体を作りかえる過程が現れる

――中山さんが、それほど緊張されるまでにこの作品に出たいと思った理由はなんだったんでしょうか?

中山:この作品を読ませていただいて、命の重さや尊さ、愛情がどれだけ深くて大切なものか、人間の深みにある部分がすごくリアルに描かれていて。こういう作品に役者として出演したいと思ったのが一番強いです。最終のオーディションの時にじっくり台本を読ませていただいて、絶対に出たいと思うようになりました。

――衝撃的なシーンも多かったと思いますが、印象的なシーンなどは。

中山:すごく怖かったです。「自分に背負い切れるのか」という怖さもあるし、周りの方の凄さもありましたし、そのシーン自体も怖いし。でもなんか、その怖さに「生きてるな」と感じました。

シーンは全部覚えてますけど、終盤の法廷のシーンを撮影していた時は、作品の中でも北斗がすべてを晒される場所で、実際に現場もたくさんの人がいて。ガチャって扉を開けた時に、すごく見られてるなという感覚があり、北斗が法廷で晒されている状況とリンクして、苦しかったのをすごく覚えています。

瀧本:今回は時系列順に撮影していて、人を殺したシーンの後に、1週間弱くらい空いていたんですよね。その1週間で「痩せてきて、ヒゲも伸ばしてきて」とお願いして、その後に逮捕された警察の留置場のシーンを撮影しました。1週間経って現れた時の優馬くんは、やっぱりもう、ちょっと違うオーラを乗せていました。

石田:観ていても、やっぱり最初のシーンから最後の法廷のシーンまでの、顔と体の変化はすごく面白い。役者さんが一つの役に入り込んで自分を作り変えていく過程が現れていました。

最近のドラマにはなかなかない「豪速球」

――中山さんは約12kg痩せられて、監督も一緒に減量に挑戦されたと伺ったんですが、もともとそうやって役者と一緒に自分を追い込む方なんですか?

瀧本:僕は、医者から痩せろ痩せろと言われてたので、ちょうど良かったです(笑)。確かに殺人のシーンなど、僕自身がクレイジーになっている時はあります。日も落ちてきて、雨も本当に降っていて、シーンを撮りきれるのか大変だったんですけど、そういう時は完全に。後で怒られましたけど、優馬くんに「(生田)斗真! 斗真お前ここだ!」って言ってたみたいです(笑)。

中山:「斗真~!!」って言ってましたね(笑)。

瀧本:一緒になっちゃった(笑)。

中山:監督もう、熱量がやっぱりすごくて(笑)。

石田:瀧本監督って、褒めてくれるんですか?

中山:褒めてくれます。それですごい安心するんです。

石田:撮影は、法廷シーンの現場に伺わせてもらいました。なんとなく気軽な気持ちでに見学に行ったのですが、現場はとても殺気立っていて、近寄りがたかったですね。最近のドラマは軽いしコミカルで、気の利いたものが多いですが、正座してテレビに向き合うような、豪速球のドラマをズドンと観たいような人にはぴったりだと思います。

原作者は映像化に関わらないほうがいい

――中山さんは減量もされていたということですが、撮影中は自分を追い込んでいくような生活だったのでしょうか。

中山:なんでこのタイミングやねんって感じなんですけど、ちょうど引越しをしてしまって(笑)。部屋に何も置いていなかったので、冷蔵庫おかないと、ガス代払わないと、と生活に関してやることはありました。でもとにかく減量をして、監督に借りた映画を観るくらいのシンプルな生活でしたね。そうしないと、できないなという気持ちはありました。

ここまで自分を追い込んだことは、今までにないと思います。監督に「長い人生の中で2カ月くらい、頑張れるでしょう」と言われて。確かにそうだし、この2カ月でできないようじゃ、何もできないなと思ったんです。

――石田さんは執筆中に、自分を追い込むようなことはありますか?

石田:いや、もう書くのが嫌なので(笑)。連載していた当時は、毎回崖から飛び降りるような感じでした(笑)。この作品を書いている最中は大変でしたね。主人公・北斗が猛烈に思い込みが激しく、視野狭窄を起こしているので、その人間と付き合っていく窮屈さが作者としては辛かったです。

この少年はこんなにいいやつなのに、必ずこの先、人を殺してしまう。逆に言うと、モンスター殺人者ではなく、ごく普通の人でも何かの偶然やある種の生育環境によって、人を殺してしまうようになる。そういうものなんだよ、という感じが伝わるといいですね。

――ちなみに、中山さんが監督から借りたというのはなんという作品ですか?

中山:『炎628』という映画です。

瀧本:『映画秘宝』で紹介されるような作品です。大学生の時に見て、あまりにすごい映画というのを覚えていて、僕もDVDを久しぶりに見返して、優馬くんにこのタイミングで観てもらうのがいいかなと思いました。

――映像化作品も多い石田さんですが、原作者として作品をどのように観られるのか、改めて教えてください。

石田:結論として言えるのは、原作者は、あまり映像化作品と関わってはいけません(笑)。そこがわからないで大失敗する人がたくさんいるんです。小説は、書き上がったところでみんなのものになるので、それはもう手離れよくするしかありません。

原作者としては、学校の先生みたいな気持ちです。卒業して羽ばたく子もいれば、グレてしまう子もいて(笑)。原作はあるんですけど、映像作品はそれを作り上げた人たちのもの。なので逆に、力の差が作品に明確に出ますね。それは僕が関わっているかどうかは関係なく、映像化側の人たちの限界なんでしょうね。今回は5時間通して観せてもらって、久しぶりに『池袋ウエストゲートパーク』の初回から観返したくなりました。この作品は、自分が大人になったと感じ、そしてこれまでを振り返ってみたくなるような気持ちになりましたね。

『連続ドラマW 北斗 -ある殺人者の回心-』情報

3月25日スタート(全5話) 毎週土曜 夜10:00 ※第1話無料放送
原作:石田衣良『北斗 ある殺人者の回心』(集英社)
脚本・監督:瀧本智行
出演:中山優馬 松尾スズキ / 村上 淳 中村優子 伊藤沙莉 二階堂 智 根岸季衣 利重 剛 矢島健一 大西利空 占部房子 大和田健介 山田杏奈 藤田弓子(友情出演) 嶋田久作 / 宮本信子 ほか