東映の白倉伸一郎氏

「仮面ライダー」からはなぜ多くの若手スターが生まれるのか。「平成仮面ライダー」シリーズは佐藤健、綾野剛、菅田将暉、福士蒼汰ら今をときめく実力派俳優たちを輩出し続けており、いまや若手人気俳優の登竜門として注目されている。なぜそんなことが可能なのか。9日に行われた東映の白倉伸一郎氏によるトークイベント「白倉伸一郎 プロデュース作品を振り返る。」で、その理由の一端が垣間見えた。

そもそも、従来言われてきたように「新規のターゲットを狙って若手イケメンを起用したこと」、「シリーズが続くにつれて各事務所が有望株をオーディションに送り出すようになったこと」といった理由だけでは、ほかのドラマではなくなぜ「仮面ライダー」なのか、そしてほとんど演技経験のない新人をメインに据えて重厚なドラマを成立させ、各事務所が注目するまでにシリーズを続けてくることができたのかといった点が説明できていなかった。

第2回となったイベントのゲストは、『仮面ライダーアギト』『龍騎』『555』をはじめとした多くの「平成ライダー」作品を手がけてきた田崎竜太監督。2人が組んで作り上げた『仮面ライダーアギト』は、『クウガ』に続く「平成ライダー」第2作で、当時シリーズをめぐる状況は、現在のようにTVシリーズが定着しているわけではなく、危機感のある中での製作だったという。

渡米していた田崎氏を『アギト』監督に迎えるにあたって、白倉氏にはある狙いがあった。それは、「アメリカのTVドラマの作り方を輸入」すること。白倉氏は当時のアメリカTVドラマを「『ビバリーヒルズ青春白書』のように、ゴールデンタイムのドラマでもノンスター(スターが出演しない)の"群像劇"が人気を博していました。誰もスターがいないんだけど、大人数のコミュニティを描いていって、一個のドラマを完成させる。それを見事に成立させている」、一方日本は「今でもそうかもしれないけど、スターありき」と違いを感じていた。

白倉氏によると、当時まだ「仮面ライダー」は「今でこそ、時々スターが出演もされてますけど、(当時は)知名度の低い、『誰が出るか!』って言われているような子ども番組」という認識が業界にあったのだという。「スターありき」のドラマとして打ち出すことはできない。そんな中で『アギト』を成功させるため、「ノンスターで群像劇を作っていく。その作り方はアメリカに学ぶべき」と方向性を固めた。田崎監督には「当時アメリカは、『パワーレンジャー』の撮影が行われている隣のステージで『ビバリーヒルズ青春白書』もどきが作られているような、"群像劇"ブームのようになっていたので、(田崎監督は)そういう空気をわかっていらっしゃるはずだから、そういった期待感も強かった」と振り返っている。

「平成仮面ライダー」を1年にわたって大人も楽しめる重厚な物語として成立させ、シリーズとして定着させたのはこの「ノンスターによる群像劇」をいち早く取り入れ、そのノウハウを磨き続けてきたからにほかならない。「ノンスターによる群像劇」は結果として、特定のスターに視線を独占されることなく、「これからのスター」である若手たちが多くの視聴者に向けて自身をアピールできる場にもなった。この点がほかの「スターありき」のドラマと一線を画し、「平成仮面ライダー」が若手スターを輩出する要因になっている。

もちろん、スターとして輝きを放つことができたのは、1年間の長きにわたってドラマを成立させるため、一流のプロたちの仕事に囲まれて演技し、成長した役者自身の努力があるのは言わずもがなだ。その厳しさについて、白倉氏は田崎監督と同じく「平成ライダー」を数多く担当した石田秀範監督を引き合いに出して語っている。「石田さんはプロなので、田崎監督よりもドライなところがあって、(役者が)求めているところを越えない・できないなと思ったら見放すというところもあるんですよ。『できないですね。じゃあ演出の力でなんとかするから』と。そうなると顔を撮らないんですね。だって顔を撮ったら絵がダメになるから」。