稽古で目撃した"プロ"の姿

――みなさんは、それぞれ別の分野のプロだと思いますが、一緒にステージを作り上げていく中で、お互いに「プロだな」と思ったできごとを教えてください。

大貫:僕は楽譜が読めないので、楽譜を広げて音楽が出来上がっていくスピードの速さにびっくりしました。万里生さんに関しては、ピアノもめっちゃ弾けて。「そんなに歌うのに、そんなに弾けるの!?」という点にもびっくりして、感動しました。

桑山:僕はこれまで、ダンサーの方とご一緒する機会はほとんどなかったので、初めて稽古場に入った時に、大貫さんが稽古前にアップしている姿を見て驚きました。平気な顔して、マサイの戦士くらい跳ぶんですよ。そして、着地するときに音がしないんですよ。「ヒタッ」くらい。さらに、平気な顔して呼吸も乱れない。身体も大きいし、筋肉もしっかりしているのに「ピョン!」って。しかもその「ピョン」が長いんです。「ピョーン、ヒタッ、ピョーン」ですね。

一同:

桑山:ダンサーというのは跳んだだけで全然違うというのに驚きました。万里生さんとは、舞台でご一緒したことはあったんですけど、その時は音楽家バンドの中のアコーディオン奏者という立場だったので、袖からお芝居を見ている状態だったんですね。今回は僕もお芝居にちょっとだけ参加させていただいて、万里生さんが僕の顔を見てお芝居する場面があるんですけど、あがりました。

大貫:あがるって、テンションですか? 緊張ですか?

桑山:緊張ですね! 僕の奥さんも役者だけど、セリフを読むのに付き合ったりしたことは一度もなかったんですよ。だから稽古でセリフを言われただけで「えっ!?」って緊張しました。「お芝居ってこんなに自然なんだ!」と。

田代:僕は、お二人のクオリティにやっぱり驚きましたね。二人とも本当にトップのダンサー、アコーディオニストだと思うんですよ。だから打ち合わせをしていても、試しに弾いてくださったものが1回目からすごいし、軽く流して振り付けをやってみたダンスがもう、すごい。僕が今からやっても、絶対にその景色を見られないだろうなというところにいると思います。こんな6人が集まるなら、僕も客席から普通に見に行きたいなと思いました(笑)。

アコーディオン、どこに注目?

――トップのアコーディオン奏者とは、どのようなところが優れているのだと思いますか? 例えば桑山さんが他のアコーディオン奏者を見るとしたら、どこに注目されるのでしょうか。

桑山:一般的には指が良く動けば良い、音が大きければ良いといったイメージがあると思うんですけど、アコーディオンは蛇腹で空気を使って演奏するのが最大の特徴。いかに音をなめらかに出すか、歯切れよく出すかが、全て蛇腹の操作にかかっているので、優れたアコーディオン奏者は蛇腹の使い方が上手な方なんです。自分が表現したいものに臨機応変に対応した蛇腹の操作ができる方は、いいアコーディオン奏者だと思います。

――じゃあ桑山さんが他の方を見るときは「あの人の蛇腹使いはすごい!」といった目線が。

桑山:一番大きいですね。指のミスタッチは練習すればすぐに治るんですよ。でも呼吸感、空気感はなかなか身につかないので、長年その人が経験してきたことや、どう感じているかが現れます。

田代:シャンソンだと、コードで譜面が来るんですか?

桑山:そうですね、メロディ譜にコードが乗っかっているだけです。

田代:じゃあ、リズムとコードの中で、どういうフレージングを打ち込んでいくかはもうセンスの問題なんですね。人によって変わってくるので、大きいですよね。

――大貫さん、田代さんもそういった、同業の方を見るときに注目するポイントはありますか?

大貫:僕は足先・手先・軸と、首の使い方をついつい見てしまいます。音の感じ方と、その時に表現したいであろう心情がどれだけ身体に乗るのか。良いなと思うのは、音と心情がマッチしているときが多いですね。踊りってすごく原始的なものだから、言葉よりも嘘がつけない。もちろん好みはありますけど、「この人は良いダンサーだな」とすぐにわかります。ダイレクトに伝わってくるので、誰が見ても「この人素敵だよね」と伝わるダンスがしたいし、そういうダンサーを見ていると、心地良いなと思います。

田代:僕もダンスと似ているかもしれません。音色や技術は当たり前と考えたら、音楽性を見ちゃいますね。音楽性って、絶対ストーリーになっているじゃないですか。ストーリーが伴った音楽性がちゃんと出て、自然な発声がされているといいなと思います。歌に限らず楽器でもピアノでもバイオリンでもそうですね。

公演の見どころ

――それでは、最後に公演の見どころを教えてください。

田代:いろいろなジャンルからお客さんが集まってくると思うんですが、初めて見る光景が絶対あると思います。他の作品では絶対ないことがステージで起きますし、選曲に関しても、ここ以外では歌うことのないだろう曲も入ってきます。みんなでお芝居をする場面にしても、ただ挑戦するだけでなく、プラスアルファで何を乗せてくるか、見ていただければと思います。

桑山:稽古もまだ途中で、我々自身も完成形を完全には把握してないんですけど、本番4回の中で、回を重ねるごとにいろいろな変更点が出てくると思うんです。もしかすると、4回目のステージを見たら、随分変わっているかもしれないので、できれば全公演観ていただきたいなと(笑)。

田代:何が起きるかわからないですからね(笑)。

桑山:4回ワンセットで(笑)。クレメンティアのテーマ曲も作りました。うちの嫁が自分のコンサートでたくさん詞を作っているので、台本を見せて音楽を聴かせて、作ってもらって、みんなで歌う場面もあります。夫婦であることを置いておいても、今回の舞台によくあった詩ができたなと思っていまして、実際に歌っていただいた時に、「これはいいじゃないか」とハッとするような良いものができました。

大貫:オリジナルソングができたことは、やっぱりすごく嬉しかったですね。見所、いっぱいありすぎるんですが、例えば浅野祥さんが三味線でリベルタンゴを弾いて、そこにホリ・ヒロシさんの人形が舞って、その中で僕が一緒に踊るなんて、もうないでしょ!? みたいな(笑)。アコーディオンで踊るのも人生で初めてですし、万里生さんも、歌い慣れていない曲を歌うと言ってましたよね。

田代:ポップス、それも今風ではない感じの曲を歌います。

大貫:そういった曲を歌う万里生さんだったりとか、それを良い意味でかき乱す、クリヤさんのジャズ演奏だったりとか、本当にここでしか見られないですよね。

田代:2度と同じ演奏はしないですからね!(笑)

大貫:奇跡が起きる瞬間がたくさんあるだろう舞台なので、一瞬一瞬見逃さないようにしていただければと思います。

■公演情報
『Clementia クレメンティア:~相受け入れること、寛容~』
2016年12月9日(金) 19:00開演
10日(土) 14:00開演/18:00開演
11日(日) 13:00開演

会場:天王洲銀河劇場