日本財団が運営する「ママの笑顔を増やすプロジェクト」は2月18日、女性のためのリベラルアーツ講座を開催。「『ママ起業』は難しくない - 元専業主婦の社長らが語る自由度の高い働き方」と題した前編では、専業主婦から起業を果たしたウーマンスタイルの成田由里 代表取締役、日経BP社の記者を経て女性向け人材サービスの会社を立ち上げたWarisの田中美和 代表取締役、それに働く女性向けの生活実用誌「CHANTO」の山岡朝子 編集長が「ママ起業」について語った内容をお伝えした。

後編となる今回は、参加者の質問に対する回答からみえてきた、3人が考える「起業のハードルを乗り越えるコツ」や「女性のキャリア観」について紹介する。

左から、Warisの田中美和 代表取締役、「CHANTO」の山岡朝子 編集長

やりくりで大事なのは「やらないこと」を決めること

――「起業したら自由に働ける」と聞きますが、かえって大変になることが多いということはないでしょうか。また大変だったとしてどのようにやりくりされていますか(参加者)。

成田さん: 私は起業する前に在宅ワークをしていたのですが、確かに慣れるまでは大変でした。でも例えば朝4時に起きて7時まで仕事をしてそれから家事をする、というような融通がきくので、習慣として身に付いてしまえば、育児しながらの仕事としてはやりやすかったですね。

起業してからも、風土や設備さえ整えばやりくりが可能だと思います。例えば私の会社にはシステムキッチンが完備されています。ですから、仕事中におでんを煮込んでおいて家に持ち帰る、ということもできます。そうすれば、仕事中の時間が有意義に使えるだけでなく、帰宅後の料理の負担が1つ減りますよね。

一方で、やはり仕事の範囲は広がるし量も増えるので、「やらないことを決める」というのも大切だと思っています。仕事は自分たちの得意なことに集中する、なくてもいい書類は作らない。家事についても毎日掃除機をかける必要はないし、自分がやらなくてもいいことをどんどんやめていく。限られたお金と時間をどこに集中させるか、「戦略」を決めることが大切です。

「プロボノ」「ネット販売」から始めてみる

――会社員として働いていると、なかなか今の環境から起業へというには勇気が必要だと感じています。起業に踏み出すきっかけを、どのように考えたらいいでしょうか(参加者)。

講座の参加者から質問が飛び交った

田中さん: 「会社でもう十分やりきった」という思いがあれば、卒業のタイミングかなと思いますね。それと、「小さくチャレンジする」というのもいいと思います。今の会社が副業OKの会社なのであれば、例えば週末だけやりたいことを形にして、収入を得てみるっていうのもありだし、副業がNGなら「プロボノ」(スキルをいかしたボランティア)という手もある。私自身も会社員時代、「プロボノ」として社団法人の広報や協賛営業をやっていたんですね。ボランティアなのでチャレンジしやすいですし。

山岡さん: 「インターネットで手作りの商品を売る」くらいのことから初めてみてもいいですよね。今はインターネットのサービスがすごく充実していて、ネット上のお店も簡単に作れるし、プロモーションも簡単にできる。仕事としてやっていけるか、どれくらいのお客さまが付きそうかというのを試してみて、手ごたえが出てから会社を辞めてもいいのではないかと思います。

成田さん: 主婦の起業という視点で言うと、夫が働いていたら収入はあるので、「自分がパートに出るくらいの収入は好きなことで稼ぎたい」くらいの気持ちで始めたらいいのではと思っています。誤解を恐れずに言うと、逆にそこが主婦ならではの特権だと思います。気楽に始められるし、ダメならパートに出てみればいいと、それは悪くないと思います。

やりたいことは口に出していく

――どのように自分のやりたいこと、起業の軸をみつけていきましたか(参加者)。

田中さん: インプットとアウトプットを繰り返したことで、やりたいことが見つけられたと思っています。私の場合は会社員時代、キャリアカウンセラーの勉強をしたことが大きかったです。女性がキャリアを作っていくための伴走者になりたいという気持ちがそこで芽生えました。

そして会社を辞めたあとに関しては、会う人会う人にやりたいことを言っていました。でも最初から、人材サービスの会社をやりたいと思っていたわけではないんです。「女性の働きやすさに貢献したい」という思いを伝えていくうちに、今の創業メンバーを紹介されて、最初は女性向けの勉強会を企画していました。趣味の延長なので、気楽ですよね。でも、勉強会の運営を通じて働く女性の課題を共有しているうちに、働き方が固定化しすぎているのではないかという疑問にぶつかった。それが、フレキシブルな働き方を提供したいという思いにつながり、起業できました。

3人が考える女性のキャリア観

成田さん: 私は専業主婦をしているとき、子育てがつらいと感じていました。「今日1日、大人としゃべっていない」というような隔離されている感じがあって、いつかまた仕事したいと思っていました。でも子育てを通して、「自分の思い通りにならないことってこんなにあるんだ」と思えた経験は今もいかされている。経験したことで無駄なことなんて何もないと思います。

田中さん: キャリアを考える上での理論として「プランドハップンスタンス理論」というのがあるんですね。「キャリアの約8割は偶発的な出来事で決まる」というもので、この考えに私自身救われています。会社員からフリーランスになって、志を同じくする仲間たちと出会って起業するというプロセスは、決してプランニングされたものではなかったですが、これでよかったと思えるからです。

そしてこの理論では、偶発的な出来事をポジティブにいかすためのポイントとして「リスクテイク」をあげています。キャリアを考えるときに、リスクをとることが重要だといっている。とても励まされる言葉なのではないかと思います。

山岡さん: 私が仕事上で接してきた女性の中に近藤麻理恵さんという方がいらっしゃいます。みなさんご存じの片付けコンサルタントなのですが、実は学生時代、うちの出版社でアルバイトをしていたそうです。片付けや暮らしの知恵がのっている、主婦向けの雑誌が大好きだったからということでした。今や「世界で最も影響力のある100人」にも選ばれる有名人ですが、彼女だって最初からそうなったわけではなく、片付け好きが高じて人の家の片付けを手伝いに行ったり、人に片付け方を教えに行ったりしていた過程を踏んでいます。

「好きなことを仕事にする」ってそんな簡単なことではないでしょ、と思いますが、本当に好きなことって仕事にいきてきます。だから、誰でもいつからでもどこからでもスタートできる。あとは、「好き」を仕事として実現するための行動力があるのかないのか、そこだと思いますね。