米FRB(連邦準備制度理事会)が12月のFOMC(公開市場委員会)で利上げを開始するとの見方が強まっている。

前回10月のFOMC声明が「次回の会合で利上げが適切かどうか判断する」と宣言したからであり、その後に発表された10月の雇用統計が強かったからだ。NFP(非農業部門雇用者数)は前月比で今年最大の増加をみせた。また、失業率がリーマンショック前の2008年4月以来となる5.0%まで低下し、賃金の伸びも加速の兆候をみせるなど、ディテール(細部)もFRBの背中を押す内容だった。

FRBが「次回」と特定の時期に言及したのは極めて異例だが、そうであるならば、経済情勢に大きな変化がない限り、12月に利上げに踏み切る可能性は高い。もちろん、12月4日に発表される11月の雇用統計がさらに重要であることは言を待たない。

米FRB(連邦準備制度理事会)のイエレン議長

12月にFRBが利上げを開始する場合、何が起こるのか!?

さて、12月にFRBが利上げを開始するとして、何が起こるのか想像してみたい。

まず、利上げの方法が従来とやや異なる。政策金利は、短期市場金利であるFFレートの誘導目標だ。以前の目標は一つの値だったが、2008年12月に事実上のゼロ金利政策に移行してからは、0-0.25%というレンジで目標が設定されてきた。そして、最初の「利上げ」はその目標レンジを0.25-0.50%に引き上げることになるようだ。目標をレンジで設定するのは、短期金融市場に資金があふれており、そこで取引される金利を一定の値に収れんさせるのが難しいからだ。

FRBは2014年10月にQE(量的緩和)を終了させたものの、引き続き4兆ドルを超える債券を保有している。その対価は市場に放出されたままだ。FRBは当面、保有債券を売却するつもりはない。超過準備(民間銀行が必要以上にFRBに預けている資金)に付する金利を引き上げたり、リバースレポ(RRP)を行ったりして、金利を誘導することになる。予行演習は大過なく行われたようだが、本番が上手くいくかは未知数の部分がある。

より重要なのは、声明や議長の会見のなかで、「その後」に関するどんなヒントが出てくるかだろう。これまでにもFRBは、「いつ利上げをするかという個々のタイミングではなく、政策金利のパス(軌道)が重要であり、それは従来の利上げに比べて非常にゆっくりしたものになる」、「目指している水準は従来の適正な水準に比べてかなり低い」といったメッセージを繰り返してきた。

現在、金融市場の一般的な予想は、「利上げは今年12月に1回、加えて来年中に2回、おそらく6月と12月」というものだ。そうした予想の変更を迫るようなメッセージが発せられるだろうか。次回、FOMCは12月15-16日に開催される。ホリデーシーズンの真っただ中だ。市場参加者は少なくなっているだろうから、ささいな変化が大きな相場変動をもたらさないとは限らない。注意は怠れない。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。