鹿児島県の一部地域の人が、年間通して桜島からの降灰に悩まされていることはみなさんご周知のとおり。しかし、その火山灰が缶詰として販売されていることまで知っている人は少ないに違いない。
缶詰の中身は「ありがたくない、空からの恵み」
「降灰体感缶詰」と銘打ったその商品の名前は「ハイ! どうぞ!!」。缶詰の中身は、鹿児島県垂水(たるみず)市に降り注いだ桜島の灰オンリーだ。
本体には原材料名として「桜島の降灰、垂水市民の苦悩」、内容量として「ありがたくない、空からの恵み 100cc」との記載があり、今にも市民たちの辟易としたため息が聞こえてきそうである。
そして更に缶を右に回すと、「降灰により日常生活や農水産物など被害を受けています。でも私たちは負けません! 」のメッセージに、降灰対策で傘をさす小学生が「また灰か…」とつぶやいているイラストまで出現! 何とアイロニカルなのであろうか。
それにしても分からないのが商品誕生の経緯である。誰が、何のために、このような缶詰を商品化しようと思ったのだろうか。気になるその答えを求めて、開発元である垂水市水産商工観光課にコンタクトを取ってみた。
火山灰を持ち帰る観光客の姿を見て商品化を決定!
―缶詰を作ろうと思ったきっかけを教えてください!
2010年に、垂水市職員の意識啓発のための講演会にお越しくださった鹿屋体育大学の田口教授が、市の名所や特産品を活用したアイデアを披露されたんですが、その中のひとつに、火山灰や溶岩の断片を詰めた缶詰の販売も含まれていました。
加えて後日、『道の駅たるみず』を訪れた水迫順一前垂水市長が、駐車場の隅に堆積した火山灰を手でかき集めてコンビニ袋に詰めて持ち帰る観光客を目撃したことで、このアイデアが"イケる!"と確信。トップダウンで2カ月以内に試作品の製造と販売の指示が下されたという経緯があります。
製造・販売にあたっての条件は、価格を100円とすることと、まず市役所屋上の火山灰を職員で収集したものを缶詰に利用することでした。
「買ってみても、ま、いっか」と思える値段設定
―お店で実際に商品を手に取った人の反応は?
地元の道の駅やホテル、鹿児島市内の百貨店、鹿児島空港内のファミリーマートで販売いただいてるんですが、主にレジの横に置いてるので目に入りやすいようで、思わず手に取り『何これ? 』とラベルの文章を読むや苦笑いを浮かべ、次に値段を確認すると『これくらいなら、ま、いっか』と購入するというのがパターンでしょうか(苦笑)。一応、お土産として懐にやさしい価格設定のつもりです……。
―どんな人が購入しているんですか?
観光客がほとんどですが、お盆や年末年始に帰省された方が土産話的に買っていくこともありますよ。珍しい例を挙げると、県外の小学5年生の担任の先生から、理科で火山学習の教材として使うので送ってくださいという依頼がありました。
でも一番驚いたのは、鹿児島市出身の方が県外で挙式された際、引き出物として100個ご購入されたことですね。
活用方法を考えること自体楽しんでほしい
―缶詰のオススメの活用方法ってありますか?
活用法をご購入いただいたお客さま自らお考えいただくことも、この商品のひとつのコンセプトです。ペーパーウェイトとしてお使いいただくとか単にオブジェとしてご鑑賞いただくとか……ご購入者それぞれに思いのままにご活用いただけたらうれしいですね。
垂水市出身で県外在住の方が、仏壇のお線香たてに使っておられるということなどもお聞きしていますし、プランターの土と混ぜていただくと水はけがよくなるかと。
―ちなみに、灰が降ってくる日常ってどうですか?
「うんざり」「憂鬱」以外の表現が見当たりません。半年ほど前に桜島が噴火しなくなって以降しばらくは降灰を体感していないですが(2017年1月22日現在)、それまでは北西の風が吹くと降灰のために窓を開けられませんし、洗濯物は屋外に干せませんでした。それに、冬の朝は、駐車場の車に降り積もった灰を見ては深いため息をつき、朝露で湿った灰を冷たい水で流すのが日課だったんですよ。
―うんざりするものを拾い集めて販売しようとはユニークなアイデアですね。
そもそも缶詰の商品化は、迷惑なものを活用するという逆転の発想から生まれたようなものですから(笑)。しかし、降灰は迷惑ですが、桜島は鹿児島出身者にとってはシンボリックな存在そのもの。移住先や出張先から帰ってくる度、桜島の噴煙を見ては「帰ってきたんだなぁ~」という実感がわき上がるという話をよく聞きます。
それに、灰を吹いていない時の、抜けるような青空に雄大にそびえたつ桜島の姿は本当に感動ものです。是非多くの人に、垂水を訪れて雄大な景色とともに温泉や豊かな食材をご堪能いただきたいですね。もちろんお帰りの際には、決してお荷物の邪魔にならない大きさの「ハイ! どうぞ!! 」をご購入いただけますと幸いです。