予算交渉の中で「本国投資法第2弾(HIA2)」が検討される可能性

米国で、これから2016年度(今年10月からの1年間)予算の交渉が徐々に本格化する。為替相場の観点から興味深いのは、政府のデットシーリング(債務上限)が最終期限とされる今年10-11月までに金融市場に波乱をもたらすことなく引き上げられるかという点だ。加えて、予算交渉の中で本国投資法第2弾(HIA2, Homeland Investment Act 2)が検討される可能性があることにも注目だ。

オバマ政権は2月に予算教書を発表。その中で、国際的にみて高い法人税率(現在35%)を28%(国内製造業は25%)へ引き下げ、その財源として米企業の海外利益へ課税することを提案している。海外利益に対して19%で課税し、それらが国内に還流しても追加課税をしない。現行では、海外利益に対して非課税、それらが国内に還流する場合に国内の法人税35%が課される。

また、過去に海外で留保した利益に対して、1回だけ14%の課税で国内還流を認める方針だ。海外留保利益は2兆ドル超といわれている。予算教書では、2016年度だけで346億ドル、2016年度からの6年間に2,680億ドルの税収を見込んでいる。単純に税率14%で逆算すれば、2016年度に2,500億ドル、6年間で1.9兆ドルの海外留保利益が国内に還流する計算だ。

HIA1によって、2005年には3,000億ドルの資金が国内に還流

本国投資法第1弾(HIA1)は2004年10月に、共和党のブッシュ政権下で成立した。国内還流利益に対する税率を1回だけ35%から5.25%へ大幅に引き下げるもので、2002年までの5年間のうち最大・最小を除く3年間の利益が対象。軽減税率が適用されるのは、国内投資目的での還流利益に限定された。

NBER(全米経済分析局)の分析によれば、HIA1によって、2005年には3,000億ドルと、その前5年間の平均である600億ドルをはるかに上回る資金が国内に還流したとされる。国内に還流した資金のうち、外貨からドルへの交換がどの程度発生したかは不透明だ。ただ、2005年は米国が利上げ局面だったこともあって、為替相場はドル高基調で推移した。HIA1に相応のドル押し上げ効果があったと推察できる。

NBER(全米経済分析局)ホームページ画面

もっとも、現段階ではあくまでもオバマ政権の提案に過ぎず、議会がそれを立法化する必要がある。議会の多数派である共和党にとって、法人税の引き下げとセットになっていることで受け入れ易いかもしれない。ただ、共和党が税率の一段の引き下げを求めたり、交換条件を出したりする可能性は十分にある。その場合、交渉は難航が予想されるし、状況次第でHIA2が日の目をみないケースもありうるだろう。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。