4月1日から新年度が始まった。金融市場では、27~28日に開催される年度最初の金融政策決定会合で日銀が動くかどうかということに、今後関心が集まるかもしれない。

日銀は今年1月の会合でマイナス金利の導入を決定した。その後、国債利回り(市場金利)は10年までの年限のものがすべてマイナスとなったので、市場金利に「より強い下押し圧力を加えていく」という日銀の狙い通りになったと言える。

他方、マイナス金利導入の決定直後に120円を超えたドルは、一時110円近くまで下落した。そうした円高は日銀の想定外だったに違いない。また、マイナス金利導入が金融機関の経営に懸念を生じさせたり、消費者(預金者)のマインドを悪化させたりするなど、負の側面が目立つ状況ともなった。

かかる状況下で、金融政策決定会合後に公表される「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」で、2%物価目標の達成時期の予想を一段と先送りするのであれば、日銀は「躊躇なく調節する」決意を固めるかもしれない。

もっとも、日銀の追加金融緩和に対して、追い風ばかりではない。2月の上海G20(財務大臣・中央銀行総裁会議)では、経済成長を高めるため、「我々は全ての政策手段‐金融、財政及び構造政策‐を個別にまた総合的に用いる」と宣言された。その中で、金融政策は重要な柱だろう。一方で、同じG20声明で、「金融政策のみでは均衡ある成長に繋がらない」、「競争力のために為替レートを目標とはしない」と釘を刺されてもいる。

安倍政権は、ノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツ氏やクルーグマン氏を招いて、「増税より財政出動を」との言質を得るなど、消費増税の再延期に向けて布石を打ちつつあるようにみえる。また、安倍政権が16年度予算の執行前倒しや補正予算などの経済対策を策定するとの報道もあるようだ。

追加金融緩和に加えて、財政を出動させるというのは、先のG20声明の「全ての政策手段を総合的に用いる」ことと整合的ではある。ただし、財政の動きが、5月26-27日の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)、6月1日の通常国会会期末、あるいは7月の参院選前後に本格化するとみられるなかで、日銀は一足先に動くのを躊躇するかもしれない。

それには苦い思い出があるからだ。2014年10月31日の量的・質的緩和第2弾、いわゆる「ハロウィーン緩和」は、2015年10月の消費増税(8%→10%)実施の決断を援護射撃する意味合いもあったはずだった。ところが、安倍首相はそのわずか18日後に消費増税延期と衆院解散を発表したのだ。当時と状況は異なるものの、ハシゴを外された格好の日銀にとって、それがトラウマになっていなければ良いのだが。

ところで、米国のFRB(連邦準備制度理事会)がFOMC(連邦公開市場委員会)の結果を発表するのが、日本時間で4月28日午前3時ごろだ。金融政策決定会合の結果はそのわずか10時間後に判明する。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。

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