ロマンチックな恋物語ゆえに、縁結びの寺としても知られる「深大寺」(東京都調布市)。また、徳川三代将軍・家光が鷹狩りの途中に立ち寄った際、その味を絶賛したという言い伝えもあるそばは、深大寺と切っても切れない関係だ。さらに、深大寺周辺には漫画家・水木しげる氏の"水木ワールド"全開な「鬼太郎茶屋」も。そんな深大寺でぶらり散歩はいかがだろうか。
引き裂かれた恋人を水神が結ぶ
深大寺の最寄り駅は、新宿駅から京王電鉄で約15分乗った先の調布駅で、さらにそこからバスで約10分行けば深大寺にたどり着ける。深大寺そのものは水神の深沙大王に由来し、奈良時代の天平5年(733)に満功上人が開山したと言われている。
冒頭で触れた恋物語「深大寺縁起」は、この満功上人の両親のもの。父・福満と豪族の娘が恋に落ちたが、娘の両親が反対して娘を湖の小島に隔離。そこで福満は深沙大王に祈願したところ霊亀が現れ、娘のいる小島に導いてくれたという。そのことを知った娘の両親は2人の仲を許し、2人の間に生まれたのが満功上人とされている。
茅葺き屋根の山門をくぐると、境内には本堂のほか慈恵大師(元三大師)像を安置した大師堂、国指定重要文化財の白鳳仏や旧梵鐘を安置した釈迦堂などが設けられている。また、本堂そばの五大尊池は、四季折々の美しさを透明度の高い池が映し出してくれる。深大寺の参道には、にっこりと微笑む恵比寿尊と大黒天の石像も。周辺の自然と相まって、心が休まるひとときとなるだろう。
20軒以上のそば屋で食べ比べも
そんな深大寺で欠かせないのがそば。もともと深大寺周辺の土地は黒ぼく土という土壌からなっており、そば栽培に適していたという。江戸時代から伝わるそばは当時、「献上そば」と称されて一般庶民には手が届かないものだった。しかし、江戸時代後期の江戸文化人であった太田蜀山人をきっかけに文人たちが愛するものになり、「深大寺にそばあり」と広く知られることになったようだ。
今日では20軒以上のそば屋が軒を連ねており、その店によって味わいも様々。茨城産常陸秋そばや北海道の粗挽きそば粉などその時期の素材を用いたそばを打つ「湧水」や、石臼で挽いたそばのほか看板猫でも話題の「大師茶屋」、そして、創業文久年間で現在5代目が腕を振るう「元祖嶋田家」など。お昼時には各店に行列ができるのだが、豊かな自然に囲まれたエリアだからだろうか、待ち時間も苦にならない。
中でも、ボリューム派の人には「多聞」をオススメしたい。そばはプラス150円で中盛り(2人前)、プラス300円で大盛り(3人前)にすることも可能(「多聞そば」は並のみ)。そばの割合が3:7の「深大寺そば」(620円)は、3人前にしても1,000円しない価格設定なのがうれしいところ。少し太めのそばはしっとりしており、のど越しはツルツル。1本1本が長いので、よくばって一気にそばをすくうと、そばつゆに並々とそばが運ばれることになるのでご注意を。
そばスイーツに深大寺ビールも
深大寺のグルメはそばのみならず。周辺には食べ歩きグルメを提供する店が軒を連ねており、名物のそばを生かした「そばまんじゅう」(100円)や「そばクレープ」(350円~)、そして「そばパン」(250円~)までもそろう。そば粉を練りこんだそばパンは、あんや高菜のような定番メニューから、キーマカレーやきんぴらゴボウなどの日替わりメニューまで用意されている。
そのほか、みたらしやごまなどの「団子」(100円~)や、油揚げが入った「きつねサンド」(500円)、揚げ玉とたっぷりのごまを挟んだ「たぬきサンド」(500円)など、ついつい店先で足が止まってしまうグルメがいろいろ。お供には甘酒やコーヒーのほか、 深大寺の湧水と同じ秩父山系の名水で仕込んだ地ビール「深大寺ビール」(520円)をどうぞ。
どこもかしこも妖怪尽くしの空間
深大寺といえば「鬼太郎茶屋」も見どころのひとつ。漫画『ゲゲゲの鬼太郎』の作者である水木氏は深大寺がある調布に50年以上住んでおり、水木氏にとって調布は言わば、出身地である鳥取県境港市に次ぐ第2の故郷的な存在となっている。
その縁で誕生した「鬼太郎茶屋」には、駄菓子屋を思わせるどこか懐かしい内装の「妖怪ショップ ゲゲゲの森」や妖怪たちをモチーフにしたスイーツもある「妖怪喫茶」、また、周辺の自然を満喫できる「癒しのデッキ」に水木氏が描いた貴重な妖怪画などを飾る「妖怪ギャラリー」などがある。茶屋の外には妖怪フォトスポットも設置されているので、深大寺の思い出写真に妖怪たちも加えていただければと思う。
お土産には名物のだるまを
周辺のお土産屋には、そばや煎餅、また、カルメ焼きや綿菓子のようなお菓子も並んでいる。また、深大寺は「日本三大だるま市」のひとつとして全国的にも知られている「だるま市」を毎年3月3、4日に開催しているが、年を通してだるまをそろえたお土産屋もある。
中でも様々な陶芸品が並ぶ「むさし野 深大寺窯」では陶芸体験もやっており、20分で焼き上げてその日の内の持ち帰りができる「らくやきコース」も用意している。100種類以上の素焼きから好きなものを選び、絵付けをして20分焼けば、オリジナル陶器の出来上がり! 料金も箸置き(200円)からと手軽なものもあるので、深大寺を訪れた記念に体験してみてはいかがだろうか。
深大寺を中心とした観光エリア自体はそれほど広くはないものの、参拝してそばを食べ、川のせせらぎや生い茂る緑の木々で自然を感じつつ、スイーツとともに小休止などを楽しんでみると、東京にいながらも十分旅気分が味わえるはず。また、深大寺から歩いて数分のところには、約400品種約5,200株を誇る都内最大級のバラ園を併設した「都立神代植物公園」があるので、1日じっくり遊ぶならばあわせてめぐってみるといいだろう。
※記事中の価格・情報は2015年4月取材時のもの。価格は税込