――それが臨場感に繋がっているんですね。こうしてシリーズを完走されたわけですが、今後の作品作りにおいてどのような影響がありそうですか?
「アウトレイジ」というか、バイオレンスには結局慣れてしまったのかな。他のラーメンが売れなければ、また売れてた担々麺やればいいんだみたいなところがあって。でも、ずーっとその専門店は嫌だし。だから、「アウトレイジ」は一応3部作で終わったけど、『アウトレイジ リボーン』みたいに続けることもできる(笑)。もしやるんだったら、すごいビッグな俳優ばかりでやるけど。それはそれで面白いと思うんだよね。うまい役者の掛け合い。
ただね、世界的な傾向もあって。やっぱり時代がテロとかで落ち着かない時にこういう映画はあまり向かないとも思うんだよね。ベネチアなんかでも評判良いんだけど、それは「変わりモノ」としての扱いだと思う。だから、次はあまりやったことのない、男と女の話にしようかな、なんて考えてる。
"北野ノート"に書かれていた描写
――楽しみにしています。いつもアイデアをノートに書き留めているそうですね(ロッキング・オン刊行『物語』より)。「アウトレイジ」のアイデアノートには、どのようなキーワードがあったのでしょうか。
相手を痛めつける描写。たとえば、水野(椎名桔平 『アウトレイジ』に登場)が菜箸を耳に指したりとか。今回やろうと思ってボツにしたけど(大杉)漣さんにハチミツをかけて、山の中に置いといて虫だらけにしちゃうとか(笑)。あとは、ピアノ線引いといて首ハネるとか、いろいろそういうことを考えてる。
基本的に、最終章で花菱会の会長は神山(繁)さんの予定だったの。でも、神山さんが亡くなられて(今年1月に急逝)。だから、全然関係のない娘婿を会長にしちゃうのは、わりかし前から書いてあった。直参で体張ったヤツが相変わらず頭(かしら)で、会長の座に急に関係のない野村(大杉漣)が就いて揉め出す。
あとは、大友が刑事を撃ち殺して張会長(金田時男)のシマの済州島に逃げるというのは『ビヨンド』の時に決まってて。張会長は、『ビヨンド』ではあまり出番がなかったけど、最終章ではまだ使えると思ってね。大友が日本に帰って、それから復讐戦が始まる。『ビヨンド』と『最終章』の脚本は、だいたい同時にできてたんだよね。
――『最終章』は、大友が釣りを楽しんでいるシーンから始まります。個人的には「大友さん、やっと平穏な日々を過ごすことができたんだ……」と感慨深いものがありました。それからいつものように面倒なことに巻き込まれていくわけですが(笑)。
うん(笑)。花菱会の花田(ピエール瀧)が済州島に遊びに来て暴れて。最初は放っとくつもりだったんだけど、今度は日本で張会長が狙われはじめたからそうはいかなくなって、大友の中では「これはやんなきゃいけないな」という感じだよね。
――まずは暴力描写が浮かんで「アウトレイジ」シリーズが誕生したように、『ソナチネ』もエレベーターでの襲撃や、浜辺での相撲のシーンを最初に思いついたそうですね。
うん。今回でいえば、マイクロバスの中での銃撃シーンは難しかったなぁ。あれ、「誰撃ったっけ?」みたいなシーンだよね。誰が動いて、誰が撃たれたのか。画像が暗くてね。だいたい台本通りになってるんだけど、パッと見た瞬間に誰が誰を撃ったのか分からない(笑)。
――わずか数秒の出来事でしたね。大杉漣さんと松重豊さんが怒り狂うシーンがツボでした。何度観ても笑ってしまいます(笑)。
お笑いっていうのは、自分に関係がなければ、ものすごい怒ってる人がいると笑っちゃうからね(笑)。自分に危害さえなければ絶対面白いんだよね。ところがその矛先が自分に向くと、恐怖で逃げたくなる。ヤクザが喧嘩して殴り合っているのはついつい見てしまう。でも、「何見てんだ! この野郎!」って言われたらみんな逃げる(笑)。そういうものだね。
北野組スタッフとの距離感
――『全思考』(幻冬舎文庫)には、「俺は介護老人タイプ」「怒ったり、命令したりはしない。まずスタッフに聞く」「スタッフの能力を最大限に引き出すには、これがいちばん」とあったのですが、これは今も変わらずですか?
やりたいことは、ほとんど決まってるんだよね。もちろん、もっといい意見があれば採用するんだけどね。
「ああ、わかった。じゃあ、そうするよ」と言いながら、俺のやり方でやる。でも、今は半々ぐらいかな。結局、カメラマンとか照明の技術的な話もあるから、「これはできませんよ」となると、それに変わる方法を聞いて「こういうのはどうでしょう?」と言われれば、「じゃあ、それで」みたいに。そんな感じで相手の意見を聞いてる。助監(督)なんか優秀だから、言葉を直してもらったりもするけどね。「ちょっと、言葉尻ヘンです」って言われることもあってね。