる。ましてや、中間選挙の結果、民主党が議会で過半数の議席を獲得するようなことがあれば、「大統領の弾劾」が現実味を帯びるかもしれない。もっとも、もっと早い段階で、トランプ大統領が重大な犯罪に関与したとの決定的な証拠が出てこないとも言い切れない。

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執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。

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