8月から9月にかけて、3つの大型ハリケーン(ハーヴィー、イルマ、マリア)が米南東部およびその周辺に甚大な被害をもたらした。すでに旧聞に属するかもしれないが、我々金融市場参加者は、その経済的な影響を今まさに確認しつつある。
10月初めに発表された9月の雇用統計では、雇用者数が前月に比べて3.3万人減少した。雇用が減少したのは実に7年ぶりのことだった。今年1-8月には月平均17万人増加していた。
それより前に発表された8月の鉱工業生産高は前月比-0.9%。こちらも約8年ぶりの大幅なマイナスだった。メキシコ湾岸の石油生産施設が打撃を受けたことが大きかったようだ。
もっとも、経済への影響はマイナスだけではない。9月の小売売上高は前月比+1.6%の大幅増加だった。被害を受けた自動車の買い替え需要が発生した結果だった。昨年好調だった自動車販売は今年に入って低迷していたが、9月の月間販売台数はエコカー減税で売上が押し上げられた2005年7月以来の高水準だった。
ところで、今回のハリケーンの被害額は、多少バラツキはあるものの、8月のハーヴィーと9月のイルマを合わせて2000億ドル前後と見積もられている。米国の年間GDP(国内総生産)の1%を上回る規模だ。ただし、被害額の過半は家屋やインフラなどストックの喪失分である。工場の操業停止や物流の断絶などによって失われた経済活動の分はわずかにすぎない。ストックの喪失分は直接的には経済活動に反映されない。そのため、被害額とGDPという経済活動の規模とを比較すること自体が不適切なのかもしれない。
今回のようなハリケーンや、山火事、地震といった自然災害は、局地的であるほど全米の経済活動に与える影響はわずかだ。また、災害からの復興需要が経済活動を後押しするという面も考慮する必要がある。
米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)のイエレン議長は、9月20日のFOMC(連邦公開市場委員会=金融政策を決定する会合)後の会見で、「過去の経験からみれば、ハリケーンの影響が中期的に米国経済の方向性を変える可能性は低い」と語った。まさに、そういうことだろう。
2005年には8月下旬にハリケーン・カトリーナが、9月下旬にはリタが米南東部を襲った。今回と同じようなタイミングだった。同年9月の雇用者数は前月比6.8万人の増加で、8月の19.4万人増から急ブレーキがかかった(9月分の当初発表は3.5万人の減少)。10月も8.5万人増にとどまったが、11月には33.7万人増へと急反発した。ITバブル崩壊後の2001年11月に始まった景気回復は、カトリーナやリタに遮られることなく、2007年12月まで続いた。米景気の腰を折ったのは、自然災害ではなく、サブプライム危機であり、リーマン・ショックだった。
米国の景気は、ハリケーン襲来前の、力強さに欠けるものの、しっかりとした回復基調を取り戻すのか。そして、その結果としてFRBが粛々と利上げを続けていくのか。雇用統計や生産統計を含めて10月分以降の経済指標でそれを確認することになるだろう。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。
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