東京都はこのほど、2022(平成34)年度をめどに都立小中高一貫教育校を設置する方針を固め、検討委員会がまとめた報告書の内容を公表した。学校像(案)として「国際的に活躍し社会に貢献するグローバル人材の育成」を掲げており、都立立川国際中等教育学校(立川市)に附属小学校を開校する予定という。
2月に開かれる都教育委員会で正式決定された後、報告書をもとに具体的内容について検討する。同一設置者が公立の小中高一貫教育校を開くのは全国で初めて。
特色は帰国子女と学ぶ国際色豊かな環境
都立小中高一貫教育校は当初、猪瀬直樹・前知事が理数系に強いグローバル人材の育成を構想したもの。小中高の区切りを4年ごとの「4-4-4制」とし、旧都立芸術高等学校跡地(小学校4年まで)と都立武蔵高等学校・同附属中学校(小学校5年から)に2017年の開校を目指していた。
前知事の辞任後に計画はいったん白紙に戻されたが、舛添要一知事のもとで検討を再開した。今回まとまった報告書では、中学入学時点での追加募集も想定し、現行の「6-3-3制」を採用。場所も小中高がすべて同一の敷地内に設置できるよう変更した。
教育理念としては「高い語学力」「豊かな国際感覚」「日本人としての自覚と誇り」を掲げ、早期から帰国児童・生徒や外国人児童・生徒と一緒に学ぶ国際色豊かな学校環境を特徴としている。具体的には、英語力を身につけさせるために小学校3年から外国人指導者による英語の授業を取り入れたり、海外留学や海外姉妹校訪問などの活動を推進したりする。そのほかにも地域行事に参加して伝統文化への理解を深めたり、ボランティア活動を通して国際貢献への意欲を養ったりすることなども検討している。
また、一貫校のメリットを生かし、国語、社会、算数・数学、理科、英語の5教科で先取り学習を進め、小学校5年生から教科担当制や定期考査も段階的に導入していく考え。新設小学校の規模は1学年2~3クラス。入試で志望者の抽選は行わず、国立小や私立小の入試で行われる面接や行動観察を参考に選抜を行うとしている。受験資格があるのは都内に住む小学校就学予定者で、通学時間に「1時間程度」などの上限を示す見込み。
人間関係の固定化、学力差の拡大などに課題
一貫校ならではのメリットに期待が集まる一方、課題も指摘されている。その主なものは「人間関係の固定化」「学力差の拡大」「中だるみ」の3点だ。そのため検討委員会は、「適性検査を用いて中学第1学年からの生徒募集を実施することが適当」としているが、その場合、在校生・新入生間の学習進度のギャップをいかに解消するかという新たな課題も発生することになる。
同時に、在校生については「本人や保護者が進路についてあらためて考える契機とするため、中学への進学の際に選考を実施することが必要」として、学習についていけない児童・生徒の”振るい落とし”をする可能性も示唆している。
「附属小受験が過熱」「恵まれた子が集まる」
このニュースについて、Twitter上では多くのツイートが見られた。小学生の子どもがいるという女性は「附属小の誕生で中等教育の門戸が狭くなることは問題があると思う。附属から入学する人数が多いとなると、附属小受験が過熱するのは明らか」とコメント。東京都内には現在、都立中等教育学校5校、併設型中高一貫教育校5校が設置されており、平均受験倍率は6.22倍(2015年度)と人気が高い。今後、小中高一貫化が進んでいけば、中学から受けられる公立校の枠が減っていくのではないかと懸念されるのだ。
そのほかにも「対策が可能な経済的に恵まれた環境の子が集まる」「そんなことにお金をかけるなら都立高校の質を上げるべきでは」などの声も相次いだ。都はこれらの課題を踏まえ、入試やカリキュラムなども含めた詳細について今後の検討委員会で決定していく予定だ。全国初の公立小中高一貫校がどのような形で誕生するのか、今後の動きに注目したい。