シェアハウスに憧れる。テレビ番組『テラスハウス』で描かれたような、洗練された住人、小粋な交流、おしゃれな住まい、楽しく刺激的な毎日……。しかし不安もある。ひとつ屋根の下で暮らす同居人と気が合わなかったらそれだけでもうストレスだし、どうしても1人になりたい時に家の中に誰かがいるのは苦痛だ。そして、根本的に、四六時中他人に気を使いたくない。

5月1日にオープンした「NEIGHBORS 二子玉川」(東京都世田谷区)

「ソーシャルアパートメント」ってなんだ?

そんな人のためかどうかはわからないが、世の中には「ソーシャルアパートメント」という新しい住宅業態がある。シェアハウス並みに住人同士の交流を促す仕掛けがありながら、しっかりと一人ひとりのプライバシーも確保しているというものだ。入居者の78%が22~33歳と、若者に人気の物件らしい。一体どんな暮らしができるのか、5月1日にオープンした「NEIGHBORS 二子玉川」(東京都世田谷区)を訪れてみた。

「NEIGHBORS 二子玉川」は、東急田園都市線「二子玉川駅」から徒歩約20分、路線バスで約6分の立地にある。バスを利用すれば、「砧南中学校前」停留所の目と鼻の先だ。75戸を備えるワンルームマンションとなっている。

エントランスからラウンジに入ると、すぐ左手に、大きなパネル一面にディスプレーされた自転車のパーツや工具が目に入る。右手には、ソファや机が置かれた円形のスペース、正面に進むと、飲食店並みに大きなキッチンやダイニングスペース、ビリヤード台が置かれたスペースも現れる。どれも、手入れが行き届いた清潔で整然とした空間だ。

壁一面のパネルに、自転車のパーツや工具が

大きなキッチン

ビリヤード台もある

これらの空間が何なのかはひとまず置いておくとして、居室を見てみよう。ビリヤード台が置いてあるスペースを抜けると、部屋が連なる外廊下に出る。こちらは、いわゆるごく普通のワンルームマンションという印象だ。部屋の間取りはバス・トイレ・ミニキッチン付きのワンルームが基本で、全部屋南東向きのため日当たりも良好。小さいながらも、一人暮らしに必要な設備は十分そろった部屋となっている。

居室が連なる廊下。ここは、普通のワンルームマンションという感じだ

室内は、小さいながらも必要な設備がそろっている

シアタースペースにビリヤードも完備

さて、ワンルームの居室以外に見られた広々としたスペースだが、あの空間はすべて、住人が自由に使える共用スペースだ。ここに、ソーシャルアパートメントのポイントがある。同物件は、住人が自由に使える共用設備が通常のワンルームマンションにプラスされたものなのだ。

先ほど見たように、それぞれの居室は完全なプライベート空間となっており、日常生活はそこで十分に送ることができる。プラスアルファの要素として共用ラウンジやキッチンを取り入れることで、生活レベルの向上を図れるほか、住人同士の交流も増え、各人のプライバシーも確保できるというのがソーシャルアパートメントの特徴だ。

例えば、ラウンジを入って右手にある円形のスペースは「シアタースペース」となっており、スクリーンを下ろして自由に映画などを見ることができる。ビリヤード台が置かれた「プレイルーム」では自由にビリヤードで遊べるし、その奥の「ワーキングラウンジ」にはネット環境や電源も用意されており、勉強や仕事に打ち込める空間となっている。共用キッチンでは広々とした調理空間で自由に料理ができるようになっているほか、コーヒーメーカーやトースターなども備えられている。

映画などを見られる「シアタースペース」

仕事や勉強ができる「ワーキングラウンジ」には、電源も完備

キッチンにはコーヒーメーカーやトースターも

特に、ここ「NEIGHBORS 二子玉川」では自転車好きのための設備が数多く用意されており、建物内に入ってすぐのラウンジにディスプレーされたサイクルツールもそのひとつ。住人は、自由にそれらの工具を使って自転車の整備ができるのだ。また、室内型駐輪場を備えるほか、建物内(ラウンジ)への自転車の乗り入れも可能となっている。

