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1960年代の研究で「動物は食事を労せず得るよりも、なんらかの対価を払って得ることを好む」ということが明らかになり、コントラフリーローディング効果と名付けられました。コントラ(contra)は「逆」、そしてフリーローディング (freeloading) は日本語にすると「たかる」という意味なので、日本語では「逆たかり行動」と呼ばれたりもします。

この実験では、レバーを押すと食事がでてくる仕組みを学習させたネズミに、2つの選択肢を与えました。自由に食事が取れるボウルと、レバーを押すと食事が出てくる装置です。多くのネズミはボウルからではなく、わざわざレバーを押して食事を獲得しました。つまり、この研究では動物は本能的に苦労や努力などの対価を払って報酬を得ることを好むということを示しています。

動物は本能的に対価を払うことを好む根拠として、「コントラフリーローディング効果」という言葉がビジネス書や自己啓発書に引用されていることがしばしばあります。しかし、コントラフリーローディング効果は元々、動物行動学の言葉です。このコントラフリーローディング効果の実験では、ネズミだけでなく、犬や鳩、チンパンジーなどの動物でも同様の結果が得られました。

猫だけを除いては。

猫は怠け者なのか

猫にも同様の実験を行いましたが、猫だけはレバーを押さずに、ボウルの中にある食事を食べました。この論文のタイトルは「猫の怠惰」(Feline indolence)とつけられています。

猫はもちろんレバーを押せば食事が出るという条件を学習することはできます。これを応用することで、猫にハイタッチやお手を教えることもできますので、猫が実験そのものを理解していなかったという訳ではありません。

やはり猫は怠け者なのでしょうか。しかし一方で、猫は小鳥やトカゲを捕まえてくることがあり、しかも食べずにそのままにしておくことも。これは私の私見ですが、猫にとってレバーを引くという「対価」は食事という「報酬」を得るのには簡単すぎて興味がわかなかったのではないでしょうか。もう少し猫の習性に合致した実験を行えば、違った結果が得られるかもしれません。例えば食事を頭上に吊るして小鳥を連想させる動きをすれば、猫にはボウルに置いてある食事よりも魅力的に映るでしょう。

まとめ

多くの動物は労せず報酬を得るよりも、何か対価を払って報酬を得ることを好み、これをコントラフリーローディング効果といいます。しかし猫だけが対価を払うことなく報酬を得ることを選びました。この結果から猫は怠け者、究極の合理主義者と考えることもできます。しかし、もう少し猫にとって魅力的な、エキサイティングな実験を行えば違う結果が得られたかもしれません。

いずれにしろ猫はやはり独特な生き物、行動学の実験でも個性を発揮して面白いですね。

■著者プロフィール
山本宗伸

獣医師。猫の病院 Syu Syu CAT Clinic で副院長を務めた後、マンハッタン猫専門病院で研修を積み帰国。現在は猫専門動物病院 Tokyo Cat Specialistsの院長を務めている。ブログ nekopeidaも毎月更新中。