――最終審査会の壇上で「面白くない脚本でも、演出で面白くできる」とおっしゃっていたことを思い出しました。

映画で何を観るのかというと、物語もその1つではあるんですが、やっぱり「人」を観に来ていると思うんですよね。このあたりは、人によって違いはあると思います。

映画のストーリーが難解で理解できなかったとしても、登場する「人」にさえ興味を持ってもらえれば、最後まで観てもらえるのかなと。話が破綻していても、そこに出てくる人は生き生きとしている。そんな人の息遣いを、一本の映画に閉じ込める。それが演出だと思っています。

――なるほど。現場では出演者一人ひとりと、密にやりとりするんですか?

それがむしろ逆で。リハもそんなにやりません。本読みって、苦手な役者さんが意外と多いんですよね。撮影前に、なぜわざわざ集まって脚本を読み合わせるのか、と。緊張するのであまりしたくないという人もいるんです。それよりも、一緒にお酒を飲んだり、食事をしたりして話した方が長い目で見ると作品のためになったりします。脚本の解釈の前に、映画に対してどのような思いがあるのかとか、そちらの方が大事で。一度腹を割って話しておくと、その後の流れが全然変わってきます。

本読みは、気合いが入っている人もいれば、そうではない人も。中には、全部覚えて臨む方もいらっしゃいます。でも、結局は現場でやってみないとわからないことの方が多い。気心知れている役者さんから「あれって何なの?」と聞かれたこともあります。もちろん、希望されればやりますが、そこで演出しても結局は現場に行かないと分からない。僕としては、みんなの気持ちが1つになって、映画に向かっていけばいいのかなと思います。

――現場では、どのように役者の演技を引き出しているのでしょうか。 納得がいかなければ、何度も撮り直す?

重要なシーンで、作品自体が成立しなくなる場合は粘ります。ただ、編集も自分でやっているので、例えば前半が良くて、後半失敗した時にはOKにします。これまでは限られた予算と少ない日数だったので、粘れるところも限定されていました。

なぜ「三行理論」にこだわるのか

――今回の『ファインディング・ダディー(仮)』を思いついたきっかけは?

シリアスな出来事を夢で見たことがあって、夜中に起きて急いでメモしました。初めてのことです。朝起きてシナリオにしようと思っていたんですが、やっぱり夢なのでなかなか話がつながらなかった。ただ、TCPを知って、シリアスな方じゃなくてエンタメの方に振っちゃってもいいのかなと。コミカルな要素を入れていったらアイデアが膨らんでいきました。

シリアスなシチュエーションにも、笑いが生まれるのではないかと。ひょっとしたら、戦時中の防空壕の中でも……ほとんどなかったとは思いますが、どこかで笑いがあったのかもしれない。現実世界でも、笑いの要素があった方がすごく心に染みますよね。それを物語に落とし込むと、ドラマ性が強まり、全体の世界観が豊かになる。僕が映画でやりたかったことです。

――確かに。すごく落ち込んでいても、笑ってしまったり、いつもと同じようにお腹が空いたりしますよね(笑)。

そうなんですよね(笑)。それってすごくリアルなことで。自分の中では熱いテーマです。

――プレゼンでは、「企画は3行で説明できるものじゃないとダメだ」と。あれは誰かの教えなんですか?

初めて映画を撮った時、あるプロデューサーから言われたことでした。「この映画、三行で言うと?」と聞かれて、「言えないから映画にするんじゃないですか」と反論したのですが(笑)、「そこは落ち着いて考えてみて」と言われて。

黒澤明監督の『七人の侍』を思い浮かべてみて……確かに三行で説明することができる。その「三行」さえ決まっていれば、脚本を書き直していっても、芯はぶれないんですよね。映画作りにおいてはいろいろなことが起こりますが、「この映画は何か」という核となる部分をスタッフみんなで共有できる。映画では大事なことなんじゃないかと、自分は思います。

スタッフ側にもお金を落として

――今の日本映画界についてはどう思われますか?

映画はなくならないと思います。アニメもありますし、コンテンツも豊富です。今は少女漫画原作ブームですが、あれもずっと続くわけではない。そうやって流行や傾向をぐるぐる回りながら、たまにすごい作品が飛び出してくる。作り続けられる環境があるのは、決して暗いことではないと思います。

ただ、なくならないための工夫もちゃんとしていかないといけない。若手にチャンスを……チャンスは与えられるものじゃなくて、つかむものだと思うんですけど。今は二極化してきていて、テレビの人が映画を撮っていたりします。かたや、僕はフリーランスでやっていて、自主映画からやっていると、相当お金がない。

制作費が上がって、監督やスタッフにお金が落ちるようになったら、気合いが入る人がいっぱいいるんですよ。予算があるだけで全然テンションが違う。めちゃくちゃパワーになる。それは贅沢な暮らしをしたいとかそういうことではなくて、むしろ逆。予算があれば、いい機材を使っちゃう。この業界にいる人たちはそういう人々です。スタッフ側にきちんとお金を落としてほしい。そこは出資者側の方々に強く言いたい。僕らをお金で釣って下さい。ものすごい勢いで、クリエイティブな方向に走っていくはずです。

■プロフィール
金井純一(かない・じゅんいち)
1983年6月27日生まれ。埼玉県出身。大学在学中からドキュメンタリー作品をはじめとした映像作品を制作し、2007年の伊参スタジオ映画祭にてシナリオ大賞を受賞。2012年、短編『転校生』が第7回札幌国際短編映画祭にて最優秀監督賞、最優秀国内作品賞の2冠。2013年11月公開の『ゆるせない、逢いたい』で劇場長編映画デビューを果たし、2013年釜山国際映画祭NewCurrents、香港アジア映画祭、モロッコマラケシュ映画祭、フランスウズール国際映画祭でコンペティション部門にノミネートされ、ウズール国際映画祭では観客賞を受賞。そのほか、『さよならケーキとふしぎなランプ』(14年)、『ちょき』(16年)など。