――後藤田の先輩に当たる後藤隊長には、どんな印象をお持ちでしたか?

後藤先輩のことは、今でもちゃんとは理解できませんね。でも(後藤田が)同じ方向の役なので、後藤さんのことは押井監督の本を読んだりして研究したんですけど、押井監督が望むであろう上司像なのだなというのはわかりました。だから、(後藤が)押井さんだということですね。

――では、後藤田は?

そうなろうと思っても、なかなかなりきれない所があるんじゃないでしょうか。(後藤を)目指すというより、引きずられているというか。

――シリーズ編ではひょうひょうとした振る舞いが印象的でしたが、『首都決戦』では正に渦中に置かれシリアスなシーンが続きました。役作りで意識して変えた部分はあったのでしょうか?

長編から初めて見る方もいると思うので、少しわかりやすく演じたところはあるかもしれません。基本的にシリアスですが、全部シリアスという訳ではなくて、そうでない部分は少しコミカル目にやっていたのかなとは思うんですけど……やってないかもしれない(笑)。4Kで観るのと、2Kで観るのとでは、全然印象が違うんです。4Kのほうがより深いんですよ。表情とか、写りがぜんぜん違いますね。

――シリーズでは回を重ねるたびに後藤田の存在感が増して行った印象があります。ご自身でも演じるうちに変わっていった部分はありましたか?

長編では特に出番が多くて、ほとんどシリアスなのですが、そうなることはわかっていたので、シリーズの方ではありとあらゆる方向の後藤田を見せたいと思っていました。だから、演技はいろいろとその場その場で工夫してやっていましたね。

もちろん、これはずっとシリーズを見てきた方にしか通用しませんけど、その方々の頭の中にはありとあらゆるシーンの後藤田のイメージが入っていると思うので、逆に今回はあまり大きく動かずにシリアスな演技を続けても、いろいろ見えてくるのではないかと思います。どちらかというと、長編では抑え目ということですね。

――公安の高畑(高島礼子)が、シリーズ編に続き今回も重要な役割で出てきました。

高島さんとの共演は初めてではないですし、(二人のシーンは)何か違う作品を撮っているようで楽しかったですよ。僕は長編ではほとんど隊員たちとは会っていませんでしたし。フランス映画を撮っているような気分でした。映っているものとか、風景なども含めて。フランス映画には出たことはありませんけどね(笑)。

――シリーズ編では切れ者だけに危ないものはうまく避ける人物のように見えましたが、今回は使われているとわかっていながら使われる行動に出ていますね。

後藤田というのは言っていることと考えていることが違う人なので。いろいろ先読みしてやっている人なんです。結局、やらないわけにはいかないんですね、高畑さんからの命令は。やらないわけにはいかないんですけど、会話の中でどれだけ探れるか、という部分がある。だから、中身としては流れのことしかしゃべってないんですけど、実はあのシーンは公安とこちらの腹の探り合いをしているシーンなんですよね。

ただ、そうしながらも巻き込まれたくはないんですよ。要するに前と同じようなことが起きているので、巻き込まれれば(後藤と)同じ道を行ってしまうわけです。だからやりたくない。そのあたりの逡巡があるんですよ、前半は。先代は失踪していなくなってしまったし、同じ轍を踏まないつもりできているのに、またそういうことになっているというのが、隊長としては本当は嫌なんですよ。でも最終的には"守るため"にやる気になって……という流れですね。

決して、ロボット映画ではない

――押井監督は筧さんから見てどんな方でしたか?

押井さんは"総監督"というのがふさわしい方、という印象です。周りの人が出してくる技術を総合的に見て、最終的にバランス良くまとめるというところなど。監督というのはもともとそういう職業なんですけど、押井監督は特にそういう感じがします。監督自身が作るというより、ある程度は自分でやるけれど大部分は周りにやらせて、出された素材や技術を組み合わせる。そういう印象でした。

今回の『首都決戦』について言えば、世間の人が好きな押井監督のアニメの感じがあるじゃないですか。完全に、その実写版になっています!

――最後に、公開を楽しみにしているファンの方にメッセージをお願いします。

普段、この社会で平和に生活している私たちですが、それが本当に当たり前ではないのだということが、最近徐々に分かり始めているわけです。そういった中で、少しザワついてきたみなさんの心に、この作品は深く刺さっていくのではないかと思います。これは決してロボット映画ではございませんので、心して劇場に足をお運びください。


筧が演じる後藤田隊長は、シリーズ編エピソード12になるまでストーリーの中心に描かれることはなかった。だが、それまでの段階で描かれすぎないことが、時間をかけて見えない部分の見えないがゆえの存在感を示唆する要因にもなっていた。筧が狙ったとおり、シリーズから追い続けたファンなら『首都決戦』に"いつもと違う"後藤田隊長の重みを感じることになるだろう。

劇場版『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』は、2015年5月1日より新宿ピカデリーほか全国公開。

■プロフィール
筧利夫
1962年8月10日生まれ 静岡県出身。代表作はTVドラマ『踊る大捜査線』シリーズ、『ルーキー!』、『Dr.コトー診療所』シリーズなど。映画や舞台、ドラマはもちろん、バラエティー番組への出演、ナレーターなど活躍の場を広げている。

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