テレビ局が一斉に衣替えを行う春の番組改編。今回も各局、課題の時間帯に新番組を投入したり、リニューアルを図ったりと、録画視聴が増える中でリアルタイム視聴を取り込むためのタイムテーブルを作成した。この戦略を考えるのが、"テレビ局の中枢"とも言われる「編成部」。今回は、民放キー局の「編成部長」に、春改編を総括してもらい、今後の展望についても語ってもらった。

3番目に登場するのは、2015年度の視聴率で、ゴールデン(19~22時)・プライム(19~23時)が、唯一上昇したTBS。ドラマの大ヒットが目立つ一方で、バラエティも堅調な番組が増えているが、その背景にあったのは――。

(視聴率の数字は、ビデオリサーチ調べ・関東地区)


TBSテレビ 菊野浩樹 編成局編成部長
1968年生まれ。1992年、TBS入社。『筋肉番付』『ZONE』『世界陸上』の演出などをへて、『バース・デイ』『夢の扉』『サワコの朝』『プロ野球戦力外通告~クビを宣告された男達』『石橋貴明のスポーツ伝説~光と影』などのプロデューサーを務めた。2015年4月から編成局編成部長。

――2015年度の視聴率が、ゴールデン・プライムで、全局唯一上昇しました。この背景は何ですか?

編成の戦略として、軸になる番組を曜日ごとに作っていきたいと考えているところで、もともと金曜日は非常に強いラインアップが並んでいるんですけど、火曜日に『マツコの知らない世界』だったり、水曜日に『トコトン掘り下げ隊!生き物にサンキュー!!』『水曜日のダウンタウン』が定着してきたり、木曜日には『プレバト!!』『ニンゲン観察バラエティ モニタリング』と、キーになる番組が育ってきたんです。それによって、各曜日の底上げになってきているのが、非常に大きいですね。

――コンスタントに2ケタの視聴率をとる番組が、各曜日に分散しているんですね。

それから社内で「マーケティング機能強化プロジェクト」というのが立ち上がって、意識がより"視聴者ファースト"に変革してきていると思います。例えば、ドラマだとハリウッドでは普通にやっている手法らしいのですが、試写で見てもらった感想を取り入れながら放送する内容を決めたりすることもあります。そういった、視聴者が求めていることや、自前で調査している視聴者満足度などを、プロジェクトを通じてさまざまなデータで出して、それを制作者にフィードバックしているんです。

TBSはある種"職人的"な制作者が多く、「良いものを作ってるんだからみてください」という意識が強い局だったと思います。良い作品を作るのはもちろんなのですが、それを多くの視聴者に見てもらおうという意識づけに、「こういうデータを生かして、こういうふうにやってみたら数字が上がりました」ということが、プロジェクトを通じて社内に知られてきたように感じます。そうしてこの3年くらいで「うちの番組もやってみるか」というムードがどんどん出てくるようになって、作り手の意識が変化してきているように思います。

『マツコの知らない世界』(毎週火曜20:57~22:00)
あらゆるジャンルのゲストが、1対1でマツコ・デラックスにプレゼンしていくトークバラエティ番組。

『トコトン掘り下げ隊!生き物にサンキュー!!』(毎週水曜19:00~19:56)
生き物たちが持つ「生きる術」「特殊能力」「驚くべき技」をトコトン紹介。MCは松嶋尚美とチュートリアルの徳井義実。

『水曜日のダウンタウン』(毎週水曜21:57~22:54)
芸能人や視聴者の提唱する「説」を検証していくバラエティ番組。MCはダウンタウン。

――いわゆる「毎分視聴率」を見てCMを入れるタイミングを考えるというようなテクニカルなことではなく、満足度のような視聴者の心への響き方を分析されているわけですね。

1回の番組が視聴率10%をとったとしても、「この番組嫌だな」と思われていたら、次からは下がるわけです。それに、番組を見ての感想を他人に伝えたりする共有する機会やツールが、SNSの登場によってこの何年かで莫大に増えましたよね。だからこそ、やはり視聴者が満足できるものを作らなければいけない。満足できるというのは、面白いとか、感動するとか、ほしい情報がちゃんと届けられているとか、分かりやすいとか、いろんな指標があると思うんですけど、それをきちんとデータとして見ながら考えて作るということですね。

