――今年4月、ソニー生命の発表によると男子中学生の「将来なりたい職業」アンケートの3位にYouTuberが入りしました。この世間の流れは、どのように受けとめていらっしゃいますか?

今の子どもたちが置かれている環境では自然な流れだと思っていて、先ほどの「テレビで多く見掛ける人が有名人」と同じで、それがYouTubeに置き換わっただけだと思います。僕ら30代の幼いころはテレビが主体で世の中が動いていたので、その中の人気者である俳優やアイドル、歌手に憧れて育ちました。今の子どもたちは動画と接触する比率が高くなっているので、そういう結果になったんだと思います。

――憧れの職業に就くためには、オーディションを受けたり、資格を取得したり、大学や専門学校に通ったりなど、途中のステップがある程度決まっています。YouTuberを「職業」と考えると、まず何をやるべきか。そこがまだ不明瞭ですよね。たとえば、「顔出し」のリスクなどもきちんと理解して始めるべきなのではないかと。

それについては、さまざまな考えがあると思いますが、親も今の状況を理解しておくべきだとは思います。この前、街中でお母さんから「YouTubeは2時間までって言ったでしょ!」と怒られている子どもを見かけて驚きました。僕らの時代で、それはゲームでしたから(笑)。僕らの親の世代からすると、「ゲーム」という未知のものにわが子がハマっていたわけですから、それと同じですよね。

Simon&Martina(チャンネル登録者数:約127万人)

YouTuberがMCNに入るメリットは?

――分かりやすいですね(笑)。そもそも、MCNというのはYouTuberに対してどのような役割を担っているのでしょうか。芸能事務所のようにマネージメントをやっているわけではないんですよね?

そもそもYouTuberは自分たちで動画の内容を考えて、撮影をして、編集してアップするところまでやっています。だから短絡的に「MCNに入りたい」という動機だけだと、なぜYouTubeとYouTuberの間に会社が入っている必要性が見えないので遺恨になってしまうのではないかと思います。これからのMCNの流れとしては「芸能事務所」の感覚が強くなると思います。人を集められるYouTuberは動画以外でもできることが広がりますよね? イベントや舞台、グッズを企画したり。「動画以外の世界を提供する」役割だと考えています。

――なるほど。そうすると、所属するメリットがありますね。

当社は「YouTuberであれば誰でもいい」という考えはなくて、「コンテンツを作れる人」を基準にできればと思っています。

――ということはスカウトに近いんですか? 広く募っているわけではないと。

そうですね。たくさんYouTuberを抱えれば会社としては良いと思うんですけど、あまりにたくさんの方を抱えてしまうと、動画の中身や動画以外の展開までは、なかなか個々細かく考えてあげることができません。そうすると、MCNとしての機能が破綻します。「何ができるのか」を明確にしてあげないと、MCNにいる意味はなくなってしまいます。われわれのネットワークに「入れる」のではなく、どちらかというと「入っていただく」イメージです。

Sharla in Japan(チャンネル登録者数:約55万人)

――具体的にブレイカーとして加入を望むYouTuberはどのような人ですか?

個人的にはYouTuber以外の肩書を持てることが重要なんじゃないかと思っていて、たとえば、海外のYouTuberで日本をテーマにしていたら「ジャパンナビゲーター」と名乗ることもできる。その肩書を堂々と名乗れるようにしてあげるのが、われわれの仕事だと思うんです。

最近は動画の中で企業コラボがたくさん行われていると思うんですけど、そのクライアントとYouTuberを繋げる役割がMCNの最も知られている業務です。ただ、それだけだとお金のみのお付き合いになってしまう。僕はそういうのは好きではないですし、きちんと人と向き合っている人たちに対してお金だけでしか縛れないのであれば、それはどこかで歪んでしまうのではと思います。だからこそ、ブレイカーはYouTuber以外の肩書のためのお手伝いをさせていただきたいです。

「好きなことで、生きていく」の本質

――御社のHPには、パブロ・ピカソの言葉「いかなる創造活動も、はじめは破壊活動だ」と書かれていました。つまりは、そういう業界の多少歪んだ構造も”破壊”していきたいと。

そうかもしれないですね。こうして取材を受けているのも、ある種で”破壊活動”なのかもしれません(笑)。「YouTuber=お金」としてしか見られていない状況は、なんとかしたいと思っています。視聴者に何かを残せていないと、結局この先、YouTuberは成り立たなくなるんじゃないかなと。

YouTubeの枠組みから出ていくための努力というか、そういうテーマで動いている方とお仕事させてもらえたらうれしいです。

――YouTubeのキャンペーンで「好きなことで、生きていく」というキャッチコピーがありましたが、「好き放題やって儲ける」ではなく、好きなことを突き詰めていき、その先に何を見据えるのかというのが御社のお考えでしょうか。

そうですね。ただ、そこを目指せる状況が今の日本ではまだ整っていません。YouTuberという枠組みとしてでしか伝わっていないというか。だから、われわれおじさん世代が少しでも理解をして(笑)、「YouTuberはお金を儲けるためにやることではない」というのを伝えたい。実際に稼げているかといわれると、そうでもないと思いますよ。

――「YouTuberって儲かるの?」に対する答えにもなりますね。

あくまでもYouTubeはやりたいことを広げるきっかけなので、「お金儲けの手段」として始めると絶対にうまくいかない。

僕は好きなゲームがあって、3カ月に1回ぐらいのペースでそのゲームの動画を上げている方を観ているんですが、その方なんかは完全に趣味でやっていて、その内容に対して多くの支持を集めています。YouTubeをマネタイズの対象としてなんか考えていないはずです。

こういった理解が拡がってYouTuberの地位が向上していったら嬉しいですね。