――多角的に見ることもできる魅力的な脚本だと思います。脚本を書かれた井上由美子先生は『昼顔』でもご一緒されていますが、その脚本の魅力はどこにあるとお考えでしょうか?
セリフで使用される言葉の重みや、言葉が重みを持つに至るまでのプロセスの描かれた方が本当にすてきですよね。例えば第5話では、浩太郎さんが奈津子さんに「坂部さんを雇うのはもう止めよう」と提案します。自身に深雪が接近している危惧と、他人に自分たちの子供を任せるのではなく、家族で…つまり、浩太郎さんの母親に面倒を任せたいという思いなのですが、奈津子さんは、それを受け止められません。ですが、少しずつ浩太郎さんの気持ちを受け入れます。その後、結局、深雪にオファーする流れになりますが、そこに至るまでの心の揺れや移り変わりが本当にリアルで。井上先生がいかに普段から周囲をよく観察されているのかが伺い知れます。
――伊藤さんにとって、演じやすい役、演じにくい役はあるのでしょうか?
全部、演じにくいですし、最終的には全部、演じやすくなります。私にとっての役作りというのは、役の大小ではなく"熱量"。例えば、「泣いてください」と言われても、そう簡単に泣けるものではないんです。私の不器用な性格もあるのですが、そのシーンに至るまでの過去をさかのぼったり、その役柄の性格だったりを考えるのに時間がかかります。
――最初は常に演じにくく感じられていると。
ええ。私、結構ちゃんとやらないと嫌なタイプで(笑)。そのあたりは、いまだに「慣れてないな」と感じる部分ではあるのですが(笑)。例えば連ドラのように、先が見えない展開の作品でも、役柄のベースさえしっかり掴んでいれば不安を感じることはないんです。本作でも、井上先生と河毛監督らとお話をさせていただいて、深雪についてはざっくりと説明を受けました。深雪の“ざっくり”の一番コアな部分さえ間違っていなければ、あとは自分で考えて役を作っていける。同時に感情も作られていく。そんな過程を踏み、いつも結果的には演じやすくなるという感じです。でも、毎回クランクインするまではとても大変な思いをしていますね(笑)
――『婚活刑事』(読売テレビ・日本テレビ系)など、最近はコメディなども演じられていますね。
コメディは面白いですが、一番難しいかもしれません。セリフの言い方一つで笑わせられるかどうかが変わってきますし、監督にも「伊藤さんだったら、この台本をどう笑わせてくれるの?」と期待されているような気もして(笑)。人を笑わせるのは奥が深いですね。難しいけど、うまくハマったときは本当にうれしかった!! 逆にうまくハマらなかったときは、自分自身にすごくガッカリしていまいます(笑)
――過去の見えにくい、ミステリアスな役柄を演じられることも多いように思えます。伊藤さん自身はどんな子供でしたか?
基本的にはアクティブな子供でした。ゲームなどを買い与えられないこともあって、家より外で遊ぶことが多かったです。自転車も持っていなかったので、自転車に乗っている友達の横を走ってついていくような子供でした。
――今はマリンスポーツがお好きだそうですが、スポーツは?
小学校3年生の頃からクラシックバレエを。陸上もやっていて、東京都の練馬区代表までは行けたのですが、走ることに関しては自分に向いてないと思い断念しました。
――6歳の頃からモデルもされていますね。
モデルといっても2回ぐらい。大した仕事はしてないんです(笑)。映画『水の旅人 侍KIDS』(1993年)や、岩井俊二監督の映画『スワロウテイル』(1996年)に出演したぐらいから、芸能活動も本格化しました。ですが、ドラマや映画の出演は3年に1回ぐらい。その間に学業もできましたので、結果的には良かったと思います。
――『スワロウテイル』出演後に、ニューヨークへ語学留学もされています。
実は中学・高校と英語の成績が思わしくなくて。『スワロウテイル』でも英語のセリフやナレーションがあったのですが、言葉の意味は分からず(笑)。ただ、発音だけは良かったようです。そんな時、岩井俊二監督から「これからの俳優は英語が話せたほうがいい」と伺って。そこで、お金を貯めて、アメリカへ渡りました。
――自立した高校生だったのですね。
思春期で反抗期ということもあるのですが、高校時代から働いていたこともあり、やはり自立がしたかったのだと思います。
――そんな伊藤さんですが、もし今後、ご自身で新しく家庭を持つとしたら、どんな旦那さんが理想ですか?
そうですね…。やはり、私の仕事を理解してくださるということが第一かな。あとは心身ともに健康であってくれれば…。
――お子さんは何人ぐらい欲しいですか?
子供は欲しいですね。人数は、たくさんいたら楽しいかも(笑)。でも、こればかりは授かりものですから。
――お子さんに対して、どんな教育をしたい?
本人の持っている才能を伸ばす教育を心がけたいです。例えば、常に活動している子供だったら運動系の習い事に通わせてみる、1人静かにしているのが好きな子だったら読書を勧めてみたり。それぞれ1人1人に合った育て方をして個性を伸ばしてあげるのが理想です。
――本作は、社会で奮闘する女性が直面するさまざまな問題を描いています。伊藤さんは芸能界で活躍されていますが、芸能界でも同じように、女性であることが大変だと感じる瞬間はありますか?
やはり、主演に男性が多いということでしょうか。映画などを見ますと、ティーンであれば女性の主演は多いのですが、20代、30代になってくると、主演が女性の作品は意外と少ないように感じられます。
――女性が活躍を始めた時代だから、もっと女性主演の作品があっても良いと。
そうですね。私の両親の世代などは専業主婦であったりすることも多かったのかもしれませんが、私たちの世代は共働きが多い。女性が活躍する場所もどんどん増えてくるので、本作のように、そういったことをテーマにしたドラマや映画が、もっと増えていくといいなと思っています。
――最後に、視聴者へのメッセージをお願いします。
私が演じる深雪というキャラクターは「こんなことする!?」とか、「ひどいなこの人…」とは思うんですけど、日本中の人が彼女のことを好きではないと思うので、せめて私だけは深雪を好きでありたい(笑)。深雪のことは嫌いになってもいいので、役と作品を楽しんでいただけたらうれしく思います。
■プロフィール
伊藤 歩(いとう・あゆみ)
1980年4月14日生まれ、東京都出身。
1993年、映画『水の旅人-侍KIDS-』でデビュー。その後、映画『スワロウテイル』で話題となり、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。
近年は、映画『渾身』『横道世之介』、舞台『いやむしろわすれて草』『ETERNAL CHIKAMATSU』、ドラマでは『その男、意識高い系。』『婚活刑事』『わたしを離さないで』など話題作に出演。
ドラマ『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』(フジ系)では、夫の不倫を受けて逆襲する役で話題となる。