あまりに身近にあった宝

レイク・テカポの星に魅せられたEarth&Sky代表の小澤英之さん

世界遺産への取り組みの最前線にいるのが、実はレイク・テカポで星に魅せられた日本人の小澤英之さんである。小澤さんはレイク・テカポでEarth&Skyを起こし、星空鑑賞ツアーを実施している。

「私が『この星空を世界遺産にしたい』と言った時、地元の人に笑われてしまいました。地元の人にとってはあまりに身近にありすぎて、これが世界に誇れるニュージーランドの宝であることを自覚できなかったんだと思います。現在、世界遺産に向けてユネスコへの取り組みとともに、地元の人への働きかけをしているところですが、地元の人の中では世界遺産への取り組みに対して賛否が分かれています」

「というのも、世界遺産になれば今よりももっと多くの観光客が街を訪れるというメリットがありますが、星空鑑賞のために光の制限が必要なため、ビジネス的にはデメリットになりえます。市民の協力なしでは世界遺産は夢のまままです。どのようにすれば地元の人にもメリットを感じてもらえるのか思案しながら、私たちはレイク・テカポの星空を見守っています」(小澤さん)。

そんな小澤さんにもっとも星空鑑賞に適した時期はいつなのかうかがってみた。そもそも日本とニュージーランドは季節が逆であり、ニュージーランドでは12月~2月が夏、3月~5月が秋、6月~8月が冬、9月~11月が春となっている。小澤さんの感覚では、夏だと8割程度、冬だと6~7割程度の確率で星空鑑賞に最適な空に恵まれるという。ただ、満天の星を狙うなら冬の方がベストだそう。

つまり、何日かレイク・テカポに滞在できるのであれば、冬にトライしてみるといいだろうが、限られた時間の中でレイク・テカポに訪れるなら、夏の方が星空に遭遇できる確率は高いようだ。ちなみに、「1日の中に四季がある」と言われるほど、ニュージーランドは1日の気温差が激しい。夏でも夜になると5度くらいまで下がる場合もあるので、しっかりとした防寒対策は必須だ。

南十字星にオーロラも!

今回筆者は1夜だけの滞在でレイク・テカポを訪れたが、残念ながら空には雲が残っており、満月に近い頃だったため月明かりが強い夜となった。とはいえ、月が沈んで太陽が昇る4時15分~4時45分の間、雲が消えていることを願いながら鑑賞したのが下の写真である。「善き羊飼いの教会」の上に昇ったオリオン座は、北半球にある日本とは逆転して見える。

あまり好条件ではなかったが、オリオン座と教会のコラボが撮れた

ニュージーランドで見られる星といえば、南十字星(サザンクロス)である。南十字星は全天88星座の中で一番小さな星座であり、大航海時代以来、南極星を探すのに使われてきた。ニュージーランドでは地平線に沈むことなく、一年を通して南極星を見ることができる。

ちなみに、ニュージーランドの国旗には4つの星で作る南十字星が描かれているが、オーストラリアやサモア、パプアニューギニア、ブラジルの国旗には5つ目の星も描かれている。また、南半球から肉眼で見ることができる小さな銀河「マゼラン雲」や、天の川(ミルキーウェイ)もぜひチェックしておきたい。

国旗にも描かれている南十字星(提供: Maki Yanagimachi/Earth&Sky)

マウントジョン展望台から捉えた天の川(提供: Earth&Sky)

さらに、レイク・テカポでは運が良ければオーロラも見ることができるという。淡い光のオーロラは現れる時間も気ままなため、夜の長い冬の方がチャンスが大きいと言える。ちなみに、北半球で見られるオーロラは「Aurora Borealis(northern lights)」、南半球で見られるオーロラは「Aurora Australis(southern lights)」と呼ばれている。

オーロラは上空200km以上では赤色を、200km~100kmの間では緑色の光を発する(提供: Earth&Sky)

山脈に囲まれた情緒ある街で、冷たい風を受けながらのんびり夜空を見上げる。ただそれだけでもロマンチックなのだが、そこに満天の星が広がっていたら、「これを世界遺産に!」と思わずにはいられなくなるかもしれない。

※1NZドル=91.9円で換算。記事中の価格・情報は2014年12月取材時のもの