海外利用者がリーチしやすい施策

武藤氏: システムに関して言うと、国際線を展開したゆえに予約システムを進歩・改善させた点はありますか? また今後、中距離以上の路線を展開する場合、システム的に変えていかないといけないところはありますか?

五島社長: 2016年にもブッキングエンジンを新しくしましたし、ベースのところはだいぶできたと思っています。あと、求めやすさ・分かりやすさは大事です。いかに少ないクリックで購入できるか、分かりやすく案内できるか、これを充実させていくことが必要です。ひとつ課題だと思っているのは、新しいシーズンの発売開始やセールの際に一斉にアクセスが集中し、しばらくロックがかかりお客さまにご迷惑をかけるという問題があります。また、言語対応もありますよね。もっとアジアに入って行くとなると現地の言葉も必要になりますし。

武藤氏: 外国の方がいきなり日本のサイトにアクセスするのは難しいものがあると思いますが、流通チャネルについてはどう考えていますか? あと、そこに引き寄せるための運用型のリスティング広告等を海外サイトで展開するのも大事だと思いますが。

五島社長: 自社サイトもありますが、あと、OTA(Online Travel Agent: インターネット上だけで取引する旅行会社)の活用も力を入れてやっています。一部、中国でもやっているんですが、我々LCCモデルではネットの活用は非常に大事ですよね。また、その意味ではSNSでも工夫をしています。SEO対策も含めてオンライン広告はお金がかかるのですが、かけたお金以上の効果が出るのであればやりますし、今もやっていますよ。海外の発売を強化していくためには、そうしたマーケティングも非常に大事です。それは海外だけでなくは日本のお客さまもそうですね。どのページで離脱したのかなど、随時リサーチしています。

コミュニケーションの風土を築く

武藤氏: 最後に、バニラエアの企業風土に関しておうかがいしたいと思います。そもそもバニラエアは、ANA(現・ANAホールディングス)とエアアジアの共同出資だった旧エアアジア・ジャパンが合弁解消となり、ANAホールディングスが100%グループ会社として引き継ぎ、成田を拠点として2013年12月20日に再出発となりました。旧エアアジア・ジャパンから切り替えていくのは大変なことだったと思います。新しい企業風土をつくるというところで、一番心を砕かれたところはどんなところでしたか? また、五島社長として新しく力を入れてやっていきたいところは何でしょうか?

300人から始まったバニラエアには現在、600人以上の社員がおり、2016年度新入社員は過去最大の41人が入社した(ANAからの出向も含む)

五島社長: 私が2013年8月にこの会社に副社長として入った際(当初はまだ旧エアアジア・ジャパン)、経営母体は100%ANAホールディングスに変わってはいたものの、非常にギスギスしている印象を受けました。乗務員などとも話をしたんですが、「意見をしてもなかなか通らなかった」「入社前に約束していたことと話が違う」という声もあり、「じゃあこれからどうしていこうか」というところからスタートしました。

2013年10月26日で休止し12月20日に再開するまで、飛行機が全く飛ばないという一切収入を生まない時期がありました。その間は本当にきつかったと思いますが、「それでも頑張る」と言ってくれた社員が残ってくれたんですから、そうした社員みなさんを大事にしていきたいと思っていますし、重い責任も感じています。いかに利益を上げ続けてステークホルダーに還元していくか。もちろん雇用を守るということも大事な使命です。

社員のみなさんには口酸っぱく言っていますが、低運賃で利用してもらうというのがスタートラインであり、低運賃を達成するには創意工夫が必要になるんですよね。どうしたらもっと良くなるのか、他社や他人を見て、自分の過去を見て、自分も考える。そうした情報をみんなで共有するコミュニケーションの風土をつくっていきたい、そう考えています。

―対談を終えて―

今回の対談で印象的だったのは、バニラエアとしての「再出発」を3年目の黒字化で順調にすべり出し、2020年に向けて大きく事業を拡大していこうという自信と意欲がにじんでいたことだった。

1月末にANAホールディングスの中期経営戦略が発表された際、バニラエアの2020年の路線拡大図が1項目立てて述べられていたのには驚かされた。「100%子会社」としてANAホールディングスが全面支援するという看板を掲げると同時に、唯一中期計画に名指しで取り上げることでバニラエアの自覚とモチベーションを高め、親会社に過度に依存しないLCCとしての自立を期待するあらわれということなのだろう。

五島社長から語られた将来に向けた課題解決意欲は、この一連の戦略を実現する上で明確なビジョンを感じさせるものだった。台湾の基地化で以遠ネットワークを構築、その後に新機材を活用した長距離路線の開拓というシナリオは十分に合理性、説得性を持つものと言えるが、問題は実現力とスピードだろう。これからは日本の中での競争でなく、異常とも言える低コストを武器とするアジアLCCとの勝負になるからだ。

1月に発表されたバニラエアの2020年のネットワークイメージ(2016~2020年度 ANAグループ中期経営戦略より)

ひとつだけ気になったのは、今後の成長戦略の大部分が国際線拡大によるもので、国内での事業展開が少ないことだ。選択と集中を是とする航空会社の戦略としてはある意味当然とも言え、国内他社の考えも同じかもしれない。今後の日本の航空需要の成長を支える外国人旅客の受け皿として、地方空港の活用が重要との見方も多くある中で、日本の航空会社がどれだけ地方創生に寄与していくのか、今後の業界の課題として注視していきたい。

また、現在のアジア・世界のLCCの事業戦略は、「長距離LCC」「コネクティビティ」「アライアンス」をキーワードに事業展開を考える「LCC第二期」に入ったと言われている。このようなLCC激戦環境の中で、バニラエアは石井会長のもとで「明るい再出発」を果たし、今後、五島社長による「理詰めの成長」を実現していくわけだ。ANAグループの中での独自の個性をどう作り上げていくのかも興味深く、大きな期待とともにこれからの歩みを見守っていきたい。