早いもので、10月に入り今年も残り2カ月半! 「ヤバい、今年も何もやってない!」なんて、妙に焦りを感じてはいないだろうか? そんな人は、日夜机に向かい目標を目指して努力していたあの頃を思い出すべし! ということで、今回は、代々木の洋食店「しょうが亭」(東京都渋谷区)で、"大学定食"なるものを食べてきた。

「しょうが亭」(東京都渋谷区)は、小田急小田原線「南新宿駅」から伸びる道をまっすぐ歩いて2分ほど。この看板が目印

大学定食ってそもそも何?

同店は、JR「代々木駅」から徒歩3分、小田急小田原線「南新宿駅」からは徒歩2分ほどの場所にある。現在店を切り盛りしているのは、店長の辻保臣さんと奥さま。ご主人は創業者であるお父さんの後を継いだ2代目で、店自体は45、6年前から営業しているという老舗なのだ。代々木界隈で、こんなにも古くから営業している店って少ないかもしれない。しかし、開店当初から大学名をメニューにしていたのかというと、そうではないらしい。いったいどうしてこういうメニューのお店になったんですか? 辻さんに聞いてみた。

ナイススマイルな店長の辻保臣さん。店が長年支持されているのは、その人柄もあるはず

「今はだいぶ変わりましたけど、代々木駅周辺といえば、昔は『駅前の交差点で石を投げたら浪人生にしか当たらない』と言われるくらい、『代々木ゼミナール』に通う予備校生で溢れていたんですよ。うちも最初はもうちょっと硬いイメージの洋食屋だったんですけど、時代の流れで学生さんが多くなってきたのでそれに合わせ、リーズナブルな価格でラフに食べられるようにしようということで、気軽に入れる洋食屋に変わったんです」とのことだ。

広くて落ち着く店内。まさに素敵な洋食屋さんといった趣だ

時は昭和、世は「受験戦争」と言われていた時代。昼ご飯を食べに来る受験生たちは、ランチを食べながらも参考書を片手に勉強をしていたんだとか。そんな姿を見て、「ご飯を食べるときくらい、肩の力を抜いておいしく食べてもらえたら」と考えていたところ、当時アルバイトしていた大学生が「だったらメニューに大学の名前をつけたら面白いのでは? 願掛けにもなるし」と提案したことから、「東京大学」(税込850円)、「慶応大学」(税込750円)、「明治大学」(税込650円)など大学名のメニューが誕生したのだとか。

東京六大学が全てメニューに…あれ?1校少ない?その理由はお店で確かめてくれ!

当初は6大学だけだったそうだが、ほかの大学を受験する学生たちから「俺、日大受けるから定食に名前付けてよ」といった声が続出したことで、女子大を含む現在のメニューが生まれていったのだとか。

女子大はヘルシーに、チキンやチキンハンバーグが入っているのが特徴。チキンハンバーグって結構珍しい

そうなると、気になるのが各メニューの中身と大学名の関係。例えば、バンカラ学生のイメージがある「明治大学」は「バンカラ」とかけて、からあげを入れたり、「上智大学」だったら英語にひっかけて、アルファベットの「AB……」からということでエビフライを入れたり。もしかしてだいたいダジャレってこと!? 辻さん曰く、「まあ、食べて笑ってもらえたら(笑)」ということで、堅苦しい理由はなし! ご飯を食べるときだけはリラックスしてほしいという、店の優しさを感じることができる。

大学定食以外のメニューもあり

揚げ物が多いのも、「成績を上げる」という意味を込めているのだ。ちなみに、「東京大学」は6大学のトップなので、店の中で最も豪華なメニューとなっている。6大学にかけておかず6品目(カツ、卵、煮物、豚のしぐれ煮、おしんこ、サラダ)を付け、カツには1番高いヒレカツを採用。東大を目指し、毎日食べに来ていた受験生もいたのだとか。

