4月スタート『貴族探偵』は推理モノ

くしくも昨年末、『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の大ヒットで、「恋愛ドラマが幅広い年代に通用しない」というわけではないことが証明された。しかし、フジテレビが選んだのは再々々々度の路線変更だった。

4月スタートの『貴族探偵』は、恋愛ではなく推理モノ。リアルタイム視聴の多い中高年層に好まれる推理モノを立てたところに、「さすがにこれ以上視聴率を下げるわけにはいかない」という本音がにじむ。人気者の相葉雅紀を主演に立てたほか、武井咲、生瀬勝久、井川遥、中山美穂、松重豊、仲間由紀恵などの豪華な助演陣は、「ターゲット層を広げなければ」という気持ちの表れではないか。

さらに、7月から放送予定の『コード・ブルー ドクターヘリ救急救命 3rd season』も中高年層に人気の医療モノ+山下智久、新垣結衣、戸田恵梨香、比嘉愛未、浅利陽介の強力キャストであり、「若年層よりも高視聴率狙い」なのは明らかだ。若年層の配信視聴習慣がつきはじめた恋愛モノを捨ててしまうのは、もったいない気もするが、CM収入以外のマネタイズが十分でない現状では仕方がないのかもしれない。

それでも月9は、若年層とドラマの貴重な接点となり、若年層向けの恋愛映画が人気を集めるなどニーズがあるだけに、テレビ業界全体で見れば多少の損失はあるだろう。深夜帯やネット配信への振り替えなど、「この2年弱、月9で恋愛モノを楽しんできた若年層へのフォローができるか」がテレビそのものへの愛着を左右するかもしれない。

『貴族探偵』

『コード・ブルー ドクターヘリ救急救命 3rd season』

果敢な挑戦こそ月9の伝統

依然としてネット上ではフジテレビへの風当たりが強く、その声は象徴的存在である月9へ向けられる。放送前から「どうせつまらない」「キャストのイメージが違う」などのネガティブ・キャンペーンが起こり、PV稼ぎのためにバッシング記事を量産するネットメディアも少なくない。

ただ、視聴率回復を狙い、総力を結集した『貴族探偵』と『コード・ブルー ドクターヘリ救急救命 3rd season』は、見応えのある作品に仕上がり、それなりの視聴率を獲得するのではないか。とは言え、それで「月9の未来は安泰」とは言えないし、フジテレビも「それなりの成果でよし」とはしないだろう。

これまで挑戦的な試行錯誤を繰り返し、人々のニーズや流行に寄り添おうとしてきた月9が、高視聴率狙いの推理・医療ドラマばかりを放送するとは思えない。いや、私の周りには「思いたくない」と期待している人は多い。往年の月9ファンだけでなく、10~20代の男女からも、愛着の気持ちを持っているのだ。

前述したように、放送枠に関わるニュースがネットニュースを騒がせるのは、月9だけ。それほどまでのブランド力があるのだから、今年放送される作品で復活の手応えをつかみ、また果敢な挑戦を見せてくれるのではないか。果敢な挑戦こそ、月9が30年間で培ってきた伝統。すべての作品を視聴してきた私もまた、月9への期待感が消えることはない。

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。