長時間労働の是正をはじめとする働き方改革に注目が集まっている昨今。その有用性を理解はしつつも、「残業時間を減らすなんて、できるわけがない」という思いを持っている人が、実際は多いのではないだろうか。
そんな中、長年にわたって長時間労働の問題に取り組むコンサルティング会社ワーク・ライフバランスは、11月7日に経営者交流会を実施。同社のコンサルティングを受け、残業時間の削減に取り組んでいる企業27社が東京都港区の会場にて一堂に会した。
ワーク・ライフバランス社が見据える働き方改革の展望や、27社の取り組み状況などが披露された交流会の内容を一部紹介する。
「1社だけで働き方改革は難しい」36協定の上限を
長時間労働による過労死問題などを受け、これまで以上に注目が集まっている働き方改革。政府でも、8月末に働き方改革担当大臣が誕生し、9月には「働き方改革実現会議」が発足するなど、変革への動きが加速している。
交流会のはじめには、ワーク・ライフバランス社の小室淑恵 代表取締役社長が、これらの動きについて解説。小室氏によれば、同会議では主に、「同一労働同一賃金」「36協定の再検討」「インターバル規制」の3点が論点になっているといい、その重要性を訴えた。
このうち、特に"議論が慎重になっている"と小室氏が懸念を示したのは、「36協定の上限設定」についてだ。
36協定とは、労使間で協定を結べば、1年のうち6カ月間までは別途自由に労働時間を設定できるという特別条項のこと。労働基準法では月間労働時間が45時間以内と定められているものの、この協定により、事実上、無限に残業を許してしまっている。
これについて小室氏は、「企業も上限の設定を望んでいる」と主張。その根拠として、ワーク・ライフバランス社などが全日空空輸や資生堂、三井住友銀行など長時間労働の是正に取り組む109社を対象にとったアンケート結果を公表した。調査によれば、このうち95%の企業が「取引先や競合他社にも、労働時間抑制等に着手してほしい」と回答。さらに「国(政府)に、労働時間の全体的な抑制・働き方の見直しの旗振りを期待しますか?」と質問したところ、90%の企業が「はい」と回答したという。
「長時間労働を是正したいと考える企業は、取引先にも労働時間の上限をつけてもらいたいと考えている。1社だけで働き方改革をするのは難しい」と小室氏。上限設定の必要性を強く訴えた。
加えて、36協定に上限をつけるのであれば、厚生労働省が示す過労死ライン「月間80時間」よりさらに厳しくすべきと主張。「人権の問題、外国人の労働力確保の観点から見ると、具体的な上限数字は、特別時で月間70時間以下にしなければ、グローバル基準から見て全く評価されない」としている。
業種に関わらず、長時間労働の是正は可能
このあと、労働時間の削減に取り組む企業の代表らが、自社の取り組みを紹介。このうち日本航空では働き方改革によって、時間外労働(本社間接)が、2015年度は前年度の下期と比較して約2割減少したという。一方、2015年度は過去最高益を達成した。
また大企業だけではなく、中小企業も奮闘していた。ケーブルテレビの放送配信などを行っている愛知県のキャッチネットワークでは、2013年度には月に39.5時間だった残業時間を2016年度は月に24.6時間にまで削減。売上げ(2015年度)も前年度に比べて大幅に増加しているとのことだ。2013年度には0名だった育休取得者も、2015年度には5名(このうち2名は男性)に増え、ワークライフバランスの文化も浸透しつつあるという。
さらに注目すべきなのは、病院を抱える国立大学法人の取り組みだ。主として医師・研究者を対象に、働き方の見直しを行った長崎大学では、症例を検討するカンファランスの終了時刻を事前に決めるようにしたところ、所用時間を半分に短縮することが可能となった。また患者の検査予約を電子化したことで、患者と術者双方の待ち時間も短縮できたとのことだ。
取り組みを始める前に比べて、自分がやりたいと考えていた仕事や趣味のための時間が増加し、医師からは「育児中であっても勉強の時間を確保できるようになった」「論文を書き上げることができた」などの声が聞かれているという。
同社によれば、今回の交流会は、実際に労働時間を削減し成果を上げている企業の声を広く届けたいという思いもあり、開催したとのこと。編集部の取材に小室氏は、「過労死の問題などもあり、長時間労働により何が起こるのかということは誰もが理解しているはずだ。人の命を守るためにも、政府により労働時間の上限設定を行うという方向性が、ぶれてはいけない」と答えている。