エビフライが2本で「日本大学」

こうなると、やはりトップを目指して「東京大学」を注文しようかと思うのだが、店名は「しょうが亭」。しょうが焼きは創業当時からの看板メニューとのことで、先代から受け継いだ味を長年守っているという。となれば、しょうが焼きとエビフライが2本入った「日本大学」(税込950円)にしよう。エビフライが2本という理由はもうお分かりの通り、「2本=日本」ということ。わかりやすい!! では早速いただきます。

「日本大学」(税込950円)

早速しょうが焼きをひと口。う~ん、見事なタレの味つけで、噛みしめるたびに食欲をそそる! 豚肉は脂の甘みを感じさせる肩ロースを使っており、その甘みに負けないちょっとしょっぱめの醤油と辛めのしょうがを合わせているそうだが、そのさじ加減が本当に絶妙で箸が止まらない。

テーブルクロスも相まって、すごく綺麗な1皿!

しかも、しょうがへのこだわりもすごい。おろしたしょうがは普通、繊維が毛のように出ていて歯触りが気になったりするものだが、この店ではすべて繊維に沿って細かく切り、さらにミキサーにかけているのだそうだ。こんなにも手間暇かかったしょうが焼きって、そうそうないはず。もちろん、ご飯との相性は最強だ。

国産の豚肉の柔らかさと繊細なタレの味付けが特徴

さらに、エビフライが結構デカい!サクサクの衣にかぶりつくと、肉厚で身の締まった新鮮なエビが姿を見せる。「サクッ」「プリッ」という音が聴こえてきませんか、読者のみなさん!? 細かい仕込みをしてくれるおかげで、尻尾まで全部食べられる。食べ終わったら「もうなくなっちゃった…」と寂しくなるくらいの幸福度だ。

めしが進んでしょうがない。いや、ダジャレじゃなくて

食材は国内産にこだわり、全てのおかずを手作りしている。店長さんは「当たり前のことですけどね」と謙遜するが、最近ではその"当たり前"がなかなかお目にかかれないんだよなあ。その丁寧な仕事ぶりは、綺麗なテーブルクロスに乗せられたこの綺麗な1皿から伝わってくるはず。ああ~おいしかった。ごちそうさまでした!

デカいエビフライがドーンと2本! 幸せ!

帰りがけ、レジの後ろの棚を見ると、デミグラスソースやドレッシング、小麦粉等、調味料や食材が並んでいた。どれも誰もが知っているメーカーのものばかりだ。こうして目に付くところに置くことで、安心できる食事を提供していることをお客さんに知ってもらえるようにしているのだとか。

見てみ、このプリプリ感。衣のサクサクとのコンビネーションが秀逸

辻さんは、「うちのメニューって、エビフライにしても、ハンバーグにしても、全部お母さんが作ってくれたようなものばかりで、家庭料理の延長だと思っているんですよ。田舎から上京する学生さんが親御さんと一緒にうちに食べにきてくれたときに、親御さんが『こういうお店なら安心だから、近くにアパートを借りてお腹が空いたらここで食べればいい』って言ってくれたりすると、嬉しいですよね」と話す。

お弁当もあり

そう語る店長さんの表情からは、長年、代々木の街で若者の胃袋を支え続けてきた誇りが感じられた。春になり無事大学に合格したことを報告に来る学生がいたり、学生時代に通っていたお父さんがお子さんを連れてやってきたりすることもあるそうで、色んな人間ドラマがある店なのだ。現在では少子化の影響もあり、学生さんだけでなく、近隣にお勤めの方もたくさん来店するという。価格も実にリーズナブルで、まさに代々木の良心的な「しょうが亭」。受験生もそうでない人も、ぜひ訪れてみてほしい。

●information
しょうが亭
住所: 東京都渋谷区代々木1-42-5
営業時間: 月~金 11時~15時
         17時~21時(ご飯がなくなり次第閉店する場合あり)
定休日: 土日祝