ほかにも、マッサージチェアと浴室を備えた「ヒーリングスペース」や、部屋に収まらない調味料などをしまっておける部屋ごとのロッカーも、共用設備として用意されている。こうした設備面だけでも、普通の一人暮らしでは考えられない充実度だ。

ヒーリングスペースには、マッサージチェア2基と広めの浴室が2室備えられている

住人専用のロッカーも。収納の少ないワンルームマンションではうれしい設備だ

住人に暮らしぶりを聞いてみた

それでは、ソーシャルアパートメントで住人はどんな暮らしをしているのか。実際に住んでいる人に聞いてみた。「NEIGHBORS 二子玉川」に入居している長井圭太さんは、喫茶店に勤めていたこともあって料理が趣味。特にイタリアンが好きで、共用のキッチンを使って住人にピザを振る舞うこともあるという。

「NEIGHBORS 二子玉川」に入居している長井圭太さん。料理が趣味

「そういうのは思いつきでやるので、告知も直前ですね。その日の夕方に『4,5人くらい集まるかな……』と思って『ちょっとピザ作ります』と入居者のLINE(メッセージアプリ)に載せてみたら、どんどん人が集まってきて20人くらいになってしまって(笑)。おかげでピザを焼くのがすごくうまくなりました。こういう、ゆるくつながっている感じがすごく好きですね」。

物件にもよるが、入居者はメッセージアプリのLINEを使ってやりとりをすることが多いそうだ。シアタースペースで上映する映画DVDを用意して「9時から上映会します!」と投稿すれば、「間に合うように早く帰ります!」と誰かが返してくれるような雰囲気だという。

カップルは「生活リズムが付き合う前からわかる」

また、ソーシャルアパートメントで出会って交際し、結婚したカップルもいる。「WORLD NEIGHBORS護国寺」(東京都文京区)に住んでいる伊集院大樹さんと伊集院恵さんだ。2人とも居住歴は約2年で、今は挙式の資金をためるためにも同物件の部屋に同居しているそうだ。

「WORLD NEIGHBORS護国寺」(東京都文京区)で出会い、結婚した伊集院大樹さん(右)と伊集院恵さん(左)

2人の出会いを聞いてみた。大樹さんによると、出会いは「その時付き合っていた女性に振られた日」。「その日、彼女とエレベーターが一緒になりまして、『振られたから飲もうよ』と言って、一緒にお酒を飲んだのがきっかけです」とのことだ。

交際を始める前後にも、ソーシャルアパートメントならではの利点を感じることがあったという。「相手の生活習慣とか生活リズムとか、本来であれば、お付き合いを始めて、ある程度時間がたってからわかるようなことが、付き合う前から知れたのはよかったです。よそいきの顔ではなくて、プライベートな部分を知ることができるので」と大樹さん。

恵さんも、「自分から見た彼だけではなくて、私の友達から見た彼のこととか、違う人の視点から見たその人自身のことを短期間で知れたのはよかったです」と語る。同じ物件に住んでいるからこそ、相手のさまざまな面を短期間でより深く知ることができるようだ。

人間関係のトラブルは?

そうは言っても、人数が多いとやはり苦手な人もいるだろう。設備が充実した共用部も、誰かに会うのが嫌で顔を出せなくなっては元も子もない。人付き合いで困ったことがないか大樹さんに聞くと、こんな答えが返ってきた。

「僕が住んでいる『WORLD NEIGHBORS護国寺』には180人ほどの住人がいるのですが、やはり合う合わないはあります。しかし、共用部のスペースはうまく分かれていて、『苦手な人とも必ず同じ空間にいなければいけない』というつくりにはなっていないんですね。なので、こちらも"大人の対応"として避けることができます(笑)。住人同士の衝突はほとんどないですね」。

キッチンで談笑する伊集院さんたち。自然とコミュニケーションが生まれる空間設計になっている

ちなみに、別の住人が言うには、「男女間の好意の関係でたまに"モヤッ"とすることはありますが、知らない間に治まっています」とのことだった。

さて、気になる家賃やセキュリティーはどうなっているのだろうか? 次のページでは、ソーシャルアパートメントの運営会社であるグローバルエージェンツ代表取締役の山崎剛氏に話を聞く。