日本最南端にある和歌山県串本町は、年間平均気温17度と一年を通じて温暖な気候に恵まれている。串本町という名でピンと来た人は鼻がいい。そう、クロマグロの完全養殖「近大マグロ」の蓄養基地として有名な地だ。だが、グルメだけではない。そんな串本町の見どころやオススメスポットを、もちろんグルメとともに紹介したい。

国の名勝・天然記念物に指定「橋杭岩」海に並ぶ大小40余りの奇岩絶景。画像提供: 和歌山県

本州最南端の町・串本は陸の八丈島?

実は串本町は、緯度では東京の南方287kmにある八丈島とほぼ同じ位置にある。八丈島同様、黒潮暖流の恩恵を受け、豊富な海洋資源にも恵まれており、近年は32年の歳月をかけて成功した「近大マグロ」の蓄養基地としても知られている。

JR串本駅から車で南に15分行くと三方を太平洋に囲まれ、紀伊半島の突端にぶら下がりクジラの尻尾のように見える本州最南端の地「潮岬」、その隣には串本本土から橋でつながる紀伊大島があり、町が有す海岸線は127.38kmにも及ぶ。リアス式海岸には自然が織りなす絶景や世界最北限のテーブルサンゴの群生地など、吉野熊野国立公園やラムサール条約湿地、南紀熊野ジオパークに認定された豊かな自然美を見ることができる。

本州最南端の地「潮岬灯台」を眺められる展望台

本州最南端「潮岬」で絶景&絶品スイーツ

では串本町を歩いてみよう。潮岬でまず見ておきたいのが、本州最南端の地のシンボル的存在、熊野灘を見下ろす約30mの断崖に立つ「潮岬灯台」だ。明治6(1873)年から150年近くもの間、沖を航行する船を照らし守り続けてきた白亜の灯台はイギリス人技師の設計によるもので、68段のらせん階段を上ると、眼下に太平洋の大海原が広がり、180度以上に広がる水平線を見ることができる。内部に資料館を併設しており、2代目の潮岬灯台レンズも展示されている。

灯台の展望台に上がると、雄大な太平洋や杜に囲まれた「潮御崎神社」の社殿などが見える

また少し離れた場所に見晴らし台がある。潮岬灯台は夕日の名所としても知られるが、夏は16時半、冬は16時には閉館となる(入場料は大人税込200円)。絶壁に立つ灯台や夕日を眺めるならここがオススメだ。

潮岬灯台から眺める潮岬は夕陽の名所としても有名

潮岬灯台から東へ約500m行くと潮岬観光タワーがある。タワーの眼前には約10万平方メートルの広大な芝生の草原「望楼の芝」、その先に「本州最南端の地」がある。タワー最上階の展望室に上がれば360度の眺望を楽しめ、天気の良い日には遠く那智山まで見渡せる。タワーに入館すれば、「本州最南端訪問証明書」も発行してもらえる(入館料は大人税込300円)。

潮岬灯台から東へ約500m「潮岬観光タワー」最上階7階の展望台からは360度の眺望が楽しめる。入館者は「本州最南端訪問証明書」がもらえる

お土産やちょっとしたグルメは、タワー内部の売店・食堂へ。ここで要チェックなのが、本州最南端の地で太陽をいっぱいに浴びて育ったポンカンを使用した「ポンカンソフト」(税込300円)だ。無添加果汁100%のポンカンを使用し実にフルーティーで、後に残らないさわやかな味わいにはきっと魅了されるだろう。食堂では近代本マグロ料理も提供されている。

タワー売店の「ポンカンソフト」(税込300円)は、味わい深く実に美味

県内最大の島「紀伊大島」の絶景は歴史ドラマの舞台

潮岬観光タワーからクジラのしっぽをなぞるように海沿いの道を東に約6km進むと、串本本土と紀伊大島を結ぶ「くしもと大橋」が見えてくる。手前に見える苗我島にかかる386mのループ橋とその先290mのアーチ橋という複合橋は、絶景ツーリングコーストとして「日本の名道50選」にも選ばれている。

潮岬がある串本本土と紀伊大島をつなぐ「くしもと大橋」290mのアーチ橋、苗我島にかかる386mのループ橋からなる。湾内には近代マグロの蓄養場がある(画像提供: 和歌山県)

くしもと大橋を渡ったところが和歌山県最大の島「紀伊大島」、そのまま島の東端まで約7km進むと、マグマからできた岩が太平洋の荒波に削られてできた奇岩の景勝地、南紀熊野ジオパークにも認定された「海金剛」がある。特徴的なピラミッド型の奇岩絶壁の絶景が人気となっている。

紀伊大島「海金剛」。阿野木展望台からは、奥に我が国最古の石造灯台「樫野崎灯台」も見える。この海で映画「海難」でも描かれた悲劇、明治23(1890)年エルトゥールル号海難事故が起きた。展望台は映画のロケ地のひとつでもある

海金剛周辺には、この地を舞台とした内野聖陽主演の映画「海難1890」のロケ地が点在する。明治23(1890)年、トルコへ向かうエルトゥールル号が近くの樫野埼沖で座礁沈没した際、村民総出で救助や看護を行い、少ない食べ物や衣服を提供するなど、日本とトルコ友好の原点となった。映画はその奇跡の実話を描いたもので、海金剛を見渡す阿野木展望台もそのロケ地のひとつとなった。

「樫野埼灯台・灯台旧官舎」は樫野の断崖に立つ日本最古の石造り灯台。イギリス人が設計した灯台は今も現役。冬にはイギリス人技師が植えた水仙が美しく咲き誇る

また、島の東端には明治3(1870)年初点灯の日本最古の石造灯台「樫野埼灯台」がある。無人灯台で内部は非公開だが、らせん階段を上ると太地町の舵取崎まで見渡せる。園地内には国の登録有形文化財「樫野埼灯台旧官舎(入館料は大人税込100円)」や水仙の群生も見られる。灯台へ向かう道には「トルコ記念館」や慰霊碑があり、トルコ雑貨をあつかう店ではのびるトルコアイスも売られている。散策して楽しんでほしい。

海金剛から樫野崎灯台へ向かう道には「トルコ記念館」や「トルコ軍艦遭難慰霊碑」、のびるアイス「アイスクリームどんとるま」やトルコ雑貨を売る店などがある。画像提供: 和歌山県

さて次は串本本土側に回ってみよう。潮の干満により姿を変える神秘的な国の名勝天然記念物や、美しいサンゴやウミガメたち、そして、近代マグロに負けず劣らずの海鮮料理。串本町はさまざまな顔をもっていると言えるだろう。