――特にバラエティが安定すると、ドラマのように1クールで終わらないので、数字面での貢献は大きいですよね。

GP(ゴールデン・プライム)帯の数字が上がっている要因に、30代から40代前半の若手・中堅の制作者が活躍しだしていることがあると思います。新しい世代の制作者たちが育ってきているという感じです。『マツコの知らない世界』総合演出の坂田栄治とプロデューサーの三島圭太は同期で98年入社、『ぴったんこカン・カン』プロデューサーの谷澤美和も98年、『金スマ』チーフディレクターの竹永典弘が00年、『ジョブチューン~アノ職業のヒミツぶっちゃけます!』プロデューサーの小林弘典、『プレバト!!』と『林先生が驚く 初耳学!』をやってるMBSの水野雅之くんも00年。その下に『ニンゲン観察バラエティ モニタリング』の畠山渉が02年、『水曜日のダウンタウン』の藤井健太郎が03年と、98年から03年に入社したプロデューサーや演出が、GP帯の番組を支えてくれています。

――数年前にはなかったことですね。

こうやって若返ってくると、さらに若い世代が彼らに憧れたり目標としていきますし、まずプロデューサーが若返ると自分より下のスタッフを集めるようになるので、スタッフ全体が若返るんですよ。そうするとそこから芽が出て、3年後・5年後にも期待できるので、TBSのバラエティ制作グループが良い循環になってきていますね。昨日も他局の同期のバラエティのプロデューサーに会って「TBSいいよね。若手・中堅の制作者がどんどん出てきてますね」と言われました。

『プレバト!!』(毎週木曜19:00~19:56)
芸能人に俳句や生け花などさまざまなジャンルの才能を査定しランキングで発表していくバラエティ。MCはダウンタウンの浜田雅功。

『ニンゲン観察バラエティ モニタリング』(毎週木曜19:56~21:54)
ちょっとおかしな状況を用意し、人々がどのような行動を取るのかを観察していくバラエティ。出演はブラックマヨネーズほか。

―――春の改編から1クールたって、現状はいかがですか?

日曜はとにかくファミリーで見られる番組を目指そうと意識しています。19時スタートだった『この差って何ですか?』は、より若い視聴者に早めにリーチしようということで、30分前倒しスタートにしたのですが、4月17日のスペシャルで19時台が10.2%をとりまして、その後も19時台の4~5月平均は8.3%で推移しました。20時台は、それまで上の世代がターゲットになっていた『駆け込みドクター! 運命を変える健康診断』の後企画として、家族で見られる番組として『珍種目No.1は誰だ!?ピラミッド・ダービー』をスタートさせました。

――日本テレビさんが『世界の果てまでイッテQ!』を放送している時間帯ですね。

私、高校生と小学5年生と3歳の子供がおりまして、日曜日に一緒にテレビを見ることが多いのですが、家族そろっているときに、他局の番組を見られてしまう編成部長というのは、なかなかしんどいものがありました…(笑)。しかし幸いなことに、5年生の娘が今、積極視聴で『ピラミッド・ダービー』を見るようになったんですよ!

――成長してお父さんに気を遣っている訳ではないのですか!?(笑)

違うんです。この間バレーボールで休止になったときに、「今日『ピラミッド・ダービー』ないんだぁ」って僕に言ったんですよ! 正直、日曜日にTBSのバラエティを見ている娘の姿をあまり見たことがなかったので、うれしいですね。先ほど言った視聴満足度が非常に高く、視聴率も6月12日に8.3%と番組ベストが出てきたので、これから少しずつ頑張って、底上げして戦える日曜にしていきたいと思っています。

『この差って何ですか?』(毎週日曜18:30~19:56)
世の中にある"言われてみればちょっと気になる差"を徹底調査するバラエティ番組。MCは加藤浩次と赤江珠緒。

『珍種目No.1は誰だ!?ピラミッド・ダービー』(毎週水曜19:00~19:56)
さまざまなジャンルのプロたちが、一風変わったルールの珍種目で対決。MCは設楽統とウエンツ瑛士、レギュラーパネラーに日村勇紀。

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