まるで古代遺跡?

「渋谷代官山Rプロジェクト」の建設地に沿うようにして区道に入っていくと、古い銭湯などがある昔懐かしい空間が広がっている。やがて、区道はバス通りと交差するので、バス通りに出て右に進むと、間もなく「並木橋」の交差点に出る。

「並木橋」交差点付近に残る高架の橋桁

この交差点付近に、とても面白いものが残されている。工事用のフェンスで囲まれた中に、なぜか東横線の高架の橋桁が、道を挟んで4つだけ今も残されており、古代遺跡の廃墟のように見えなくもない。ここから東横線の線路跡地は、渋谷駅付近まで渋谷川に沿うようにして続いている。

渋谷川の再生も今後、進められる予定だ

渋谷川沿いには今後、官民連携の事業として、線路跡地を活用した約600m続く遊歩道を整備するとともに、清流復活水を活用した渋谷川の再生も行うというから、間もなく、この忘れ去られたような橋桁も撤去されることになるのだろう。

今はなき"かまぼこ形"屋根の跡地へ

せっかくなので、このまま渋谷駅まで足を伸ばしてみることにしよう。コンクリートで固められた渋谷川と、それに沿うように続く東横線跡地を見ながら路地を歩いていくが、お世辞にも美しい風景とは言えない。遊歩道が整備されたら、どのような風景に生まれ変わるのか、とても楽しみだ。

さて、渋谷駅に近づいたら、明治通りに出て、その先の歩道橋で国道246号線を渡ろう。歩道橋の上からは線路が撤去された国道246号線を跨(また)ぐ高架が、今も残されているのを見ることができる。東横線の線路跡は、国道を渡ったところで断ち切られている。かつて、この先に有名な"かまぼこ形"の屋根を持つ東横線の地上駅ホームがあったのだ。

国道246号を跨ぐ高架橋は今も残されている

渋谷駅利用者の多くは、東横線ホームが地上2階から地下5階に移ったことで、乗り降りや乗り換えが不便になったと感じていると思う。しかし一方で、まだ少し先の話になるが、東横線ホームがなくなったことで、現在、かなり恵比寿駅寄り(南寄り)に位置し、他線との乗り換えが不便な埼京線のホームを北側に移動することが可能になり、山手線ホームと並列化する計画もあるという。

何かが便利になれば、不便になるものもある。世の中の進歩も街の開発も、結局、そのトレードオフの繰り返しなのかもしれない。いずれにせよ、渋谷駅周辺の変貌の大きさとスピードは、かつて渋谷区民だった筆者も迷子になってしまいそうに感じるほどだ。

限定醸造のビールを楽しむ

さて、散歩の締めくくりにのどを潤そう。渋谷駅から東横線に乗って、再びログロード代官山へ。ここには、その場でつくられたクラフトビールが楽しめるオールデイダイニング「SPRING VALLEY BREWERY TOKYO」がある。店に併設されているブルワリーは「工場」ではないので、他所に出荷されることはなく、ここでつくられたビールはこの場所でしか味わえないのだ。

「First Crossing」と名付けられたビール(税込880円)

今回、頼んだのは「First Crossing」(税込880円)というビールだ。かつて、この付近にあった「渋谷一号踏切」は、一世を風靡したトレンディードラマ『東京ラブストーリー』を始め、様々なドラマなどのロケに使われた。その踏切にちなみ、開業記念限定ビールとして提供を始めたのが、この「First Crossing」だが、好評だったようで、今もメニューに含まれている。


さて、都心の廃線跡の散歩、いかがだっただろうか。現在、小田急線の下北沢駅周辺(東北沢駅~世田谷代田駅)などでも、線路跡地の開発・整備が進んでいる。都心にエアポケットのようにできた、廃線跡という細長い空き地がどのように活用されるのかは、多くの人々の関心事だと思う。今後も注目しながら、レポートしていきたい。

筆者プロフィール: 森川 孝郎(もりかわ たかお)

旅行コラムニスト、オールアバウト公式国内旅行ガイド。大磯町観光協会理事。京都・奈良・鎌倉など歴史ある街を中心に取材・撮影を行い、「楽しいだけではなく上質な旅の情報」をメディアにて発信。観光庁が中心となって行っている外国人旅行者の訪日促進活動「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の公式サイトにも寄稿している。鎌倉の観光情報は、自身で運営する「鎌倉紀行」で更新。