番頭自慢の「日本式」温泉

「水着じゃ温泉感がイマイチ……」という人もいるかもしれない。そんな人にオススメなのが、100年以上の歴史を持つ老舗温泉「瀧乃湯」だ。敷地内には「皇太子殿下御渡渉記念」の石碑が立っており、当時皇太子だった昭和天皇もこの瀧乃湯に来訪されたという。

老舗温泉「瀧乃湯」は日本の銭湯を想起させる造り

瓦づくりの瀧乃湯の正面をのぞくと、「男湯」「女湯」と書かれた番頭が目に飛び込んでくる。日本の銭湯を思わせる味のある番頭だ。入浴料の100台湾ドル(約370円)を手渡すと、「うちは熱いから気をつけてね」と番頭さん。「いいと思う」と答えると笑っていたのだが、湯につかればその笑いの意味が分かる。確かに熱いのだ。温度は40~44度と書かれていたが実際はもっと熱いように思われた。投入口は60度にもなるようなので、浴槽の中でちょうどいい湯加減スポットを探してみるといいだろう。

番頭のデザインも日本風。pH値1.0~1.4と酸性度が高い。温度は40~44度とあるが、肌感では44度以上のように思われた

そもそもこの瀧乃湯は構造が面白い。男湯・女湯の扉を開けると入浴中の小休止をしている裸の人たちがすぐそばにおり、服を脱ぐ脱衣場が見当たらない。よく見てみると脱衣場は浴場の奥にあり、入浴中の人たちを横断して脱衣場に向かうことになる。また、かけ湯のための蛇口は水しか出ない。我慢してこれをかぶるしかないのかと思っていたら、周りの人が気にかけてくれ、水溜めの桶に浴槽の湯を足し、ジェスチャーで「これをかけなさい」と教えてくれた。

なお、台湾には台湾ならではの温泉ルールがある。まず、かけ湯は必須で、湯にタオルをつけるのはもちろん、湯の中で手や顔などをこするのは禁止されている。なお、瀧乃湯の湯は酸性度が高いので、ネックレスや指輪などの貴金属類は変色を防ぐために外した方が無難だ。1回の入浴時間は5分以内と書かれていたが、心配せずともこの熱さでは、5分以上じっとつかるには忍耐力が試されるだろう。

ここにコーヒー牛乳があれば完璧銭湯だ

レトロ空間で周りをうかがっていると、湯につかっている人よりも、浴槽の周りで話しをしたりマッサージしたりしている人の方が多い。基本的に番頭さん以外は英語も日本語も通じない。なので、周りの人がどのような話をしているのか分からないのだが、土曜日朝の井戸端会議ならぬ"温泉会議"の内容を想像してみるのも興味深い。入浴後、番頭さんに「確かに熱かった」と告げると、「うちは日本式だからね」とやや誇らしげに話してくれた。

天然温泉の足湯につかりながら新聞も

さらに地元民の"温泉心"を知りたいなら、北投公園から新北投駅方面に戻り、北西方面に5分歩いた先の「復興公園」へ行こう。ここには無料で楽しめる天然温泉の足湯がある。それも3つもだ。

「復興公園」に続々と人が訪れる

ここの足湯は深く、湯の中に立てばひざ上まで湯がつかる。そのため、みな一様にズボンを思いっきりたくしあげてつかっている。3つの湯は温度が異なり、筆者が訪れた時は40.4度、42.6度、そして45.4度となっていた。一番混雑していたのは3つの中では低温にあたる40.4度の湯のようだった。

3つある足湯はどれも深く、ひざ上まで湯がつかる

足湯と言えど、かけ湯は必須。もしそのままつかろうものならば、周りの人からすごい勢いで注意される。湯につかりながらの飲食は禁止されているが、水分補給程度ならOKなのだろう。ボトルを手元に足湯を楽しんでいる人のほか、携帯電話を操作しながら、また、新聞を読みながらという人までいる。朝の散歩にちょっと寄り道、という人も多いのだろう。この足湯があるのは公園なので、すぐ側では子どもたちが走り回っている。

ロッカーに荷物を置き、ここでかけ湯をしてから入らないと地元民に注意されてしまう

新聞を読むのが習慣ならば、足湯もまた習慣なのだろう

足湯の側では子どもたちが一生懸命遊んでいる

温泉を存分に楽しんだら水分補給はしっかりと。台湾ならではのドリンクといえば、もちもち食感がたまらない「QQ(キューキュー)」は外せない。台北市内に店舗を拡大しているオレンジマークのドリンクショップ「橘子工坊」は、新北投駅そばにも店を構えている。

「橘子工坊」のタピオカミルクティー(Mサイズ35台湾ドル=約130円)はとっても甘い

定番のタピオカミルクティー「招牌QQ○茶(「女乃」を1字で)」(Mサイズ35台湾ドル=約130円、Lサイズ40台湾ドル=約150円)片手に、ショップ前のベンチに座って小休止。のんびりと街を眺めていると、こんな穏やかな時間がこの街ではこれからも変わらず流れていくんだろうなという思いにさせられた。なお、MRT内ではガムも含めて飲食は罰金対象となるので、ドリンクは飲みきってから乗車することをオススメしたい。

※1台湾ドル=3.74円で換算。記事中の情報は2015年12月取材時のもの