マリオットと言えば世界最大のホテルチェーン。「ザ・リッツ・カールトン」を始め、スターウッドを買収したことでも知られる。今や「シェラトン」や「ウェスティン」もマリオットグループ。現在マリオットには30のホテルブランドがあるが、11月1日に開業した「モクシー東京錦糸町」「モクシー大阪本町」は、マリオット日本初上陸のモクシーブランドだ。

日本初の「モクシー・ホテル」が東京・錦糸町と大阪・本町に誕生

節約志向でアバンギャルドなホテル

モクシー・ホテルは、2014年にスタートしたマリオット・インターナショナルのブランドで、アムステルダム、フランクフルト、ロンドン、オスロ、ニューヨーク、サンフランシスコ、シアトルなど70以上のホテル建設計画が進行している注目のホテルだ。このホテルは、ミレニアル世代を主要なターゲットとしている。

MOXY(moxie)とは"勇気・元気・ファイト"等を意味する俗語で、モクシー・ホテルは「節約志向の旅行者向けブティックホテル」がコンセプト。「ブティックホテル」とは聞き慣れない言葉であるが、近年ホテル業界で注目されてきたカテゴリーだ。個性的かつ現代的な特徴あるデザインや装飾を特徴とし、アバンギャルドな感覚や雰囲気を併せ持つとされる。

マリオットに対してラグジュアリーなイメージを持っている人も多いだろうが、その期待をいい意味で裏切ってくれるのがモクシー・ホテルだ

スタッフも一般的な制服ではなく、ジーンズやTシャツ等とカジュアルな出で立ちで印象的だ。総支配人=キャプテン、スタッフ=クルーと呼ぶ。モクシー東京錦糸町の生沼久キャプテンのヘアスタイルは、なんとリーゼントだ。クルーは金髪でもピアスを付けていても、それがファッションアイコンになるのであればOKだという。その他、従来のホテルの常識が通用しないと言えば、"客室に冷蔵庫が設置されていない"など、初めてのゲストは戸惑うかもしれない。

モクシー・ホテルのアイテムはシンプルでありながら、どこかスタイリッシュ

肩肘を張らない「ライフスタイルホテル」という概念

これまでのホテルカテゴリーは、伝統的・特別感・フォーマルといったイメージでグレード感に主眼が置かれてきた。一方、ブティックホテルはユニークで革新的、フレンドリーといったワードが想起される。従来の常識を覆すホテルのスタイルであるが、そのイメージが不明確とされ、昨今では「ライフスタイルホテル」というワードが存在感を増している。

日本のライフスタイルホテルとしてまず思い浮かぶのが、ハイアットブランドの「アンダーズ 東京」だ。2014年6月、虎ノ門ヒルズの高層階に開業。アート・音楽・ファッション等、多彩なコラボレーションイベントなどを通して、宿泊・食事という伝統的なホテル機能の枠を超えた空間や時間を提供してきた。

ハイアットブランドでは2020年までに、「ハイアット セントリック(銀座/金沢)」「ハイアット プレイス(浦安)」「ハイアット ハウス(金沢)」が新たに開業する。アンダーズはラグジュアリーであるが、同じライフスタイルホテルのハイアット セントリックはアッパーアップスケール、ハイアット プレイスは長期滞在型、ハイアット ハウスはアップスケールのセレクトサービスホテルと、それぞれタイプが異なる。

アンダーズ 東京では、日本を代表するデニムブランド「レッドカード(RED CARD)」とコラボレーションし、オリジナルデニムを製作したニュースが話題になっている。およそホテルとはイメージが結びつかない"デニム"である。しかも、アンダーズ 東京はいわゆる高級ホテルである。

アンダーズ 東京は「レッドカード(RED CARD)」とコラボしたオリジナルデニムを制作

カジュアルな制服をまとったスタッフに、自然と親しみを感じる

そこには、ラグジュアリーホテル=ドレスアップという固定概念を覆し、あえて一般的にカジュアルウエアと認識されているデニムを通じて、「自分らしいスタイルでいることこそラグジュアリーであること」の表現という想いが込められているという。肩肘を張らずにそれぞれ思い思いのスタイルでという、新しいラグジュアリーホテルの在り方の提案を続けている。ライフスタイルホテルならではの発想だ。

非日常でもハレでもない新しい時間・空間を

ライフスタイルホテルは料金帯などのグレードではなく、文化や歴史にフィーチャーするコンセプトをホテルスタイルとして具現した新しいカテゴリーと言える。ホテル業界では知られるようになったワードであるが、いまだ定義が曖昧といったこともあり、日本で認知されるのには時間を要するだろう。

ホテルカテゴリーと言えば宿泊を始め、宴会、結婚式という非日常やハレの場所という伝統的なイメージで括るのは一般的だ。高級なシティホテル、廉価のビジネスホテルという料金帯で区別するのも常識である。ライフスタイルホテルとは、そうした機能やグレードによるカテゴリーとは全く異なる視座と言える。

モクシー・ホテルが提示するライフスタイルホテルは、日本の文化にも馴染むのか

とはいえ、世界的なホテルブームの潮流であるライフスタイルホテル。インバウンド需要に呼応するかのように、日本に続々と誕生している。新たな視点からのホテルコンセプトは、伝統や格式を重んじる日本人に受けて入れられるだろうか。既存のホテルスタイルが取り込めなかった、新たな需要を喚起できるのか注視していきたい。

筆者プロフィール: 瀧澤 信秋(たきざわ のぶあき)

ホテル評論家、旅行作家。オールアバウト公式ホテルガイド、ホテル情報専門メディアホテラーズ編集長、日本旅行作家協会正会員。ホテル評論家として宿泊者・利用者の立場から徹底した現場取材によりホテルや旅館を評論し、ホテルや旅に関するエッセイなども多数発表。テレビやラジオへの出演や雑誌などへの寄稿・連載など多数手がけている。2014年は365日365泊、全て異なるホテルを利用するという企画も実践。著書に『365日365ホテル 上』(マガジンハウス)、『ホテルに騙されるな! プロが教える絶対失敗しない選び方』(光文社新書)などがある。

「ホテル評論家 瀧澤信秋 オフィシャルサイト」