Apple PayのP2P送金機能とビジネスモデル

モバイルでのP2P送金が注目を集めているのは、アカウント登録さえすれば誰でもすぐに利用を開始できる手軽さにある。モバイルアプリをダウンロードして、アカウントを作成し、デビットカード(銀行口座)を登録するだけだ。相手から送られてきたお金はアカウントに"クレジット"として一時的に保管され、これは他者への送金に改めて利用できるほか、"キャッシュアウト"という形で登録済みの銀行口座へと出金することが可能だ。

前述のVenmoや、決済サービスのSquareが提供している「Square Cash」はこの方式だ。またFacebookのように、サービスにデビットカードなどを登録しておくことで、そのままMessengerを通じてフレンドへの送金やグループ間での支払い分割を行うことができるようになっているものもある。普段利用しているサービスを窓口に送金が簡単に行える点で便利だ。

Square Cashのサービス

Apple PayのP2P送金も、ほぼこの仕組みに則っている。Apple Payの利用にあたって登録したクレジットカード/デビットカードを出金用の銀行口座としてそのまま利用でき、相手との受け渡しはiMessageのチャット用インターフェイスを通じて行う。相手から送られてきたお金は、サービス利用時に「Apple Pay Cash」という専用の受け取り用口座が用意され、ここに一時的に格納可能だ。

Apple Pay Cashに貯まったクレジットは相手への送金に利用したり、Apple Payでの支払いにそのまま利用することもできる。基本的には送金そのものに手数料はかからず(手数料は登録したのがクレジットカードかデビットカードかで異なる)、キャッシュアウト時に手数料を徴収するビジネスモデルとなっている。

Apple Pay Cashは送金サービスにおける中間口座の役割を果たす

ただ、P2P送金に関して問題となるのがこのビジネスモデルの部分だ。このあたりは既存の事業者で共通だが、送金そのものには手数料をほぼ徴収せず、キャッシュアウト時に一定の手数料を徴収する形態を採っている。もともとVenmoの利用が急速に広がった背景の1つに、手数料無料という理由があった。だがこれではビジネスとしてはそもそも成り立たず、現在もなおVenmoは収益確保に向けたビジネスモデルの再構築を進めている段階だ。こうした問題もあり、例えばSquare Cashでは即時キャッシュアウトの場合に1%の手数料を徴収するモデルを採用している

これは、現在QRコード決済が話題となっている中国も同様だ。QRコードを利用した電子マネーであるAlipayやWeChat Payは、基本的な送金手数料は無料または非常に安価に抑えられており、キャッシュアウト時に一定金額を徴収する形態を採用したことが、普及の後押しにもなっていると考えられる。