「過去最高のセトリだから、今確認したけど、全然後半にもなってない! ここからもっとやっていくぞ!」というMCに「ウオー!」と大きく応える観客たち。TRUEの言葉通り、ここからは怒涛の展開に。「Dear answer」(TVアニメ『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』オープニングテーマ)、「STEEL-鉄血の絆-」(TVアニメ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』エンディングテーマ)、「飛竜の騎士」(TVアニメ『最弱無敗の神装機竜』オープニングテーマ)と、バンドサウンドを活かしたパフォーマンスでタイアップ楽曲を次々と披露し、セカンドアルバムで最もヘビーかつダークなロックソング「グレースケール」をこの日一番のハイトーンボイスで締める。

ここまでエンジンを暖めていたバンド陣が、一気呵成にアンサンブルを重ねていく。特にギターの鳴風とベースの二村による休符を上手く使ったタイトな演奏に岩田のドラミングが合わさり、原曲とは異なった、バンドミュージックとしての音の鋭さが顕わになる。そこにTRUEのパワフルなボーカルが加わると、そのステージングはまるでロックバンドのようにも見えてくるのだ。

MCもそこそこに、明るいメロディのギターリフが印象的な「ボイスグライダー」を披露した後は、TRUE名義のデビューシングルとなった「UNISONIA」(TVアニメ『バディ・コンプレックス』オープニングテーマ)と「Divine Spell」(TVアニメ『レガリア The Three Sacred Stars』オープニングテーマ)、新曲「BUTTERFLY EFFECTOR」(TVアニメ『ひなろじ~from Luck & Logic~』オープニングテーマ)が。ポップパンクのツーステップのリズム感、歪んだ音色のベースライン、小刻みにバッキングするギターリフと、まさにTRUE流のパンクナンバーと思える新曲で、観客はジャンプとハンドクラップが止まらない状態に。途中のMCでTRUE自身が「お立ち台に立って、ちょっと手を伸ばすと温度が全然違うの。何かコミケ雲みたいな蒸気が見えるし」と語ったように、会場はさながらモッシュが起こった直後のような熱気に包まれた。ツアーを通して出来上がったバンドの結束、メンバーらによる振り切ったパフォーマンス、誕生日を祝おうという観客の気持ち、それらが綯い交ぜになった空間が生まれていた。

ここでTRUEは「曲を作って、歌詞を書いて、CDを出して、ステージで歌える。それはいままでの自分にとっては当たり前なんかじゃなくて、とても遠いことだった。これからはもっと続けていけるように、歌っていきたい」と思いを吐露。続けて「これから一生涯歌い続けていきたい曲」との紹介とともに、本編の最終曲となる「フロム」(TVアニメ『終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか? 』オープニングテーマ)を歌い始めた。詞を一つ一つ、はっきりと届けるような明瞭なボーカルから、終盤のサビでは伴奏とマイクを通さず、大きな声で1フレーズ歌うパフォーマンスをみせる。彼女がこの曲、この作品に込めた強い思いがここでも爆発した。

2014年、TRUEにインタビューしたことがある。その時、「多くのアニメ作品に言葉や歌詞を提供していった中で、『これは一番良いな!』と思えた作品はありますか?」との質問に、彼女は「自分自身が歌わない曲でも、自分の一部を削り取って作っているので、どれも全て特別ですし、この曲が秀でているという優劣はないです」と答えてくれた。唐沢美帆として作品に歌詞提供するということは、自身の人生を切り取り、アニメ作品へと捧げているということと同義であるというのだ。

そうして彼女が書いてきた歌詞は様々な人の心に刻まれている。また彼女が紡ぐ言葉には、対象となったアニメ作品のセリフの引用や、登場キャラの関係性を示唆するフレーズが多いことに気づく。それは例えば「サウンドスケープ」の《上手くなりたい 特別になりたい》《そして次の曲が始まる》、「STEEL-鉄血の絆-」の《血よりも深い 鉄の華 愛は絆になる》、「フロム」の《「ねぇ、わたしはだれ?」》《君がくれる おかえりなさい》など、枚挙に暇がない。これらのフレーズはその作品を見た人ならば、膝を打つような言葉であるはずだ。

作品世界をより広げるために編まれた言葉は、そのアニメ内のメッセージを補填するものとして配置されているのであろう。ところが今回のライブでは、その言葉たちが作品の磁場から抜け出て、創作主のTRUE≒唐沢美帆の一部へと舞い戻り、彼女自身の生きた言葉として輝いた。そんな奇跡が、この夜に起こっていたように感じられた。

《理屈じゃないんだ 音楽しよう!!!》《楽しまなくちゃ まだまだフォルテシモ》という一節が心を揺さぶる「DREAM SOLISTER」(TVアニメ『響け! ユーフォニアム』オープニングテーマ)は、そんな奇跡を端的に示したと言えよう。アンコール最後に持ってこられたこの曲、その配置からもシンガー・TRUEが示す「一歩踏み出す勇気を持とう」というメッセージが感じられるのだ。何事にも猪突猛進に取り組んできた彼女は、誠心誠意の言葉遣いと歌声で、前進する姿勢を僕たちに見せてくれる。そしてその勇気は、今やTRUEの持つ強さ、そして武器にもなっている。

ダブルアンコールでは2度目となる「サウンドスケープ」を披露。終演を察した観客はほぼ全員がジャンプとハンドクラップ、そして大合唱で応え、ライブは幕を閉じた。

前半はロックバンドのようなステージングによりセカンドアルバムで表現していた"音楽の面白さ"を提示し、後半では爽快感、ラストではハングリー精神や力強さをも見せガッツリと観客を魅了したバースデイライブ。彼女の不退転の決意と積極的な人柄がひときわ濃くあらわれた、圧巻のパフォーマンスが届けられた一夜だった。

(写真は「TRUE TOURS 2017 鶴子と鶴男の三日間 ~Around the TRUE~」の6月25日に行われた東京公演)


TRUEは、11月24日に東京・TSUTAYA O-EASTにて開催されるイベント「鶴松屋フェス 秋の大収穫祭2017~旬なゲストと歌にトークに贅沢三昧 日帰りDXプラン~」にも出演。こちらには文化放送のアナウンサー・八木菜緒が共演者として名を連ねているほか、ゲストとして声優・茅原実里と5人組ロックバンド・PENGUIN RESEARCHも登場する。チケットは7,000円(税込/ドリンク代別途必要)となる。

■プロフィール
草野虹
福島県いわき市生まれ。COOKIE SCENE、Belong Media、MEETIA、音楽だいすきクラブなど様々な音楽サイトに書き手/投稿者として参加、現在はインディーミュージックサイトのindiegrabにインタビュアーとして参画中。幼いころから身近に同人作家兼同人コスプレイヤーの女性がいたことにより、日本のMAGカルチャーにドップリと浸かっており、現在も知り合いには音楽やアニメ好きが多い。水泳や野球などのスポーツを部活動やサークルを通じて経験してきたこともあり、体育会系音楽オタクとして日々過ごしているアニメも大好きな男。