一部では世界最強の戦略コンサルティングファームと言われることもあるマッキンゼー&カンパニー。その卒業生には大前研一、勝間和代、南場智子といった著名人も多く、「マッキンゼーはスーパーエリート排出集団」といったイメージを持っている人も少なくないのではないだろうか。
マッキンゼーの平均在籍期間は3年~5年程度だと言われているが、これは日本の一般的な企業の在籍年数に比べるとかなり短い。そんなに短い期間なのにも関わらず、なぜマッキンゼーは各方面で活躍できるエリートをこんなにも多く排出することができるのだろうか。もちろん、はじめから優秀な人でなければマッキンゼーには入れないという理由もあるのだろうが、必ずしもそれだけではないだろう。マッキンゼーに入社することで叩き込まれる仕事術やマインドセットに、「エリートを創りだすための何か」が存在している可能性は否定できない。
そんなマッキンゼー流の仕事術やマインドセットを、マッキンゼーに入社することなく、一冊の本で学ぶことができるとしたらどうだろうか。今日紹介する『マッキンゼー流入社1年目問題解決の教科書』(大嶋祥誉/SBクリエイティブ/2013年4月/1300円+税)は、それに近い本だと言えるかもしれない。本書は、マッキンゼー卒業生である筆者が、マッキンゼー入社時に受けた新人研修プログラムを土台として、マッキンゼー流の仕事術やマインドセットを「誌上Boot Camp」として解説したものだ。さすがにマッキンゼーに実際に入社するのと同じだけの効果を本だけで得ることはできないと思うが、様々なビジネスに応用可能な問題解決手法を効率よく学ぶことができるのは魅力的だ。
マッキンゼー流の仕事哲学を知る
マッキンゼー流の問題解決手法といえば、真っ先に「3C」(=Customer、Competitor、Company)のフレームワークや「ロジックツリー」による網羅的な検討などを思い浮かべる人がいるかもしれない。もちろん、本書でもこのようなフレームワークについての解説はされている。もしこのような内容を他のビジネス書などで読んだことがないという人がいたとしたら、本書ではなかなかコンパクトに要領よくまとまっているのできっと役に立つことだろう。
もっとも、本書の真価はもう少し別の部分にあると僕は思う。本書では、ビジネスフレームワークのようなテクニックをただ紹介するだけでなく、マッキンゼー流のマインドセットについてもページを多く割いている。マッキンゼーのコンサルタントは体力的にも精神的にも激務だと言われているが、なぜ彼らがそんな強いプレッシャーに晒されているのかは、UP or OUT(バリューを出し続けるか、出て行くか)といった厳しいカルチャーや、Client interest first(顧客第一主義)といった哲学を知ることではじめてよく理解できる。実際に自分が真似をするかはともかく、マッキンゼーのエリートが崇高な仕事哲学の下で働いているということは、知っておいてもよいかもしれない。
つねにSo What?(だから何?) Why So?(それはなぜ?)を考える
本書で解説されているマッキンゼー流の思考のエッセンスを抽出するならば、つねにいかなる時も「So What?」(だから何?)、「Why So?」(それはなぜ?)といった深堀りを怠らないという点に集約されるだろう。
たとえば、「新商品の売れ行きが悪いorいい」という状況に接した時、そこで思考を止めてしまう人は実際には多い。しかし、それでは何のネクストアクションにもつながらないし、状況を変化させて新たな価値を生み出すことはできない。ある事象にぶつかった時に、その原因・結果をSo What?/Why So? と一歩踏み込んでさらに深堀りすることは、マッキンゼーで仕事をするに限らず重要なことである。そのような思考の癖をつけるための最初の一歩として、本書を活用してみるというのもいいかもしれない。
あとは実際に読んだ内容を実行できるか
本書を読んでマッキンゼー流の仕事術を体得したいと思うのであれば、本書を単に読むだけでなく、書いてあることを実際に実行できなければならないだろう。座学だけで学べることは限られている。あとは実際に自分の仕事で使ってみて、それではじめて学んだものは自分の血肉になっていく。
そういう意味で、本書の誌上Boot Campを終えた人のネクストステップは、それを自分の仕事に取り込んでみるということになるはずだ。これは結構大変なことかもしれないが、マッキンゼー流の仕事術を身につけたいと思う人には、ぜひ挑戦してみてほしいと思う。
日野瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。