標高1,300mに位置し地上とは10度以上も気温差のある栃木・那須の奥地に、「奥那須温泉 大丸温泉旅館」という人気の温泉宿がある。200年という長い歴史がある温泉宿で、現在の主人は6代目。那須高原といえば「那須御用邸のある場所」とイメージする人も多いかと思うが、その御用邸へ引湯している温泉と同じ源泉を大丸温泉旅館も用いている。
おもてなしからすでに感動
筆者は常々、温泉宿のおもてなしに関しては客の荷物を運んでくれるかどうかで判断している。というのも、筆者は子供の荷物やカメラ、パソコンなどで人よりかなり荷物が多く、通常の温泉宿では全部運んでもらえることはほぼないのだ。
しかし、こちらの温泉宿では駐車場に自家用車をとめてから客室にたどり着くまでの間、全ての荷物を運んでくれた。加えて、訪れた時が雪だったため、特別に入り口から少し離れた駐車場から温泉宿までほんの数分の距離を温泉宿の車で送迎してくれたのである。また、あいさつなども心地よく、しっかりとした対応で心のこもったサービスを実感した。
連泊したくなるデザイナーズルーム
案内された客室の中へ入ると、しゃれた空間に自然とテンションも上昇。2013年にリニューアルした部屋がいくつかあるようで、取材時に利用した客室がそうだった。和モダンな装飾で部屋全体に統一感があり、機能性も高く居心地がいい。
ベッドの下には竹炭が敷き詰められているらしく、マイナスイオンの発生で安眠できるそうだ。あまりの居心地の良さに、「ここに連泊したいなぁ」と思ったくらいである。滞在中、一番長くいる場所である客室が心地いいと、それだけでも宿泊の半分以上は満足できるような気がする。
川をせき止めた野趣あふれる露天風呂
さて、お楽しみの露天風呂へ。メインである混浴露天風呂「白樺の湯」は、一度に20~30人が入れるほど大きな露天風呂。湯量は豊富というどころではない。川となって流れる源泉をせき止めるようにして露天風呂を造っているので、源泉100%の温泉がザバザバと流れている。
こんなにおしゃれですてきな温泉宿に、こんなに豪快でダイナミックな露天風呂があるなんて誰が想像できるだろう。その他にも、川を何カ所かで区切ってたくさんの露天風呂が造られており、露天風呂をはしごすることができて楽しい。
冒頭でも触れた通り、大丸温泉旅館には那須御用邸へ引湯している温泉と同じ源泉を使用している。「桜の湯」がその源泉だ。そして、大丸温泉旅館には「川の湯」という源泉もある。「桜の湯」は鉄の味と香りがし、「川の湯」はおいしい水といった感じ。どちらもあっさりとした透明な湯で、毎日でも入りたいような湯上がりさっぱりな湯である。
クマザサに囲まれた秘湯感抜群の露天風呂
混浴の露天風呂の他に人気があるのが、女性専用の「山ゆりの湯」。冬季は雪によって閉鎖されるが、クマザサに囲まれた野趣たっぷりの石造りの露天風呂で、秘湯感は抜群だ。足元には玉砂利が敷かれており、踏みしめると足裏が気持ちいい!
入ることができない男性には申し訳ないが、大丸温泉旅館の露天風呂の中で、筆者が一番気に入ったのがこの山ゆりの湯だった。夜、首までとっぷりと浸かって夜空を見上げていると、冷たい風と源泉の流れる音だけが聞こえ、「来てよかったな~」としみじみ思えた。
内湯はというと、男性用は一度に10人ほどが入れる浴槽が2つ並んだ造りで、女性用は一度に15人ほど入れそうな大きな浴槽がひとつ。源泉は勢いよく投入されている。浴槽からザバ~っとあふれ出る温泉を見ていると、なんだか爽快な気持ちになる。温泉宿によってはこの内湯のような浴槽のみで営業されているところが多い中、まるで露天風呂のサブ扱いであるこの内湯は、ぜいたくすぎて感無量である。
メインは栃木黒毛和牛のしゃぶしゃぶ
客室に戻ってみれば、いよいよ夕食である。器も吟味しているようで、色彩がとても美しい。筆者が訪れた時のメインは、地元・栃木の幸「栃木黒毛和牛」のしゃぶしゃぶだった。しゃぶしゃぶ用の土鍋は2つに区切られており、温泉を利用したあっさりしたスープと、醤油ベースのしっかりしたスープの2種類を用意。栃木黒毛和牛の脂身にもしっかりとうまみがあり、口の中でジュワ~っと広がるのがたまらなくおいしい。
なお、こちらは日帰りも入浴も可能で、大人は1,000円、子供(3歳~小学生)は700円となっている。日帰り入浴は日によって営業してない日があるため、できれば事前に電話で確認することをオススメしたい。
"秘湯の温泉宿"というと、ちょっと鄙(ひな)びた一軒宿なことも多い。情緒たっぷりではあるものの、トイレが共同の和式だったり虫に悩まされたりと、なかなか快適さを感じにくいかもしれない。そんな中、大丸温泉旅館は「きれいな客室」だけではなく、「おもてなし」「おいしい料理」「極上湯」がそろった貴重な秘湯の温泉宿である。忙しい日々を忘れて、できればゆっくり連泊していただければと思う。
※記事中の価格・情報は2015年3月取材時のもの。価格は税込
筆者プロフィール: 秘境温泉 神秘の湯 しおり
自然そのままの野湯から高級旅館まで温泉が極上であればどこまでも行く温泉マニア。1,000湯以上入湯した中から選りすぐった温泉を紹介する「秘境温泉 神秘の湯」を運営している。