米国では「LOVE」で訴求、価格競争には参戦せず
吉永氏はアイサイトとともに、米IIHS(道路安全保険協会)の最高評価「トップセイフティピック」に2009年から全車が選ばれ続けていることも紹介。現地ではこの結果を「企業姿勢」と取る人が多いそうで、安全重視のブランド戦略が根付きつつあることを実感したという。
しかし、差別化や付加価値をものにするには、技術以外にブランド力を高めていくことも必要になる。そこで米国では、クルマを通じて幸せな人生を提供していくという意味を込め、「LOVE」という言葉を使ったマーケティング活動を開始。逆に値引きのCMは止め、ディーラーへのインセンティブ(販売奨励金)も減らした。その結果、価格競争とは距離を置くことができたそうだ。
では今後のスバルは何を目指すのだろうか。
ブランド価値向上へ退路を断つ
「差別化とは、際立つことだと思います。だから、中期経営ビジョンは『際立とう2020』と名づけました。スバルブランドを磨くために、できることは全部やっていこうと考えました。会社の名前を変えたのもそのひとつです。退路を絶って決意表明をしたということです」
スバルは今年の春、社名を変えた直後に、日本のすべての新聞に巨大な広告を出した。そこには「モノをつくる会社から、笑顔をつくる会社へ」という言葉が添えてあった。実は文言が決まる1週間前まで、この言葉の後半は「価値を届ける会社へ」だったそうだが、一部の社員からの「作り手目線ではないか?」という声を受け、笑顔という表現に変えたそうだ。
自動車にとって技術は大事だ。しかし、自動車会社が歩み続けていくためには、その技術をいかにユーザーに伝えていくかという、ブランディングやマーケティングの視点も必要になる。
吉永氏は営業本部や戦略本部で経験を積んだ経営者らしく、飛行機作りから始まった独創の技術をいかにしてブランドに結びつけるかを考え、成功した。自動運転の話題を見ても分かるように、自動車の世界は技術論に走りがちだ。だからこそ吉永氏の講演は、とても新鮮であり参考になった。