多くの人にとって、高級フランス料理店は敷居が高い。ズラリと並んだカトラリー、よくわからない文字が並んだワインリスト。恭しいスタッフのサービスですら、緊張度がアップしてしまう、という人は少なくないだろう。ここでは前編に続き、東京・恵比寿にあるホテル「ウェスティンホテル東京」内のフレンチレストラン「ビクターズ」の料理を実際にいただきながら、料飲部長の石黒憲さんにマナー解説していただく。

教えていただく方

ウェスティンホテル東京 料飲部長 石黒 憲さん

都内ホテルで経験を積み、ウェスティンホテル東京に2014年入社。料飲部長としてホテル内の全レストランとバンケットを統括・指導している。「一緒に食事をしている人に不快感を与えず、かつ楽しく食べることが一番大事なマナー。『絶対にこう! 」というものはなく、ただ「上手に食べるにはこういう方法がありますよ」というのがマナーだと思います」とのこと。

フォークで刺せないサラダの食べ方

フォークで刺せない食材は、フォークをスプーンのようにしてすくって食べる。ナイフで壁を作ると、食材が逃げずにフォークに乗せやすい。手前から奥に向かってフォークを進めるとスマートに見える

飲み物が決まれば、食事の時間。ここで運ばれてきた「ホタテのマリネ サラダ仕立て」でふと迷いが。今回のように、葉もの野菜など厚みのない食材はフォークで刺しにくい。どのようにして食べればよいのだろうか。石黒さんに聞くと、「フォークはスプーン代わりにもなります。フォークのアール部分をうまく使ってすくうようにするとよいです。素材が逃げてフォークにのりにくいときは、ナイフで壁を作って料理をせき止めるとよいでしょう」。

ところで、料理と共に供されるパン。ここでも1つ、心配なことがある。「ちぎって食べているうちに、パン皿の周りにパンくずが散ってしまって恥ずかしい」という人がいるのだ。例えば彼氏とのデートで、彼氏より自分のほうがパンくずの量が多かったりすると、女性としては恥ずかしかったりもする。思わず手で払ってしまいたくもなるのだが、これは絶対にNG。「パンくずが散るのは当然のこと。床に落とすほうがマナー違反です。デザートの前にスタッフが片付けますのでお気になさらず」とのことだった。

パンくずが散るのは仕方ない。自分でテーブル下に払う方がマナー違反になる

次はスープの「冬瓜入りビーツの冷たいスープ セロリ風味のクリームを浮かべて」。手前から奥に向かってスプーンを入れ、一口ずつすくって飲んでいく。そして残りが少なくなったとき。「器を傾けてすくって大丈夫です。でも、無理に全部なくなるまで飲む必要はないですよ。一滴も残さないように飲もうとすると、器にスプーンがあたり、カツカツと音がなってしまいますので気をつけましょう」。

これ以上飲もうとすると、スプーンが器に当たってしまう。こういった音は周囲の迷惑になるのでご注意を

また、途中でスプーンをおきたくなった場合はどこで置けばいいのだろうか。「スープボウルの場合、スープボウルの中にスプーンが入っていたら、まだ飲んでいる途中という意味。クープグラスだと、少量なので休まず飲み終わる場合が多いです。ソーサーにスプーンを置いたら飲み終わりというサインです。スプーンは奥に置いた方がスマートだと言われますが、それほど気にしなくとも大丈夫です」。

そして魚料理の「白身魚の蒸し焼き フヌイユの香り 甲殻類のソース」。「この料理はソースが非常に多いので、スプーンも添えてあります。魚の身を繊維に沿って崩したのち、ソースと一緒に身をスプーンにのせて食べてもいいですし、ナイフで切ってフォークの上にのせて食べてもよいです」。

魚は繊維に沿って身が崩れやすい。スプーンが添えられていてスプーンで食べるときは、フォークで身を押さえ、スプーンで身をはがしたのち、スプーンにソースと身をのせて食べる

口の中の骨は、ナプキンで口元を隠しつつ、フォークにのせて口から出す

魚料理で一番困るのは小骨。口に入れてから骨に気づいた場合はどうすればいいのだろうか。「口元をナプキンで隠して骨をフォークの上に出し、自分の皿のあいたところに置きます。後ろを向いたり、大げさに顔を背けたりするのも変ですので、さりげなく」。

肉料理は「鴨のロースト ハニーレモンソース」。今回の肉料理は食べやすい内容だが、骨付きの場合はどうすればいいのだろうか。「骨を手でつかんでガブッ」はNGですよね……。しかし、「骨付きの肉は、手を使ってもかまいません」と意外な回答。フランス料理、意外と懐が深い。

食事中の中座は?

いよいよ最後のデザート「野菜のパルフェ」。こちらのレストランの名物だ。前菜からデザートまで、ゆっくり楽しんでいると2時間程度はかかるだろう。そこでふと気になるのが「中座はOKか」という点。

「基本的に食事中の中座はNGです。しかしどうしてもという時は、まず同席の人に『すみません、中座します』ときちんと断る。そして、イスは自分でひいて立たないほうがスマートです。スタッフを呼んで中座することを伝え、椅子をひいてもらいましょう」。

厨房では、ベストのタイミングで料理を楽しんでもらえるよう作業をしている。スタッフに断って中座をすることで、厨房に連絡が行き、料理を出すタイミングを遅らせてくれる。自分自身がおいしく料理を頂くためにも、この配慮は忘れないようにしたい。また、中座の際はナプキンは椅子の上に置いておくのがスマートだ。

ちなみに、ドラマや映画を見ていると、「シェフを呼んできてくれたまえ」なんてシーンがある。あれは実際にどうなのだろうか。「もちろんご希望があれば対応いたします。しかし、メイン料理が出てくる前といったタイミングだと、シェフも厨房内で忙しい時間帯です。レストランでは、他のお客様が不快にならない振る舞いもマナーの1つですので、もしシェフに挨拶を、ということであればデザートの後のタイミングなどがよいかと思います」。

いかがだろうか。高級フランス料理といえば緊張してしまうかもしれないが、店のスタッフも超一流なのだ。変に背伸びしたりせずに、スタッフにゆだねてしまったほうが心地よく食事を楽しめるように思う。高級フランス料理店ならではの上質な時間をリラックスして楽しんでほしい。

ディナーコース「ビクダーズ」1万2,000円(税・サービス料込)

※写真は9月末まで提供の夏バージョンの料理内容

「ホタテのマリネ サラダ仕立て」

「フィッシュ&チップス ブロッコリーソース」

「冬瓜入りビーツの冷たいスープ セロリ風味のクリームを浮かべて」

「白身魚の蒸し焼き フヌイユの香り 甲殻類のソース」

「鴨のロースト ハニーレモンソース」

「野菜のパルフェ」

「野菜のマドレーヌ」

ウェスティンホテル東京 フレンチレストラン「ビクターズ」

落ち着いた上質な雰囲気の中で楽しめる、厳選した食材の個性をいかした創造性豊かな料理が特徴的。今年春からは野菜を中心としたこだわりのフレンチ"野菜フレンチ"をスタート。シンプルな調理法で野菜のおいしさを最大限に引き出したコースが評判に。窓の外には東京タワーからお台場レインボーブリッジまで見渡せるという抜群のロケーション。

撮影: キミヒロ