女の子の子育てに比べ、男の子は育てにくいと感じているお母さんは、もしかしたら多いかもしれない。わんぱくで、落ち着きがなくて、でも、甘えん坊で……どこまでしかっていいのか、どこまでほめてあげたらいいのか、分からなくなってしまう瞬間が何度もあるのではないだろうか。
そこで今回は、アドラー心理学などをもとに「しからずにほめずに子育てする」ことをアドバイスしている、心理カウンセラーの朝妻秀子さんにインタビュー。自身も男の子育児の経験を持つ朝妻さん。このほど出版した『男の子の将来が決まる! 10歳までの「言葉がけ」』(1,200円・税別/PHP研究所)の内容をもとに、男の子の子育ての難しさやその解決方法について語っていただいた。
"子どものありのままをみる"が意味するもの
――男の子の子育ては、ご自身にとっても大変な経験でしたか?
そうですね。今は成人して社会人になっていますが、長男が本当にやんちゃなタイプで、手を焼いた時期があります。小学生のうちから、先生の言うことをきかなかったり、友達とけんかをしたり、宿題をやらなかったり……。諭す、怒る、いろいろとやってみたのですが、改善しなくて、子どもが何を考えているのか分からず、本当に困っていました。
心理学を学ぶことで、私自身救われた経験があり、この経験を多くの人に伝えたいと思い著書を出版しました。
――著書の中では「しからずにほめずに」子育てをすることの効用が書かれていますが、やはりご本人も、しからずに子育てをされたのですか?
初めからそうできたわけではありません。しからずにいれば、子どもがわがままになると思っていたし、私の方が人生を長く生きているわけですから、うまくいかないと思うことは、子どもがやる前に注意することが大切だと思っていました。
それから世間の目というのも気になりますよね。もし、子どもをしかるべきタイミングで親がしからなかったら、周りの人が「何でしからないの? 」と思うだろうという、葛藤もありました。
――それが変わったきっかけは何だったのですか?
長男は中学生になると、不登校気味になっていて、ある朝、ベッドから起きてこない子どもを見て「もう最低! 」って思ったことがあったのですね。
でもそのあとすぐ、「何と比べて最低? 」と疑問に感じ、私の中に勝手な「普通の中学生像」があることに気づきました。人気者とまではいかなくても、仲の良い友達が2人くらいいる。間違えたことをしたら反省する。時にはがんばってみようと奮起することもある……そのような中学生像です。でも、私の目の前にいる息子はその中学生像には当てはまっていませんでした。つまり、私が作り上げた中学生像と息子を比較して、最低という判断をしたのです。
子どもがベッドから起きてご飯を食べ始めたとき、「あなたって好き嫌いがないね」と声をかけている自分がいました。初めて、作り上げた中学生像ではなく、目の前の息子を見ることができた瞬間です。学校に行かない息子を引き算してみるのではなく、今、息子がしていることの中の建設的な部分に気づくことができました。
そうすると、子どもは延々と、なぜ学校に行きたくないのかを語り始めました。彼の世界を感じようと思って話が聞けると、私も自然と「しんどいね」と声をかけていて、最終的に子どもが「明日学校に行ってみるよ」と言い出してくれました。
しかるのではなく、ほめるのでもなく、"子どものありのままをみる"ということの大切さを理解できたことで、親子関係が変わっていったんですね。子どもが何を考えていて、どうしたいのかを理解するというのがとにかく大事だとそこで気づきました。
彼は今、自立的な人間に成長しています。彼は人生を"自分の人生だ"という確信を持って生きているような気がします。
自分のありのままも見つめよう
――特に男の子が、何を考えているのが理解するのは、難しいことだと感じます
男の子は女の子に比べて、感情面がすぐに意識化されない傾向にあります。
例えば、お母さんが「お留守番していてね」と声をかけて出掛けようとした時、女の子であれば「1人じゃ嫌。寂しい」と、寂しい気持ちを表現することができます。一方で男の子は、本当は寂しいという気持ちがあるのに、寂しいという気持ちがあることにも気がつかなくて、「積み木で遊んでいるから大丈夫」と答えてしまいがちです。
何かしらの感情があるのだけれど、よく分からない、言語化できないということが、男の子は多い傾向にあります。その結果、親子のコミュニケーションがとりにくくなってしまうことがあるのです。
ですから、そのことを意識して、子どもを見てあげるといいと思います。
――本当に"しからずに"子育てなんてできるのでしょうか?
しかるのではなく、なぜそれが悪いことで、そのことをすると周りにどのように迷惑がかかり、子ども自身にも良くないことが起きるのかということを、しっかりと体験させることが大切です。
例えば、電車の中で子どもが騒いだら「しからなければ」と思いますよね。しかしそこでしかるのではなく、いったん電車から降りて「お行儀よく座っていたら次の電車に乗ってもいいけど、そうでなければ、ここでずっと待っていなくちゃならないね」と声がけするのです。そうすることで、しっかりとしつけることはできます。
子どもが電車通学中に傘を忘れたとしても、「なぜ忘れてしまうの? 次から気をつけなさい」ではなく、落とし物として届けられていないか子どもに問い合わせをさせ、自分で取りに行くというところまで経験させてみましょう。
お母さんとしては、子どもが小さい場合は特に、ちゃんと持って帰れるのか不安な気持ちになると思います。しかし1人で持って帰ることができたら、本人も達成感が得られますよね。怒る必要はないけれども、責任を取らせることが大切なのです。
それから、結果をほめるのではなくて、そこに至るまでに工夫したプロセスがあったことを認めてあげることも大切です。昨日よりもできていることがあれば、「がんばったんだね、どうやって工夫したの?」とプロセスを聞いていくことで、子ども自身もその過程を認識し、自信をつけていきますよ。
――最後に男の子の子育てに奮闘するお母さんたちに伝えたいことはありますか?
しからずに、しつけるというのは、難しいように感じますが、最初に2~3カ月がんばると、自動的にできるようになっていきます。それは、自分自身にも余裕がうまれてくるからです。子どもの建設的なところに目を向けられるようになると、自分の建設的な面も見つけられるようになります。
私自身も、理想のお母さん像、奥さん像というのを持っていて、例えば「今日もクローゼットが片付けられなかった」などと、毎日1人反省会をしていた時期がありました。でも今は、「クローゼットの片付けはできなかったけど、お弁当も作ったし、トイレそうじもできたよね」と、できた部分を認められるようになりました。
子どものありのままを認めることで、自分のありのままを認めてほしい。それが将来的に、子どもも自分も心身共に健康的に生きていく方法だと思います。
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朝妻秀子さん
1959年東京都生まれ。大妻女子大学短期大学部卒業。メーカー勤務後、結婚を機に退職。専業主婦として家事・育児に専念するも、子育ての悩みがきっかけで38歳にして心理学を学び始める。2007年に独立し、東京・ビジネス・ラボラトリーを設立。心理カウンセリング、心理カウンセラー育成、心理学セミナーなどを行う。防衛省部外カウンセラー、プロフェッショナル心理カウンセラー協会の事務局長も務める。自らの子育て経験と、年間1,000時間以上の臨床実績に裏付けられたカウンセリングは多くの家庭を問題解決へと導いている。